「何ィ!?お主、道満と正式に婚約を!?」 『そうやでー♪』 家の従者たちを従えてが久々に江戸にやってきたかと思ったら、 は何も言わずに結野家と巳厘野家の人間を集め、 そこで皆にこの度道満と結婚することになったと言い出した。 この2人が親密にしていた事は知っていたが、 まさか結婚すると言い出すなんて思ってもみなかったわし等は のこの発表にド肝を抜かれ、 開いた口が塞がらない者も居れば道満を睨みつける者まで実に多様な反応を示した。 「ということは、家の許可は降りたのだな?」 『そうそう。あとはアンタ等が許可してくれれば正式に婚約成立やねん。』 「そ、そうか……!」 微笑みかけるに対し、道満は顔を赤く染めて嬉しそうにそう言った。 そんな道満の後ろでは、巳厘野家の人間が真っ黒な衣を涙で濡らしている。 分家の従者である巳厘野家にとって、本家のとの結婚は願ってもないことだろう。 それなくともわしが天才すぎるせいで今まで結野家と比べられ、 巳厘野家は衰退の一途を辿りかけていたのだ。 本家の人間と結婚すれば、巳厘野家の将来も安泰というものだ。 しかし、本家のご令嬢であると、 頭目と言えど分家の従者である道満との間には身分差が大きすぎるし、 何より結野家の者どもが黙っているとは思えんが……。 「我等は断固反対します! 様は本来ならば晴明様とご婚約されるはずでしょう!」 「そうです!何故よりにもよって巳厘野家の頭目と!」 「結野家はこの結婚に全力で反対します!」 わしの予想通り、結野家の人間が声をそろえて今回の結婚に反対し始めた。 まぁ確かに、本家に仕えている結野家の頭目であるこのわしが、 本家・家のご令嬢であると結婚するはずだったのは事実だ。 しかしと道満の仲の良さは近くに居たわしが一番よく知っているし、 正直このバカップルに振り回されるのも飽きてきたところだ。 わしとしてはさっさと結婚でも何でもして丸く納まってほしいところ。 ここはわしが結野家の者どもをまとめ、さっさとこの婚約の話に決着をつけねば。 「オイお主等、ちょっと落ち着かんか。婚約というのは本人の意思が一番であろう。」 「しかし晴明様!」 「道満、ここは一つ男らしく、皆の前でにプロポーズしてやったらどうじゃ。」 そうすればわしが結野家の者どもを捻じ伏せてやるから。 まぁそこまでは口には出さなかったが、話の流れではそんなところだ。 『そう言えば、アタシ道満からちゃんとプロポーズされてないわ。』 わしの言葉でふとそんなことを呟いたは、 真っ赤になって俯いてしまった道満の顔を覗き込んで嬉しそうに微笑んだ。 『みんなの前でしてくれんの?』 「え、えぇっと……その……。」 少し照れながらも期待の眼差しで道満を見ているとは対照的に、 道満は照れているのか舞い上がっているのか、 冷や汗をかきながらオロオロと目を泳がせていた。 「オイ道満。」 「そ、その……プ、プロポーズはまた今度ということで……。」 道満がやっとのことでそう言った次の瞬間、の眉間にしわが寄った。 『また今度?何それ。婚約を先延ばしにするってこと?』 「え?いや、そういうわけでは……。」 『こーゆー時くらい男らしく「は俺が貰う!」みたいなこと言われへんの? 結野家に猛反対されて、また今度って一体どういうことなん!?』 バンッとテーブルを叩いて身を乗り出したに、 道満はを怒らせてしまったと悟ったのか「す、すまん!」と謝りにかかった。 しかしその行動もまたの癇に障ったのか、 は道満をキッと睨みつけてからおもむろにわしの方に歩み寄ってきた。 『もういい!道満がアタシと結婚したくないんやったら、 アタシ決まり通り晴明と結婚するから!』 「「えぇ!?」」 の予想外の行動に、わしと道満は腹の底から驚きの声をあげた。 「オ、オイ!」 『何よ!』 道満が慌ててに声をかければ、は不満そうに道満を睨みつける。 すると道満は今にも泣きそうな顔でオロオロとを見つめていた。 「お、お前……本気で晴明と結婚するつもりなのか?」 『本気なわけないやろぉ!?腹立つわー!! アタシが晴明と結婚するって言い出したんやから、 お前は俺の嫁やろ!とか言うて自分のトコに連れ戻したらどうなん!?』 どうやらは本気でわしに乗り換えようという気はないらしく、 あくまでも道満に今ココでプロポーズをしてほしいだけのようだった。 しかしそんな乙女心が分かっていないのか、 はたまた分かっては居るが行動に移す度胸がないだけなのか、 にココまで言われてもまだ道満はオロオロとしていた。 こやつが今流行の草食系男子だということは前々から知っていたが、 まさかここまでダメな男だとは……。 「そ、そうか。じゃあ、お前は俺の……。」 『もう遅いわ!!じゃあって何なん、じゃあって! 自分の言葉で連れ戻してや!道満はアタシのこと好きちゃうの!?』 「もちろん好きだ!!」 に言われ、慌ててそう叫んだ道満。 するとしばらくの間2人は見つめあい、同時に顔を赤くした。 どうやらいざ言われるとでも照れてしまうようだ。 所詮この2人はバカップルということか。 正直もうわしを巻き込むのは勘弁してほしい。 『……それで?』 なかなか次の言葉を発しない道満に痺れを切らし、 が真っ赤な顔を逸らしながら続きを促した。 すると道満は意を決したようにを見つめ、口を開く。 「お、俺はこの通り、男らしくない奴だ。」 『知ってる。』 「いつもに任せきりで、先導してやることなどできん。」 『知ってる。』 「だからこそ、俺にはお前が必要だ。」 『…………。』 情けない顔で、でもハッキリとそう言った道満に、 がオズオズと上目遣いで道満の顔を見た。 すると道満はそんなの行動に胸を射抜かれたのか、 先ほどまでの威勢はどこへやら、急にまたオロオロし始めた。 「だ、だから……その……。」 また照れて言葉が出てこないのか、真っ赤な顔を冷や汗でいっぱいにして、 道満は次の言葉を待っているの顔を見つめ続ける。 今度こそきちんと言わなければ、は怒って出て行ってしまうぞ。 いつの間にか結野衆も巳厘野衆も道満の次の言葉を固唾を呑んで見守っていた。 わしも変な緊張感を持って2人の成り行きを見守っている。 そんな妙な雰囲気の中、深呼吸をした道満が勇気を振り絞ってこう言った。結婚しても良いですか?
(良いですかってなんやねん!いいですかって!もっと男らしい言われへんのかい!) (まぁまぁ、こやつも頑張ったんじゃ、許してやれ) (だっ、ダメか!?これでは結婚してくれんか!) (あーもう!するに決まってるやろこのアホー!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 道満はどんなに頑張ってもヘタレなのが可愛いと思います。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/09 管理人:かほ