「銀さん!銀さんにお客さんが来てますよ! しかもとびっきりの美少女!一体どこで引っ掛けてきたんですか!?」 俺が毎日の日課、ジャンプ様拝読の儀を行っていると、 新八が出勤するやいなや興奮した様子で俺にそう言った。 「キャバ嬢お持ち帰りするなんて銀ちゃん最低ネ。」 「はぁ?全く身に覚えがねーよ。一体誰だ?」 「と、とにかく、中にお通ししますからね。」 そう言うと新八は若干緊張した面持ちで玄関に歩いていった。 その様子に俺は小首をかしげる。 俺が知っている人間で、新八が知らない人間。しかも美少女? ダメだ、全く心当たりがない。まさか本当にどっかのキャバ嬢か? 俺がそんな事を思案していると、新八が例の美少女を連れて戻ってきた。 それに気づいて顔を上げたまさにその瞬間、俺の時が止まる。 「お、お前…………。」 『久しぶりー銀時!』 昔と何も変わらない明るい笑顔に明るい声。 屈託のないその笑顔は、過去の俺を何度も助けたあの笑顔そのままだった。 懐かしいような、苦しいような、複雑な思いが俺の中に一気に溢れ出す。 俺の黒い過去を一緒に生き抜いた、真っ白い朝日のような女。 「あれ、やっぱり知り合いだったんですか?」 「キャバ嬢にしては地味アルな。」 『え、キャバ嬢!?違う違う!何でそんな疑惑が!?』 「あぁ、すいません。銀さんがあなたのような綺麗な女の子と知り合いだなんて、 てっきりキャバクラで出会ったのかと……。」 『あらやだ♪もぅホントにこの子ったら口がお上手なんだからっ♪』 鈴の音のような透き通った声と人懐っこい口調。 初めて会った奴でも簡単にその懐に入っちまう天性の雰囲気。 暗い過去を閉じ込めたような漆黒の髪に、 前を見据えて余所見をしない、真っ直ぐな茶色の瞳。 あの時と何も変わらないの姿に、俺はしばらく目が離せなかった。 『何この子たち、銀時の子供? 良かったわねー君たち、銀時の天パが遺伝しなくて♪』 「あ、いえ、僕たちはここで働いてるただの従業員です。 僕は志村新八、あっちの女の子は住み込みで働いてる神楽ちゃん。」 『あら、そうなの?ごめんね早とちりしちゃって。 そっか、ここ万事屋だもんね。従業員は2人だけ?』 温かい笑顔で話すに、新八と神楽はすっかり心を許しているようだった。 まるであの頃の俺達のようだと、俺は小さく微笑む。 周りが敵だらけのあの戦場で、にだけは簡単に心を開いてしまった。 ヅラだって辰馬だって、あの高杉ですら、 突然現れたに刀の一つも向けようとはしなかった。 それどころか、が自分の隊にいる時は酷く安心したものだ。 『あ、そうそう、今日は銀時に用があったの。』 話の途中でふと気づいたようにがそう言い、俺の方に歩み寄ってきた。 他人事のように3人の様子を見ていた俺はハッと我に返り、 だんだん近づいてくるの姿に、心臓が煩く鳴り響くのを感じた。 『アタシね、明日からこの下のスナックお登勢で住み込みで働く事になったの。 だから今日は引越しの挨拶。まさか上の住人が銀時だとは思わなかったけど。』 愛くるしい笑顔と共にはそう言った。 その言葉に、俺は自分の耳を疑う。 下のスナックお登勢って、あのスナックお登勢だよな? 住み込み?え、何、が?俺ん家の真下で住み込みで働くって? それって、これからまたが傍に居るってことか? あぁクソッ、駄目だ、考えれば考えるほど心臓が煩くなってきやがる。 俺は制御できない自分の体に若干苛立ちながらも言葉を返した。 「そっ、そうか。」 『……そんだけ?せっかくの再会なのに冷てーぞお前!』 あまりの出来事に頭が回らず、ろくな言葉を返すことが出来なかった。 そんな俺の反応を無関心だと思ったのだろう、 が不服そうに眉間にしわを寄せて俺に抗議してきた。 そんな事言われても、昔からずっと忘れられなかった女と急に再会して、 しかも今日から下に住みますなんて言われたら、誰でもテンパるだろーが! 「う、うるせぇな!いいからさっさと帰りやがれ!挨拶ならもう済んだだろ!」 『はぁ!?何ソレ!折角人が丁寧に挨拶に来てやったって言うのに! もういいよ帰るよ!銀時なんてもう知らない!お登勢さんに言いつけてやる!』 「ちょっと銀さん!それはいくらなんでも酷いですよ!」 「そうアル!が可哀想ネ!」 「テメー等も黙ってろ!ってか早速絆されてんじゃねーよ!」 いつの間にかの側についてしまった神楽と新八にそう言いつつ、 この場に居づらくなった俺は仕事に行ってくると言い捨てて外へと向かった。 後ろから神楽の「嘘付けヨこの万年ニート野郎!」という罵倒が聞こえてきたが、 俺はそれを華麗にスルーして万事屋を出た。 階段を下りて地面に足を降ろすと、 店の前には全てを見透かしたように微笑んでいるクソババァの姿が。 「……んだよ。」 「アンタ等の会話が店に丸聞こえだったよ。」 「なッ……!?テ、テメェそれ欠陥住宅じゃねーか!! プライバシーも何もあったもんじゃねぇな!」 「ふふ、ホントだねぇ。アンタの弱みもバッチリ握ったことだしね。」 ババァの言葉に、俺は恥ずかしくなって言葉を詰まらせた。 このババァに限って人に言いふらすような事はしねぇだろうが、 全くとんでもない弱みを握られちまったもんだぜ。 「うるせーよ、放っとけ。」 「おやおや、パチンコにでも行くのかい?」 「俺の勝手だろ!あとババァ! に引越しの挨拶の時は菓子折りくらい持ってこいって言っとけ!!」 「じゃあ菓子折り持たせてもう一度挨拶に行かせてあげるよ。」 「い、いらねぇよ何回も何回も!!!!」 始終ババァのペースに振り回されっぱなしだった事に腹を立てた俺は ババァにそう言い捨ててザッカザッカと歌舞伎町を歩き始めた。 しばらく進んだところでが降りてくる音と、 ババァと何やら話し込んでいる声が聞こえてきた。 こんなに遠く離れてるってのに、 何でアイツの声だけこんなに鮮明に聞こえてきやがるんだ。 あぁくそッ、てんで駄目だ。心臓が煩せぇ。動悸、息切れの原因は
(魂は相変わらずの美しさで、容姿だけがすっかり美人に成長したアイツでした) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 一応ツンデレシリーズ(!)の原点だったりします! ツンデレ銀ちゃんとツンデレヒロイン可愛いよね、大好き。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/06/21 管理人:かほ