しょうせつ

『……え、何?紅桜の次は人類コナン化計画?
 ホント下らない事にお金使うよねー晋助。』

アタシは目の前にいる7歳くらいの少年(若干見覚えがある)の姿に、
平常心を保とうとして隣にいた晋助に向かって冗談でこう言った。
すると珍しく晋助も動揺しているのか、
目をガバッと見開いたまま「俺じゃねぇよ」とだけ呟く。

『あら、じゃあ河上さんのご子息?随分お父さん似なのねー。』

アタシが目線を合わせるために少年の前にしゃがみ込み、
よしよしと頭を撫でてあげると、少年はイラッとした様子でアタシの手を振り解いた。

「!拙者が以外の女と子供を作るわけないでござろう!」
『あらあらホントにこの子ったら、言う事までお父さんそっくりなんだから。』
「だから違う!」

少年らしい高めの声でそう叫んだ彼は、悔しそうに地団太を踏んで言葉を続けた。

「拙者は正真正銘、河上万斉でござる!」

声高らかにそう言い放った少年を見て、アタシと晋助は同時に顔を見合わせた。
そしてしばらく見詰め合った後、ゆっくりと少年の顔を見る。

『あ、もしかして武市先輩の連れ子?
 ちょっとー、同姓同名が居たらややこしくなるじゃないの。』
「変平太にきつく言っておかねぇとな。連れ子を勝手に船に入れるなって。」
「だから違うと申しておるだろうがー!!!」

怒ったようにジタバタとその場で地団太を踏む少年は、
信じたくないけど本当にあの河上万斉であるようだった。
一体何がどうしてこうなった。
アタシ達はまたどちらからともなく顔を見合わせ、そして同時に頭を抱えた。

「とりあえず、変平太とまた子呼んで来い。作戦会議だ。」
『え、アタシが呼びに行くの?』

何となしにそう尋ねたアタシを睨みつけ、晋助はミニ万斉を指差した。

「コイツに艦内を走り回らせる気か?」
『いえ、行って来ます。』

そんな事させたら鬼兵隊が大パニックになる。
アタシは素直に頷いて、武市先輩とまた子ちゃんを呼びに行く事にした。





「どえぇぇぇ!?これがあの万斉先輩ィィ!?」

いつも会議に使っている部屋で2人とミニ万斉をご対面させると、
面白いくらいに予想通りの反応が返ってきた。
また子ちゃんは信じられないと言った様子でミニ万斉をまじまじと見つめ、
武市先輩は興味深そうにミニ万斉を眺めている。

「ほぅ、実に私好みの……いえ、大変な事になりましたねぇ。」
『武市先輩、この子の半径4メートル以内に入らないで下さいね。』

ミニ万斉の身の危険を感じたアタシは武市変態からミニ万斉を引き離す為、
その小さな腕を自分の方に引っ張ってミニ万斉を抱きしめた。
するとミニ万斉は一瞬驚いたように身を強張らせたが、
すぐに安心したのかアタシの背中に腕を回してギュッと抱きついてきた。

その行動が本物の子供みたいで、何とも言えず可愛いなぁ、なんて思っていたら、
突然ミニ万斉が「ぐふふ、」と気持ち悪い笑い声を出したので、
アタシの笑顔は一瞬にして消え去った。

「が自ら抱擁してくるなど……
 小さくなったのもあながち悪いことではござらんなぁ。」
『えっ、いやっ、ヤだ!』
「こうして見ると、の胸もなかなかの大きさでござる。」
『ヤだ!ちょ、いやぁー!!コイツ気持ち悪いぃぃ!!』

ハァハァ言いながらアタシの体に擦り寄ってくるミニ万斉が
もう子供ではなくただの変態にしか見えなくなって、
アタシはあまりの恐怖に大声で悲鳴をあげた。
すると呆れた顔の晋助がミニ万斉の頭を思いっきり煙管で殴り、
どうにかこうにかアタシは変態万斉(小)の魔の手から救出されたのであった。

『はぁ……はぁ……怖かった……。』
「大丈夫ッスか、。」

また子ちゃんに介抱されているアタシの隣では、
変態万斉(小)が上目遣いで「大丈夫か?」と尋ねてくる。
その姿があまりにも可愛らしくて、
思わずさっきのことを忘れて万斉に抱きつきたい衝動に駆られる。
しかしアタシは思いとどまった。
だってさっきの万斉本当に気持ち悪かったんだもん!

「で?テメェはどうしてそうなったんだ?」

晋助はそう言って睨み合っている変態万斉(小)とまた子ちゃんを見た。
また子ちゃんはアタシを変態万斉(小)の魔の手から守ろうと
万斉の前に立ちはだかってくれている。
そして万斉もどうにかしてアタシに近づこうとまた子ちゃんを睨みつけていたが、
晋助の質問に一旦戦うことを止め、目線を晋助に向けた。

「それが拙者にもよく分からんのでござるよ。
 朝起きたらすでにこの姿になっていたでござる。」

ミニ万斉が冷静にそう言えば、武市先輩がどうしたものかと顎に手を当てた。

「何か変なものでもお食べになったんじゃありませんか?」
「最近はここの食堂の食事と現場の弁当しか口にしておらん。」
「現場の弁当に毒でも盛られたんじゃないッスか?」
「嫌なこと言うなでござる……。」

万斉を見下ろしながら言ったまた子ちゃんに、万斉が困ったような顔をした。
そして話を聞いていた晋助も武市先輩も、お互いに顔を見合わせて頭を抱える。

「困りましたねぇ。原因が何か分からないのでは対処のしようがありません。」
「万斉が抜けるとなると、ウチの戦力にも穴があくしな。」
「拙者は当分このままでも構わんでござる。」

万斉を元に戻そうと頭を悩ませている2人に対し、
ミニ万斉はあっけらかんとそう言ってその場にいた全員を驚かせた。

『アンタ何言ってんの?そのままじゃ色々と不便でしょうに。』
「そうでもないでござる。」

万斉はそう言うとテテテッ、とアタシの方に駆け寄ってきて、
あぁ歩き方もぎこちなくて可愛い、なんて思っていたアタシに突然口付けた。

『んっ!?』
「え!?」
「おやおや。」
「…………。」

その行動に全員が呆気に取られる中、
万斉は嬉しそうに微笑んでアタシにこう言い放った。

「この姿だとに何をしても許されるでござろう?」

その「何を」にも限度があるぞ、と言ってやりたかったけど、
万斉の可愛らしくてあどけない笑顔に、
なんかもう怒る気も反論する気も失せてしまったのは紛れもない事実だった。




体は子供、頭脳は変態

(ふふふ……これでにイタズラし放題でござる) (なんてタチの悪い子供でしょう……) (見るッス!この悪い顔!) (あぁでもやっぱり可愛いのよねぇその万斉……) (もう勝手にしろ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 仔万斉シリーズ、開幕です! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/16 管理人:かほ