しょうせつ

その日は家と結野家の年に一度の話し合いの日で、
家の今年の予定表を見ながらわし等結野衆が
あぁしろこうしろと助言をするという大切な日であった。

結野衆が家の信頼を得続けるためには、
今日という日に最高の頑張りを見せねばならない。
一族全員がこの日に全てをかけているし、
わしだって頭目として家の主人に最高のもてなしをする予定じゃ。

しかし、もしも1つだけ願いが叶うならば、
だけは様と一緒に来て欲しくはなかった。
それは何故か、じゃと?
そんなもの決まっておる。何故なら……。

『道満久しぶりー!元気やったぁ?』
「あ、当たり前だ。いちいち聞くな、そんな事。」
『だって心配やってんもん。
 アタシが一人前になる前に病気とかされたら困るし。』
「……心配せずとも、お前を娶って元気な子を授かるまで俺は死なん。」
『……っ!そっか!嬉しいー♪』
「お、おい!抱きつくな……!!」

「…………。」
「晴明様、アイツ等殴り倒してきていいでござんすか?」
「ならん。一応我等の主じゃぞ。」
「じゃあ道満だけでもブン殴ってきていいでござんすか?」
「それもならん。の機嫌を損ねれば様に何を言われるか……。」

そんなことを言いながら外道丸を止めているわしじゃが、
正直腹の中はイライラで煮えくり返っていたりする。
が来るといつもこうじゃ。
必要以上に道満にベタベタデレデレ……。
道満も道満で、にツンツンデレデレしおって、だらしない。

幼い頃からなにかと道満に構っているとは思っていたが、
まさかこんなバカップルにまで発展しようとは……。
いくら予知の才能があろうとも、
親しい人間の恋愛事情まではなかなか把握出来んものじゃ。
まさに、灯台下暗しじゃな。

「、何してんのぉ、はしたない。今日は結野家と話し合いに来たんよ?
 いつまでも分家はんにベタベタしとらんと、しゃんとしぃ。」
『だって母上、江戸に来るやなんて、一ヶ月に一回あるかないかなんですよ?
 いくらあと一年したら結婚する言うたかて、寂しいやないですか。』

家の主人である様がを注意すれば、
はまだ道満に抱きついたまま膨れっ面でそう反論した。
これには言い返す言葉が見つからなかったのか、様が困った顔をする。

「、あまり母上を困らせるな。」
『だって……。』
「あと一年したら嫌でも毎日会うことになるんだ。それまでの辛抱だろう?」
『むぅ……。』

道満の言葉に、は渋々道満から離れた。
しかし、まだその場を動こうとはしない。
それどころか、さっきよりもさらに不満そうな顔をして、
じっとその場で俯いていた。

そんなの様子にため息をつき、
道満は目線をに合わせるように屈み込んだ。

「寂しいのはなにも、お前一人だけではないんだからな。」
『……!道満……。』

小さな子供に言い聞かせるように、頭を撫でながらそう言う道満に、
は顔を少し赤くして驚いたような、嬉しそうな顔をした。

『そ、そうやんな……ごめんなさい。アタシ、もうちょっと我慢する。』
「道満、よぉ言うてくれました。ほんにおおきに。」
「い、いや……。」

様にそう褒められて、道満は若干照れながら姿勢を戻す。

「じゃあ、行きますえ。」
『はーい。じゃあ道満、また後で。』

がちょっと寂しそうに、しかし笑顔でそう言えば、
さっきまで冷静な顔を保っていた道満が急にしおらしい顔になった。

「いざ行ってしまうとなると……やはり寂しいな。」

そして苦笑しながらこんな事を言うもんじゃから、
の萌えパラメーターが一気に振り切れてしまい、
自体は振り出しに戻ってしまった。

『かーわーいーいー!!!!ごめんな、寂しいよな!
 もぉどこにも行けへんからそんな泣きそうな顔せんとってー!!』
「なっ!?別にそんな顔しておらん!!放せ!」
「!!道満!!アンタ等ええ加減にせんと怒るで!?」

こうして、結野家と家の会議は
いつも予定よりも3時間遅れて開始することになってしまうのであった。




学習しない陰陽師(とその)

(晴明様、道満の寝込みを襲えば様は泣くんじゃありやせんか?) (外道丸……お主さっきからを泣かせようとしとったのか?) (はい。だってあっし、外道ですから) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ほのぼのとした道満夢が一番書きやすいことに気づきました。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/05/04 管理人:かほ