しょうせつ

『あ゙ッ……。』

しばらくまったりとしていた万事屋の雰囲気を壊したのは、
青い顔をしながら蛙が踏まれたような声を出したさんだった。

「ど、どうしたんですか?」
『言ってた……アタシとんでもないこと口走ってた……。』
「え!?まさか、コイツに好きって言ったのか!?」
『いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど……。』
「え、ってことはやっぱり言ってたんですか!?」
「それ見たことか!分かったらさっさとを俺によこせ!」

真相が明らかになり自信満々になってしまった道満さんの言葉に、
さんが真っ青になって乾いた笑い声を出した。

「ちょっと待て道満。がそういうつもりで言ったのではないと言うたじゃろう。
 一体何がどうなってこんな誤解が生じたんじゃ?」
『あの……実は……。』




〜さんの証言による再現映像〜

『髪を切る?一体どうして?』

アタシは治療が終わり床に伏していた道満さんの言葉に、驚いた声でそう尋ねた。
すると道満さんは真っ直ぐ天井を見つめながらゆっくりと口を開く。

「今までの俺と決別するためだ。
 生まれ変わらなければ、巳厘野家の頭目を名乗る資格などない。」
『…………アタシはそうは思いませんけど。』
「何?」

アタシの言葉に、道満さんは怪訝そうな顔をしてアタシの顔を見た。
そしてアタシも道満さんの顔を見て言葉を続ける。

『心機一転するのはいい事ですけど、
 今までやってきた事も全部ひっくるめて自分じゃないですか。
 だから、もっと自分に自信を持って下さいよ。』
「……。」
『今の道満さんのままでも、巳厘野家の人たちは十分アナタのこと好きですよ。
 そうじゃなかったら、わざわざアタシに道満さんの治療なんて頼みませんもん。
 アタシは部外者で、陰陽師でもないただの小娘なのに、
 巳厘野家の人たちはアナタの為にアタシに頭を下げてくれたんですよ?』

アタシが微笑みながらそう言えば、道満さんは大きく目を見開いた。
そしてすぐに泣きそうな顔になってアタシから顔を逸らす。
そんな道満さんの様子に、アタシは思わず小さく笑った。

『それに、晴明さんだって、
 今までのこと全部ひっくるめて道満さんを認めてくれたんですよ?
 アタシは、今の道満さんも好きですけどね。』

今の道満さんも好きですけどね。

好きですけどね。

好 き で す け ど ね !ぶっ飛ばすぞテメェェェ!!!!!お前の頭ん中は中2かコノヤロォォ!!!!!」
「銀時、すまなかったな。コイツはわしが責任を持って連れて帰る。」
「二度とに近づくんじゃネーぞこの妄想陰陽師。」
「何だ貴様等!別に間違っていなかっただろう!!」
「間違いまくりだコノヤロー!!!さんの口から語られた真実に、その場にいた全員が冷たい視線を道満さんに向けた。
いや、銀さんと神楽ちゃんは元々冷たかったけど、
晴明さんですら目が死んだ魚のような目になっている。

僕だって、なんだそんなことかと呆れている気持ちはあるが、
今まで友達とか、恋人とか、ちゃんとした形で人に触れ合って来なかったことを考えれば、
さんの何気ない一言が相当嬉しかったんだろうなって、
道満さんの気持ちもなんとなくだけど、分かる気がする。

さんもそれは同じようで、みんなの一変した態度にオロオロとしていた。

『ちょ、ストップストップ!アタシも表現の仕方が悪かったし、
 道満さんだって悪気があって勘違いしたわけじゃないんだから!』
「は甘いアル。そんなんじゃいつか痛い目見るネ。」
『いや、でも……!』

神楽ちゃんのその一言に、さんは困ったような顔で言葉を詰まらせた。
僕達が居る場所から少し離れたところでは、
道満さんが晴明さんに引きずられて玄関の方へと向かっていた。
銀さんもそれを追い立てるように一緒に玄関に向かって歩いていた。

これでとりあえず一件落着かと思われた次の瞬間、
道満さんが今まで見せたこともない素早さで2人の元を脱出し、
オロオロと引きづられて行く道満さんを見ていたさんの元へ駆け寄り、
勢いよくガッとさんの肩を掴んだ。

「!!俺と結婚するのは嫌か!?」
『えっ!?いやっ、あの……。』
「ほら見ろ!お前が優しくするからつけ上がるんだよ!一発ガツンと言ってやれ!!」

真剣な表情でさんに詰め寄る道満さんに腹を立てたのか、
銀さんがさんに向かってそう叫んだ。
しかし優しいさんが道満さんにガツンと言えるはずもなく、
さんはまたオロオロしながら道満さんを見つめていた。

『あ、あの、出会って間もないのにいきなり結婚とか、
 やっぱり駄目だと思うんで、申し訳ないですけど……。』
「……分かった。」

さんの言葉に案外あっさりと返事をした道満さんに、
僕も銀さんも晴明さんも神楽ちゃんも、「えっ、」と呆気に取られてしまった。
今の一言で諦めがついたのかな……。
僕のそんな淡い期待は、道満さんの次の一言で華麗に打ち砕かれることとなる。

「なら交際からならいいという事だな。」
『えっ、えぇぇ!?』
「ほらみろソイツ日本語通じねぇんだからハッキリ言ってやれ!!」

あまりにも清々しいその一言に、
怒り狂う銀さん以外の人間は頭を抱えて深い溜息を吐いた。
ダメだ。
あれはもう道満さんの押しにさんが負けてしまうパターンだ。
僕と晴明さんと神楽ちゃんは同じことを考えていたのか誰からともなく顔を見合わせ、
そして同時に苦笑いをしながら小さく溜息を吐いた。

「俺のことが嫌いか?」
『き、嫌いだなんてそんな……。』
「なら問題ないだろう?」
『え、えぇっと……。』
「!!もうテメーなんか顔も見たくねぇって言ってやれェェ!!!!!」

そんな銀さんの叫び声は、かぶき町の空に虚しく消えていった。




職業:陰陽師(という名のストーカー)

(の男運は最悪アルな……) (でもさんも何だかんだ言って道満さんのこと気にかけてるし……) (ではお主はそれが恋愛感情に発展すると思うか?) (そ、そう言われると……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 近藤さんもそうだけど、ポジティブなストーカーってタチ悪いよね(笑) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/08/12 管理人:かほ