しょうせつ

赤と緑の電飾がチカチカして鬱陶しいクリスマス。
ベタベタいちゃいちゃしながら歩くカップルが目障りだ。
おいテメー等、天下の往来で見せ付けてんじゃねーよゴルァ。
別に銀さん嫉妬してるとかそんなんじゃないからね?
手ぇ繋いで歩いてよーが、腰に手ぇ回しながら歩いてようが、
全っ然、全く、まんじりとも羨ましくなんかないからね?

『……〜なんだけど、どうしようか?銀時。』

あれだよ?
俺はただ他の皆様も目障りだと思ってるだろうから怒ってるだけで、
別に俺も今隣で今夜の晩飯の献立を考えていると一緒に
あんな風にいちゃいちゃしながら歩けたらなぁ、なんて
全ッ然、これっぽっちも、微塵も考えてないからね!?

『ねぇ銀時、聞いてる?』
「あぁ!?何だよ!俺は別にやましい事なんて何も……!」
『へ?いや、言ってる意味がよく分かんないけど……。』

は俺の謎の発言に驚きながらも苦笑した。

『……銀時、アタシの話聞いてた?』
「えっ?いや、聞いてた聞いてた。えぇっと……。」

の疑わしそうな目線に、俺は明後日の方向を見ながら返事をする。
ヤベェ、よそ見しながら自分の世界に入ってたから
全然の話聞いてなかったわ。全然耳に入ってきてないわ。
でもここで聞いてなかったなんて言ったら怒るだろうなぁ……。
そんな事を考えながら返答に困っている俺を見て、
は軽く溜息をついてから、『あのね、』と話を繰り返してくれた。

『ツリーはもう飾ったし、ケーキも予約してたの取りに行くだけだから、
 あとはご飯どうしようかって聞いてるんだけど?』
「あ、あぁ、晩飯?んー、何でもいいんじゃねーの?」
『何でもいいって……。』

俺が何となしに答えると、は咎めるような目で俺を見た。

「分かったよ!悪かったよ、俺が悪かった!」
『もう……何でもいいが一番困るんだからね。』
「あーはいはい、分かった分かった。」

俺がそう言うと、はムスッと頬を膨らませてまた前を向いて歩きだした。
怒ってるもなかなか可愛いもんだと思ったが、
ここでニヤけるとまたを怒らせそうなので俺は平静を装って前を向く。
晩飯を考えるとは言ったものの、別に今食いたいもんもねぇし、
ちゃんとしたクリスマスパーティーは昨日志村家でやっちまったから、
今日は万事屋4人だけの、いわゆる身内パーティーだ。
たった4人の食卓にそんな大それた晩飯もいらねぇし、
かと言って折角のクリスマスを普通の食事で済ますのもなぁ……。

意外と難しい問題に、俺はうむむ、と頭を捻らせた。
って言うか、俺はの作ったもんなら何でも食うつもりだから、
本当に心の底から何でもいいって思ってんだけどなぁ。
まぁ、んなこと言ったらまたに怒られるから口には出さねぇけど。

「んー……あーっと、あれだ。
 サラダとライスミソスープとかでいいんじゃねーの?」
『何カッコいい言い方して誤魔化してんの!?
 どんなに横文字でカッコつけてもクリスマスに白米と味噌汁は合わないよ!』
「何だよ!テメーが訊いてきたから答えてやったんだろーが!!」
『あぁん!?何その態度!
 そんなことばっかり言ってたらもう晩ご飯作ってあげないんだから!!』

俺とはお互いに立ち止まって睨み合い、
売り言葉に買い言葉でそんな口喧嘩を始めてしまった。

「だいたい家事はお前の仕事なんだから、晩飯くれー自分で考えろよな!」
『うっわ何それ男女差別!?
 アタシだって働いてるんだから家事は分担して当たり前でしょ!?』
「俺だって洗いもんとか洗濯もんとか手伝ってやってるだろーが!!」
『時々ね!!いつもはアタシがやってんでしょーが!!』

今更ながら断っておくが、
別に俺とは結婚してるとか夫婦だとかそんな関係ではない。
ただが下の階のババァんとこに世話になってて、
毎日通い妻のように俺ん家に来て色々やってくれるだけだ。
いや、通い妻って言ってもコレただの例えだからね、
別に本当にが俺の妻とか、そんなことは全然ねぇから、ホントだから!!

「ちょっとアンタ達、こんな往来のド真ん中で痴話喧嘩かい?」
「『誰が痴話喧嘩だ!!!!』」

口喧嘩がヒートアップしていた俺とは
そのままの勢いで突然聞こえてきた声に向かって同時に怒鳴りつけた。
するとそこに立っていたのはスーパーの袋を持ったババァで、
声がハモった俺たちに対してやれやれと肩をすくめていた。

「全く、毎度毎度よく飽きないねぇ。原因は何だい?」
『ちょっとお登勢さん聞いて下さいよぉ!銀時が!!』
「オイババァ聞いてくれよ!!が!!」

俺たちはまたしても同時にババァに向かってそう叫んだ。
するとババァは今度こそ心底呆れ返った顔になり、
2度もハモったことが癇に障ってお互い睨み合っている俺たちを見て
やれやれ、と面倒くさそうに頭を左右に振った。

「はいはい分かったよ。惚気話はヨソでしておくれ。」
「惚気てねぇよ!!腹立ってんだよこっちは!!」
「あ、そうだ。、どうせまだ晩ご飯決まってないんだろ?
 ウチに七面鳥取りにおいで。ちょっと分けてあげるよ。」
「オイ!!人の話聞けよ!!!!」

俺の話など華麗にスルーして、
ババァは思い出したかのようににそんな話題を投げかけた。
するとさっきまで晩飯の献立で悩んでいたの目がキラキラと輝く。

『わぁ!本当ですか?ありがとうございますー♪』
「いいんだよ。2人で食べるにはちょっとデカいの買っちゃってねぇ。」
『すっごく助かりますー♪実は何作ろうか迷ってて……。』
「アンタんトコには大食い娘が居るからね。」

ババァが笑いながらそう言うと、もつられて可愛らしい笑顔を見せた。
何だよ、さっきまでそんなテンションじゃなかったじゃねーか。
俺に向かってメンチ切ってたくせに、くそっ、腹立つなぁ。

「オイ!聞いてんのかテメー等!!」
「じゃあ私は先に帰らせてもらうよ。」
『あ、はい!後で伺いますね。』
「オーイ無視か!!!」

結局、ババァもも最後まで俺を華麗にスルーして、
2人だけで軽く挨拶を交わし、ババァはそのまま家に帰って行った。

「くそっ、何だっつーんだよ……。」

俺はババァの背中にそんな言葉を投げかけながら、
まだ手を振っているを放って先にケーキ屋へと歩き出した。
するとそれに気づいたが慌てて俺を追いかけてきたが、
俺が相当怒っているのだと分かると一瞬呆れたように溜息をつき、
そしてまるで仕方がないな、とでも言いたそうな顔でふと微笑んだ。

『銀時、寒い。』
「あぁん?俺のせいじゃねーだろーが。」
『手ぇつないでよ。寒いから。』

は甘えたような声でそう言いながら俺に自分の手を差し出した。
今更何だよ、さっきまで散々人を幽霊扱いしやがったくせに。
仕返しに今度は俺がを無視してやろうと思い、俺はチラッとだけを見た。
すると目の端に見えたの上目遣いがあまりにも可愛くて、
思わず俺はドキッと心臓を跳ねさせて慌てて顔を逸らしてしまう。
勘弁しろよ……そんなの反則だろーが……!

「……ったく、しょーがねーなぁ。ほらよ!」

折角の計画を台無しにされ、どうしようもなくなった俺は
照れ隠しにガシガシと頭をかきながらぶっきら棒にに手を差し出した。
それでもは嬉しそうに俺の手を握って体を寄せてくる。
オイオイ止めろよそーゆーの!俺が負けたみたいじゃねーか!

『えへへ、あったかい♪』
「ったりめーだろ。俺は燃える男、坂田銀時だぜ。」
『あはは、相変わらず意味分かんないけど、
 とりあえず早く夕飯の買出しに行って、ケーキ受け取って帰らないとねー。』
「……別に早く帰らなくてもいいだろ。」
『え?何で?神楽ちゃんと新ちゃんが家で待ってるのに。』

言いながら不思議そうに小首をかしげるに、
俺はこういう仕返しもありだな、と内心ほくそえんでこう言った。

「折角のクリスマスだ。お前と2人きりで居たいんだよ。」
『なッ……!?』

俺の言葉に、は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。
その予想通りの反応に、俺はの顔を除きこんでニヤリと笑ってみせる。

「……勝った。」
『……悔しい。』

そんなやり取りを繰り広げた後、
俺たちはどちらともなく握っていた手に力を込めた。




(あっ、お登勢さんお帰りなさい。銀さんたち見ませんでした?) (銀ちゃんもも帰ってくるのが遅すぎるネ) (あぁ……それなら、しばらく帰ってこないと思うよ) ((…………?)) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ あ゛あ゛あ゛あ゛何コレ甘すぎるお母さん砂糖袋持ってきてぇぇぇ!!!!!! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/03 管理人:かほ