『晋助、変わっちゃったね。』 ガヤガヤと騒がしい港から少し離れた堤防に腰掛けながら、 海上で真っ赤な炎を巻き上げて燃え尽きていく鬼兵隊の船を眺めつつ、アタシはそう呟いた。 アタシのすぐ後ろで立ったまま一緒に海を眺めていた銀時は黙っていたけど、 多分、アタシと同じ気持ちだったと思う。 吹き荒れる冷たい冷たい潮風が、 春雨の船が飲み込まれていった群青色の空と合わさって酷く寂しい気持ちになった。 『アタシは戦場で銀時たちに出会ったから松陽先生の事はよく知らないけど、 それでも……ココを好きな気持ちは一緒だと思ってた……。』 自分たちが愛した場所を護るために一緒に戦った。 アタシにとって銀時や小太郎や辰馬や晋助と一緒に居る時間は、 とても心地よくて、戦場の中に居ても酷く安心できるものだった。 でも、銀時たちとアタシの過ごしてきた時間は全然違って、 だからこそ晋助は、松陽先生のためにアタシ達の愛した場所を壊そうとしてる。 『……銀時も、この世界が無くなればいいって思ったことあるの?』 「…………。」 アタシのその言葉に、ほんの僅かではあるけれど、銀時はやっと反応を示した。 でも、銀時の口から言葉が出てくることはなかった。 『……アタシ、もう帰るね。お登勢さんが心配してるだろうから。 今日はお疲れ、銀時。アンタも早く帰って、夜更かしせずにすぐ寝なさいよ。』 神楽ちゃんも新ちゃんも疲れてるだろうから早めに寝かせてあげてねと付け加えて、 アタシはその場でゆっくりと立ち上がり、銀時に背を向けて歩き出した。 「俺も一緒だ。」 『え……?』 ふいに聞こえた銀時の声に後ろを振り返れば、 寂しそうな、悲しそうな、そんな顔をした銀時と目が合った。 「俺だって、高杉と同類だ。あの人が死んで、 もうこの世界は俺にとって何の価値もないもんだと思った。」 『…………。』 そんなこと、嫌と言うほど知っている。 初めて会った頃の銀時は、見てられないほど自暴自棄だったから。 寺子屋がなくなって、松陽先生が亡くなった後の銀時は、 ただ目の前の敵を殺すだけの夜叉と成り果ててしまったのだから。 「だから……もし戦争でお前まで失ってたら、俺は高杉んトコに居たかもしれねぇ。」 『え……?』 思わぬ言葉に聞き間違いかと思って銀時の顔をジッと見たけど、 銀時はふっと優しく笑って、そしてゆっくりとアタシの方に歩み寄った。 その表情と行動に、アタシは思わず顔を真っ赤にする。 「お前が生きてたから、俺はこうしてまだ真っ直ぐ立ててんだ。 が俺の隣に居るから、俺はこうして前見て歩けてんだ。」 『ぎっ、銀時……。』 「が俺の隣で笑ってるから、俺の中のあの人もずっと笑ってる……。 お前が居なきゃ、俺は高杉と同類になってたんだよ。」 真面目な顔でアタシを見つめながら、肩に手をかけてそう言う銀時に、 アタシは心臓の音が銀時にまで聞こえそうなほどドキドキしてしまった。 ど、どうしよう……これってもしかしてプロポーズというやつじゃないだろうか……。 別に銀時ならアタシはいいんだけど、いやっ、 何がいいかって、それはほら、アレな感じなんだけど……。 「……俺はお前の事を家族だと思ってる……。」 『……っ!ぎ、銀時……!!』 「なのに……。」 『へっ?』 何やら怪しい雲行きに、アタシは思わず間抜けな声を出してしまった。 するとアタシの予想を見事に直進して、 銀時はアタシの肩を持っていた手にコレでもかというほど力を込めて怒鳴りだした。 「なのにテメー さっき高杉に色目使ってやがったなコノヤロォォォ!!!!!」 『痛い痛い痛ぁぁい!!!!』 予想外の銀時の豹変振りにアタシは情けない声を出しながら 必死に銀時の手から逃れようともがいた。 しかし銀時の力に勝てるはずもなく、今度は頬っぺたを思いっきりつねられる。 「俺見てたんだからな!! 俺が必死こいて紅桜と戦ってる時にヅラと一緒に高杉を説得してたの!!!!」 『はぁぁ!?アンタ何考えてんのバッカじゃないのバーカバーカ!!!!』 「んだとテメェ!!!!」 痛みのせいで涙目になりながらもアタシは銀時に反抗した。 すると銀時はもっと怒ったのか、 今度はアタシに逆エビ固めをかけながら言葉を続けた。 「何が“アタシたち家族でしょ”だ!!!! テメーの夫は俺か高杉かどっちなんだァァ!!!!!!」 『メンドくせぇぇぇ!!!!!真面目に戦えよこの地獄耳ィ!!』 痛みに耐えながらなんとか銀時の逆エビ固めから逃れたアタシは、 お返しに銀時に思いっきりサソリ固めを決め込んでやった。 そして先ほどの銀時の言葉に、つい勢いで恥ずかしい言葉を怒鳴ってしまったのだ。 その後アタシがハッと我に返ったのは、 その言葉に目を丸くした銀時と目が合った時だった。お前に決まってんだろーが!
(えっ、マジで!?ちょ、今の言葉もっかい言って頼むから!) (ぜ、絶対嫌!!) (なぁ頼むってお願い100円あげるから!) (絶対にイ・ヤ!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 銀ちゃんは最後色々と締まらないといい。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/10/02 管理人:かほ