しょうせつ

『ちょっと聞いてよ銀時ー。今日買い物帰りに晋助に会ったんだけどさー。』

銀さんが所定の位置でジャンプを読み、僕が部屋の掃除をしていて、
神楽ちゃんが定春とテレビを見ているという普段通りの光景に、
買い物から帰ってきたさんがとんでもない発言をテイクアウトしてきた。
その発言に僕と神楽ちゃんが顔を歪め、銀さんがガタンと席を立つ。

「んだとォ!?アイツまた江戸に来てやがんのか!
 でっ!?お前、アイツに何もされてねぇだろうな!?」
『え?あぁ、うん。別に何も……あ、鬼兵隊に入らないかとは訊かれたけど。』
「はぁぁ!?」

買い物袋を置きながら平然と答えるさんに、
銀さんがとうとう机からジャンプを落っことしてしまった。
いつもは「おジャンプ様は丁重に扱え」とか言ってるくせに、
さんの事となるとそんなもの二の次になっちゃうんだから……。
僕がはぁ、と溜息をつきつつジャンプを拾い上げると、
銀さんはドタドタとさんの方に歩み寄った。

「おまっ、もちろん断ったんだろうな!?」
『当たり前でしょ?断ったからココに居んのよ!』

真剣な顔で迫る銀さんに若干イラッとしつつもさんはそう言った。
それを聞いた銀さんが安心したように深い溜息をついてソファーに座ると、
向かい側に居た神楽ちゃんと定春がやれやれといった様子で顔を見合わせる。

『そんでね?アタシが晋助のやってる事には賛成できないから
 鬼兵隊には入らないって言ったらさ、アイツ何て言ったと思う?
 “俺が居ればそれでいいだろ”って真顔で言い放ちやがったんだよ?ありえなくない?』
「アイツはそーゆー痛い奴なんだよ。分かってんだろーが。」
『んー、まぁ中2病なのは知ってたけどさー。』

さんは言いながら買い物袋から酢昆布を取り出し神楽ちゃんに手渡した。
すると神楽ちゃんは「ありがとネ!」と大喜びでお礼を言いながら、
素早い手つきで早速貰った酢昆布の箱を一気に4つくらい開けていた。

その様子に銀さんがはぁ、と軽く溜息をつき、
ジャンプを持って立っていた僕に向かって「ジャンプ」と一言だけ言葉を発した。
そんな銀さんにさんが『単語でものを言わない!お願いしますは?』って
まるでお母さんみたいなことを言っていたけど、
僕は何も言わず呆れ顔で銀さんにジャンプを手渡して、また掃除を再開した。

『もう!銀時といい晋助といい、悪いところは全然変わらないよね!』
「男ってのはそーゆー生き物なんだよ。いつまで経っても心は少年なのー。」
『はぁ……晋助も似たようなこと言ってたな……。』

これだから男は……と首を横に振りながら溜息をついたさんは、
そのまま買い物袋を持って冷蔵庫へと歩いていった。

『小太郎といい銀時といい晋助といい、
 松陽先生に教えてもらった奴等はみんなダメ男じゃないか!
 辰馬を見なさいよ。アイツだけよ?立派に働いてるの!』
「その代わりアイツ頭ん中は空っぽじゃねーか。
 俺たちは仕事の代わりに自由を手に入れたんだよ。」
『黙れマダオが!!』

冷蔵庫に買ってきたものを直し終わったさんが
そう言いながら銀さんの隣に腰掛けて銀さんにデコピンした。
と同時にゴンッというデコピンでは到底聞けないような音が響いた。
デコピンされた銀さんが身悶えていたので、相当痛かったに違いない。

『ったく……神楽ちゃんはこんなマダオと結婚なんてしちゃダメよ?
 子供は親に似るって言うからねー、アタシに似ないか心配だわ。』

ふぅ、と演技がかった様子で神楽ちゃんにそう言ったさん。
その言葉に銀さんがこれでもかという程目を見開いた。

「え……?おまっ、今何て?」
『は?』
「お前結婚なんかしてねぇだろ?」
『してないわよ?でもするでしょ?』
「誰と?」
『銀時と。』
「…………。」

話が全然かみ合っていない2人はしばらくの間無言で見詰め合っていた。
やっぱりさんはちゃんとあの時のこと覚えてたんだなぁ……
言った本人である銀さんはすっかり忘れてるみたいだけど。

『え、もしかして覚えてない?』
「何を?俺なんか言った?」
『アンタ紅桜の騒動があった時、
 生きて帰れたら俺の誕生日に結婚してくれって言ったじゃない!』

銀さんの様子に憤慨したようにさんがそう言えば、
言われた銀さんはハッとした様子でカレンダーの日付を確認した。

『最ッ低!!アタシだけ覚えててバカみたい!!』
「いやっ、ちょっと待てって!
 俺別にプロポーズした事を忘れてたわけじゃないから!
 今日が俺の誕生日だったことを忘れてただけだから!!」
『どっちも同じよ!!もういい!銀時と結婚なんかしない!!』
「オイ!」

銀さんの無神経ぶりに怒ったさんがその場でザッと立ち上がり、
そしてドカドカと玄関に向かって歩き出してしまった。

『今から晋助追っかけて鬼兵隊に入るッ!!!』
「はぁぁ!?ちょっ、お前何言ってんのォォ!?」
『晋助と結婚して玉の輿になってやるんだから!!』
「止めろォォ!!!
 それだけは止めてくれマジで頼むから100円あげるからァァ!!!」

銀さんの必死の叫びなど全く聞く耳持たず、
さんはパシャンッと扉を閉めて本当に出て行ってしまった。
そんなさんを慌てて追いかける銀さんの背中を見送りつつ、
僕と神楽ちゃんは顔を見合わせて笑いあった。

「どうやら僕たちの誕生日プレゼントは無駄にならなかったみたいだね。」
「まだ分からないネ。銀ちゃんがを連れて帰って来なかったら全部パァアル。」
「ワンッ。」

その後、掃除を終えた僕は神楽ちゃんと一緒に
既にみんなが集まっていたスナックお登勢に顔を出し、
顔馴染みのメンバーと一緒にお騒がせ夫婦が帰って来るのを待っていた。




スナックお登勢の業日

(うむ……やはり来ないか) (ヅラ、どうしたネ) (実は高杉と坂本にも銀時の結婚の話を伝えていたんだが……) (え!?じゃあまさか高杉さんが地球に来てたのって……!?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ みんなに祝福される人気者銀ちゃんのお話が書きたかったんだけどなぁ……。 とんだマダオ話になってしまった。とりあえず、銀ちゃん誕生日おめでとう! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/10/10 管理人:かほ