しょうせつ

「お兄ちゃん、ちゃんが来てるわよー。」

私がそう声をかけると、お兄ちゃんが猛スピードで自室から出てきた。
そして私たちが居る所へ駆け寄ってきた瞬間、ものすごーく嫌な顔をする。

「……道満、何故貴様まで居るんじゃ。」
「当たり前だろう。俺はの婚約者なんだからな。」

道満君はそう言いながらイラッとするどや顔でお兄ちゃんを見た。
もちろんお兄ちゃんはこめかみに青筋を立てて道満君と睨み合っている。
そんな2人に挟まれたちゃんは、
またかと言いたげな表情で大きく溜息を吐いた。

『ちょっとちょっと、喧嘩は勘弁してやー。』
「!!そんな男との婚約など破棄するんじゃ!!」
「何!?!俺を殺す気か!?俺はお前なしでは生きていけないぞ!!」
『そんなん胸張って言うことちゃうやろ!?
 晴明も、アホなこと言わんといて!アタシは道満と結婚します!』

好き勝手な事を言う2人に、
ちゃんは凛とした態度でピシャリとそう言い放った。
その言葉に道満君は顔を真っ赤にしてそっぽを向き、
お兄ちゃんはさらに怖い顔になって口元をひくひくと痙攣させていた。
ここまではいつも通りの光景ね、と私は小さく微笑んだ。

「ちゃん、お兄ちゃんに渡すものがあったんでしょう?」
『あっ、せやったせやった。はい晴明、バレンタインのチョコレート。』

ちゃんが持っていた袋をお兄ちゃんに差し出すと、
お兄ちゃんはちょっと嬉しそうな顔をしてそれを受けとった。

「毎年すまんな。」
『んーん、別にええよ。結野家にチョコ持って来たついでやし。』

ちゃんは何の悪気もなくそう言ったんだろうけど、
ついでという言葉に、お兄ちゃんがガクッと肩を落とした。
そしてちゃんの隣では道満君が勝ち誇ったような顔をしている。

結野家にチョコを持って来たというのは、
家から結野家にチョコを持って来たということ。
ちゃんの実家・家は昔から結野家が仕えてきた京都の大富豪。
だから毎年家からウチにチョコレートが送られてくるのだ。
きっとちゃんがさっきお兄ちゃんに渡したのも、その中の一つだろう。

ちなみに、巳厘野家は家の分家に仕えている。
だから本来ならばお兄ちゃんがちゃんと結婚するはずだったんだけど、
ひょんなことからちゃんが道満君と恋仲になってしまい、
お兄ちゃんの初恋(自称)は見事に崩れ去ってしまったのだ。
道満君とお兄ちゃんの仲が悪くなったのは、その時からだったなぁ。

「様、この陰険男には何をお渡しになったんでござんすか?」

私が昔の事を思い出していると、突然廊下の端から声がした。
振り返ってみると、そこにはちゃんに頼まれて
結野家の皆にチョコ配りをしていた外道丸の姿があった。

「ちょっと待て外道丸、陰険男とは一体誰の事だ?」
「あっ、すいやせん。つい本音が。」
「貴様……!!」

反省の色を見せない外道丸に、道満君が怖い顔で外道丸を睨みつけた。

『まぁまぁ道満、アタシは全然陰険なんて思ってないから。』
「……。」
『ただちょっとメンドくさい性格してるかな。』
「ちゃん、フォローするならちゃんと最後までフォローしてあげて。」

私がそう言うも時既に遅く、
道満君はその場にしゃがみこんで完全に落ち込んでしまっていた。
まぁこれもいつも通りの光景なので、
私たちは呆れた顔で溜息をつくだけで特にフォローはしなかった。

「で、様。この男には何を渡したんでござんすか?」
『あぁ……えぇっと、別に普通やけど……。』

外道丸の問いに、ちゃんはちょっと顔を赤らめて言葉を続けた。

『て、手作りの……ガトーショコラ……。』
「まぁ素敵っ!ちゃん可愛い♪」
『かっ、可愛いとか言わんといてや!』

私が褒めると、ちゃんは顔を赤くして私の言葉を否定した。
こういう女の子らしさを隠したがってるところも可愛いのよねぇ。
私はいつの間にか復活していた道満君にまた「可愛い」と言われ
今度こそ本当に顔を真っ赤にして照れているちゃんを見てふふ、と笑った。

「様の手作りガトーショコラを受けとったんでござんすから、
 勿論それなりのお返しは考えてるんでござんしょうね、道満様?」

外道丸が道満君に向かってニヤリと意地悪な笑みを浮かべながら言えば、
道満君は待ってましたと言わんばかりに「フフフ……」と笑い出した。

「心配せずとも、ドデカいお返しを考えておるわ。」
『えっ、そうなん?初耳やぁ。』
「もし良かったら何を渡すのか聞いてもいい?」

自信満々の道満君にちょっとワクワクしている私とちゃん。
そんな私たちとは裏腹に、お兄ちゃんと外道丸はどこか気に食わなさそうだ。
それぞれ思い思いの表情をしている4人を前にして、
道満君はこれまた自信満々に、どや顔で堂々とこう言い放った。

「ホワイトデーにはに指輪を贈るつもりだ!」

その言葉に、ちゃんが『えっ!?』と驚いた声を出した。

『ゆっ、指輪!?』
「あぁ。結婚指輪だ。」

道満君がそう言うと、ちゃんはまた顔を真っ赤にした。

「道満、貴様本気か!?」

ちゃんと同じくらい驚いているお兄ちゃんがそう尋ねると、
道満君は平然とした顔で「当たり前だ」とキッパリ答えた。

『でっ、でもっ、そうなったらウチに挨拶に来んとアカンのやで?』

頬が赤く染まっているちゃんが困ったようにそう問いかけると、
道満君はちゃんの顔を見ながら恥ずかし気もなく言葉を返した。

「家に分家筋の俺が行くのは多少勇気が必要だが、
 を嫁にもらうためなら致し方あるまい。」
『でっ、でもっ、結婚したら跡取りの問題が……。』
「家にはお前の弟が居るだろう。
 あとはお前に巳厘野家の跡取り息子を産んでもらえばいい。」
『でっ、でも……!!』

照れまくっているちゃんはオロオロと言葉の続きを考えているが、
どうにも頭が回らないらしく、やっぱり依然オロオロとしていた。
そんなちゃんの反応に、道満君が少し不安そうな顔をする。

「……俺と結婚するのは嫌か?」

まるで母親に叱られた子供のような表情に母性本能がくすぐられたのか、
ちゃんは傍目から見ても分かるほどキュンッとした顔をして
少し背の高い道満君にガバッと抱きついた。

『そんなわけないやんかー!もぅ!道満可愛いー!!』
「なっ!?っ、抱きつくな!」

ちゃんに抱きつかれ、今度は道満君が顔を真っ赤に染め上げた。
全くこの夫婦は、どっちも純粋で可愛いんだから♪




永遠に続く甘い道

(道満可愛いー!カッコ可愛いー!) (かっ、可愛いとはなんだ、可愛いとは!) (これは完全にお兄ちゃんの負けね) (フンッ。3年後にはどうなっておるか分からんわ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 道満って相当母性本能くすぐられるよねって話。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/27 管理人:かほ