『アタシ万斉に優しくするね。』 そう言ってストローでオレンジジュースを飲み始めたさんに、 その場に居た全員が自分の耳を疑ってさんの顔を見た。 するとさんはそんな私たちの反応は予想の範疇だったのか、 『あ、もしかして信じてない?』なんて余裕の対応だ。 「えぇっと……その言葉前にも聞いた気がするんスけど……。」 隣でリンゴジュースを飲んでいたまた子さんが控えめにそう言えば、 さんは『あら、そうだっけ?』と穏やかに微笑んだ。 その優しい微笑みが普段のさんとかけ離れ過ぎていたので、 私は瞬時に“この人は何かを企んでいる”と悟った。 「なんだお前、この間の万斉の反応がそんなにハマったのか?」 また子さんの隣で抹茶を飲んでいた晋助さんが、 (いや、正確にはまた子さんが無理やり晋助さんの隣に座ったのだが、) さんの突然の発言に驚くでもなくただ不思議そうにそう返したのを聞いて、 私とまた子さんは同時に晋助さんの顔を見た。 「何スか晋助さま、その反応って。」 「一体お2人の間に何があったんです?」 私とまた子さんが尋ねると、晋助さんはズズズ、と抹茶を飲み干してから口を開いた。 「この間の真選組の動乱の時になァ、が珍しく万斉に優しくしてやったんだよ。 その時の万斉の反応が相当可愛かったらしくてなァ。」 『だって晋助も見たでしょ!?あの万斉の上目遣い! グラサンぶっ壊してちょっと優しくしてあげたらあの顔が見れるのよ!? むちゃくちゃ可愛いじゃないの!』 「グ、グラサンはぶっ壊すんスね……。」 「それは果たして優しくしているんでしょうか……。」 色々疑問はあったものの、とりあえずあのスーパードSなさんが 自ら万斉さんに優しくすると決めたらしいのであえて深くはツッコまなかった。 万斉さんとさんが一度喧嘩を始めると我々にも被害が及ぶ。 この2人が仲良くしているのであればもう何でもいいと思う。 「。」 噂をすればなんとやら。 食堂の入り口から脇見もせずに一直線にさんの元へやってきた万斉さんに、 その場に居た全員が「おっ、」と胸を躍らせた。 さんが万斉さんに優しくしているところは今まで片手で足りるほどしか見たことがない。 そんな貴重な様子が見られるかもしれないという期待があったからだ。 しかし、その期待は万斉さんの次の一言で見事に打ち砕かれることとなる。 「、最近ご無沙汰でござる。今日は拙者の下で足掻いてもらうぞ。」 その一言でさんのイライラゲージが一気に満タンになってしまったようだった。 さんは先ほどまでの微笑みを捨て去り、 眉間にしわを寄せながら万斉さんを睨み付けた。 『コイツ……優しくしようと決めた瞬間コレか……。』 「万斉先輩……。」 「今のは万斉が悪い。」 哀れみの目で万斉さんを見つめるまた子さんと、 煙管をふかせながらキッパリ言い放った晋助さんの反応に、 万斉さんが理解できないとでも言いたげな様子で首を傾げた。 「一体何の話でござるか?」 我々の顔をきょろきょろと見ながら尋ねる万斉さんに、 晋助さんもまた子さんも、そして私も、思わず顔をさんに向けた。 そんな我々の反応を見て万斉さんも顔をさんに向ける。 するとさんは相も変わらずオレンジジュースをズズズとすすりながら 「んー、あのねぇ、」とのんびりとした声で返事をした。 「アタシが性感染症にかかっちゃったって話。」 「「え?」」 「何ィ!?」 食堂中に万斉さんの叫び声が響いたが、 鬼兵隊の面々は一瞬驚いたように我々の方を見ると 「あぁまたさんと万斉さんか」とでも言いたげな顔で すぐさま自分達の会話へと戻っていった。 「、それは真でござるか!?」 さんの突然の法螺話に呆れ果てる我々をよそに、 万斉さんは至極真面目な顔をしてさんに詰め寄った。 するとさんはそんな万斉さんの反応をいつものようにゆるゆると受け流す。 『うん、まことまこと。だから完治するまでヤれないの。ゴメンね万斉。』 「お主、拙者以外の男と寝るとは何事だ!!」 『いやいや、血液感染だから。ちょっと痛い放して。』 「!!」 万斉さんはとうとうさんの両腕をガッチリと握り締め、 あとちょっとでさんを押し倒してしまうのではないかという体勢になっていた。 そんな万斉さんをうっとうしそうな目で睨み付けるさんだったが、 元はと言えばいきなり性感染症とか言い出したさんが悪いと思うので、 私も晋助さんもまた子さんも口出しはせずに2人の様子を見物することにした。 「、本当に拙者以外の男とヤったわけではないのだな!?」 『本当だってば。アタシがそんな尻軽女に見える?』 「見えん!!拙者にもなかなか股を開かんお主が!!」 『あんたホントいちいち癇に障るわ……。』 いつも一言多い万斉さんの返答に、さんの眉間にしわがよる。 『まぁそういうことだから、アタシとヤるのはしばらく諦めて――。』 「分かった!!」 いきなりそう叫んだかと思えば、万斉さんは瞬時にさんの両腕を解放し、 一瞬にしてさんをお姫様抱っこしてその場にズバッと立ち上がった。 それはあまりにも突然すぎる出来事だったので、 いきなり抱き上げられたさんを筆頭に、 食堂に居た鬼兵隊隊士全員が口をあんぐりと開けて万斉さんを見つめている。 我々も例外ではなく、さんの隣に座っていた晋助さんやまた子さんも、 何かが吹っ切れたような顔で悠然と立っている万斉さんを間抜けな顔で見上げていた。 「、拙者はお主を見捨てたりしないでござる。」 『は?』 「性感染症など攘夷志士に比べれば造作もない! 今から一発しけこんで、2人一緒に治療すればいいだけのこと!!」 『へっ!?』 凡人には到底予想できない万斉さんの思考回路に、 やはりその場に居た全員がド肝を抜かれてしまった。 万斉さんをからかって遊んでやろうと思っていたであろうさんですら、 予想できない新たな分岐ルートに必死でキャンセルボタンを押しまくっているのが見てとれる。 そんな我々の反応などお構いなしで、 さんと共に闘病生活を送る決意を(なぜか)してしまった万斉さんは ザッとその場で踵を返し、一切の迷いなく食堂の出口へと歩いていってしまった。 その時点でキャンセル不可を感じ取ったのか、さんが電源ボタンを連打した。 『きゃああぁぁぁ!!!!嘘だって嘘だって!! アタシ性感染症なんかじゃないからぁぁ!! ちょっ、まっ、晋助ぇえぇ武市さんんん助けてぇぇぇ!!!!』 普段のさんからは想像も出来ないその必死な様子に、 私と晋助さんは慌てて万斉さんを追いかけた。生半可な覚悟で変態を相手にしてはいけません
(はぁっ……はぁっ……!) (が笑えぬ冗談を言うからでござるよ) (う、うん……身に染みて反省した。ホントごめん……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ うん……最低すぎるって反省してる……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2013/03/22 管理人:かほ