『神楽ちゃん、新ちゃん、コレなーんだっ♪』 僕と神楽ちゃんがソファーに座ってお茶を飲んでいると、 さんがなにやら楽しげに長方形の紙を取り出してそう言った。 それに神楽ちゃんが首をかしげる。 「何アルかそれ?」 「あ、短冊ですね。」 「短冊?」 僕は短冊を分かっていない神楽ちゃんに説明をしてあげた。 「ここに願い事を書いて笹に吊るすんだよ。 そうしたら願いが叶うって言い伝えがあるんだ。」 『そうそう。今日は七夕、織姫様と彦星様が一年に一度だけ会える日なんだよ。』 「所詮言い伝えアル。んなもんやるだけ無駄ネ。」 『んなことないって!3人で一緒に書こーよ♪』 夢のないことを言いながらぷいとそっぽを向いてしまった神楽ちゃんに、 さんは明るくそう言って隣に座り、短冊とペンを机に広げ始めた。 それに神楽ちゃんはちょっと興味を持ったのか、 さんに渡された短冊を受け取って 「仕方ないアルな……」とサカサカ願い事を書き始めた。 やっぱり神楽ちゃんも女の子だなぁ、と微笑ましく見ていたら、 さんが『はい、新ちゃんの分』と言って僕にも短冊を渡してくれた。 「あ、ありがとうございます。」 『銀時も書くー?』 さんは短冊をひらひらとさせながらジャンプを読んでいた銀さんに声をかけた。 その声に所定の席から銀さんがチラッとこちらを見たが、 またすぐにジャンプに目線を戻してしまった。 「俺は書かねーよ。七夕なんてガキの頃に卒業したから。」 『はぁ?アンタ何言ってんの?言っとくけどね、 アンタが去年サラサラヘアーがほしいって願ってたの知ってんのよ?』 「バッカお前、あれは別に織姫と彦星に頼んでたんじゃねーよ。 あれはお前……流れ星がたまたま流れててだなぁ……。」 『はいはい、大雨だったのによく見えたわね。 もういいよ、銀時の分は定春にあげちゃうから。』 さんは呆れながらそう言って、 銀さんの分の短冊に願い事を書き始めてしまった。 後で銀さん絶対にスネるな、と思いつつも、僕も自分の願い事を書き始める。 しばらくして神楽ちゃんが「書けたアル!」と声を上げ、 その声にさんが『どれどれー?』と神楽ちゃんの短冊を受けとった。 『“ご飯がいっぱい食べられますように”?あっはは、神楽ちゃんらしいなぁ。』 「は何て書いたアルか?」 『ん?いや、アタシ今定春の分書いてたんだけどね、食べる量が減りますようにって。』 「それ定春の願いじゃなくてさんの願いじゃないですか?」 あれ、そう?なんてわざとらしく言いながらも、 さんは定春と神楽ちゃんの分の短冊を笹に取り付けていた。 それを見て神楽ちゃんが嬉しそうに笑う。 『新ちゃんは何て書いたの?』 「僕は普通ですよ。みんなが健康で居られますようにって。」 「普通って言うか地味アル。」 「じ、地味とか言わないでよ!いいだろ別に、願うくらい!」 『あっはは!新ちゃんの願い事地味ー! じゃあアタシも新ちゃんが地味から脱出できますようにって書いたげるね。』 「いらねーよ!!余計なお世話だよ!!」 僕がまさかのさんのボケ(ボケだよな?)にツッコんだ時、 今までジャンプを読んでいた銀さんが徐に立ち上がって僕の隣に座った。 その行動に神楽ちゃんがニヤニヤしながら銀さんの方を見る。 「銀ちゃん、私たちが仲良しだから寂しくなったアルな。」 「違ぇよ!さっきからテメー等がギャーギャーうるせぇから、 落ち着いてジャンプも読めやしねぇんだよ!!」 『あっはは!銀時の寂しがり屋さん♪』 「うるせぇ!!それよりお前、自分の願い事書いたのか!」 『うるさいなぁ、今から書くっての。』 そう言うとさんはペンを手に取り、そして固まってしまった。 『何書こうかな……スナックすまいるの面接受かりますように、とか?』 「えっ、スナックすまいる?」 聞きなれたその言葉に、僕と神楽ちゃんは思わず顔を見合わせた。 そして僕の隣では例によって銀さんが怒りの炎をまとっている。 「おいテメー、俺に黙ってキャバ嬢なんかになるつもりなのか。」 『しょーがないでしょ?今月ピンチなんだもん。 キャバ嬢って給料いいからお妙さんに紹介してもらったのよ。』 「テメー俺以外の男に愛想振りまく気か!浮気かコノヤロー!!」 『あぁん!?別にアタシ達付き合ってないでしょ!?何が浮気だバーカ!』 「じゃあ今から付き合うぞ!むしろ結婚すっぞ!」 『バッ、バカなんじゃないの!?嫌よ、絶対嫌!』 真っ赤になったさんが照れ隠しでそう言えば、 独占欲の強い銀さんはガタッと立ち上がって 「んだとコノヤロー!俺と結婚しねーで誰と結婚するつもりだ!!」と叫びだす。 全く、どうしてこんなに鈍いんだろう、ウチの大黒柱は。 さんもさんでツンツンしちゃってるし……。 また始まってしまった2人の喧嘩に、僕と神楽ちゃんは深いため息をついた。 『べっ、別に他の人と結婚するなんて言ってないでしょ!?』 「って言うかお前は正真正銘ウチの社員なんだからな! ウチ仕事の掛け持ちは駄目だから、コレ社長命令だから!」 『誰が社長よ!万年プー太郎のくせして!』 「そのプー太郎んトコに嫁に来るって言ったのはどこのどいつだよ!!」 『はっ、はぁぁ!?んなこと一言も言ってないし!銀時のバカ!妄想癖!!』 「んっだとテメェ!」 ギャーギャーと言い争っている間に掴み合いの喧嘩になってしまったのを見て、 もう慣れっこになってしまった僕たちはよいしょ、と遠くへ避難する。 そして2人の取っ組み合いを眺めていると、 ヒラリと銀さんの懐から一枚の紙が落ちてきた。 不思議に思ってそれを拾ってみると、それは七夕用の短冊だった。 「これもしかして銀ちゃんのアルか?」 「そうみたいだね。えぇっと……。」 僕と神楽ちゃんは2人して銀さんの短冊を覗き込み、そして一緒に微笑んだ。 「素直じゃないアルな。」 「しょうがない、僕達で意地っ張りな織姫と彦星を仲直りさせてあげようか。」 僕と神楽ちゃんはそう言い合って、まだ喧嘩している2人の方へと歩き出した。坂田家が今年も安泰でありますように
(さん大変です!今そこにゴキブリが!) (きゃあぁぁぁ!?嫌ッ!ゴキブリ嫌!!銀時退治して早くぅぅ!!) (ちょっ、おまっ……!!分かったから、ちょっと離れ……!) (銀ちゃん、顔がトマトみたいアル) (子供は黙ってなさい!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 坂田家は今日も幸せです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/07/07 管理人:かほ