昔ね、松陽先生が教えてくれたの。 バレンタインデーっていうのは、大切な人にお礼をする日なんだって。 一応、女の子が好きな男の子にチョコをあげる日って言われてるけど、 そんなこと関係なしに、あげたい人にあげればいいよって。 だからアタシは一緒に話を聞いてた銀時に言ってあげたの。 『銀時はチョコなんてくれる女の子いないから、 これからはアタシが毎年チョコ作ってあげるね。』 その年から、アタシは松陽先生に手伝ってもらって 毎年手作りチョコを銀時にあげるようになったんだ。 寺子屋に居た頃は晋助や小太郎にもあげてたけど、 戦争が終わってからもずっと渡し続けてるのは銀時だけかな。 今ではお礼って言うか、習慣みたいなものなんだけどね。 そう言いながら悪戯っぽく笑うさんを見て、 僕と神楽ちゃんは同時に目を合わせ、肩をすくめた。 その行動の意は「本当に銀さんには勿体無い人だなぁ」だ。 そりゃ昔は攘夷志士として恐れられていたさんだけど、 今ではこんなに優しくて可愛らしい女性にジョブチェンジしている。 なのにどうしてあんなちゃらんぽらんと一緒に居るんだろうか。 まぁ、僕達も人のこと言えないんだけどね。 そんなやり取りがあったのはつい昨日の話で、 今日はとうとうバレンタインデーを明日に控えたバレンタインイブだ。 いや、バレンタインイブなんて言うのかどうかは分からないけど、 とりあえず今日はバレンタインデーの前日なのだ。 「、明日はバレンタインデーだぞ。忘れんなよ。」 『銀時それ10回目。』 ほのぼのとした雰囲気をまとっていた昨日とは打って変わって、 今日の万事屋は朝からどこか殺伐としていた。 それもそのはず。 実は朝っぱらから銀さんがしつこいくらいに さんにさっきの台詞を言い続けているのだ。 この謎の行動に、さんも神楽ちゃんも朝からずっと呆れ顔だ。 『銀時、心配しなくてもチョコレートはちゃんとあげるから。 いくら糖尿病だからって、バレンタインくらい楽しませてあげるわよ。』 「バッカお前、そういう心配してんじゃねーんだよ!」 呆れた様子で言ったさんに、銀さんが不服そうにそう言った。 『何?じゃあ量の心配?いくつもらえるか気になるの? 大丈夫よ、今年は女の子といっぱい知り合ったじゃない。 お妙さんとかさっちゃんとか九ちゃんとか。』 「だから!俺はそーゆー心配をしてんじゃねぇっつーの!!」 若干イライラした様子でそう言いながら、 銀さんは愛用の机をバンッと叩いてその場で立ち上がった。 その行動に洗濯物をたたんでいたさんと神楽ちゃん、 そして掃除をしていた僕がビクッと体を震わせる。 『な、何いきなり……。』 「お前っ、もう昼の3時だぞ!? さっさと材料買いに行かねぇと作る時間なくなっちまうだろーが!」 『えっ?アタシ今年も作らなきゃダメ?』 かなり苛立っている様子の銀さんにさんが驚いた顔でそう言えば、 銀さんはこめかみに青筋を立てながら「あぁん!?」とガラ悪く唸った。 「テメッ、俺に市販のチョコ渡すつもりだったのか!!」 『ご、ごめん……今年は他の人からいっぱいもらえるし、 別に作らなくてもいいかなって思ってた……。』 「毎年作ったやつくれてたじゃねーか!!」 『それは唯一の戦利品が市販のやつだと可哀想かなって……。』 「何だテメェ嫉妬か!?ヤキモチ妬いてんのか!?」 『いやゴメン、意味分かんないけど。』 そんな2人のやり取りを聞いて、僕は昨日のさんの話を思い出した。 そういえばさん、毎年銀さんには手作りチョコを渡してるって言ってたっけ。 きっと今年もさんの手作りを貰えると思ってたんだろうな、銀さん。 何だかんだ言って、銀さんさんのこと大好きだから。 でも、チョコはちゃんと貰えるんだから、あんなに怒らなくたっていいのに。 「お前マジ勘弁しろよ……。 どうせ渡す相手少ねぇんだからさ、もっと俺に時間をかけろよ。」 はぁ、とわざとらしい溜息をつきながら、銀さんは頭を抱え込んで首を横に振った。 『いや、今年は他にも渡す人がいっぱい……。』 「はぁ!?テメッ、新八と俺以外に誰に渡すつもりだよ!!」 『え?えぇっと、まず真選組の人たちでしょ?』 「渡すなあんな奴等に!!!!!」 さんの言葉にまた眉間にしわを寄せた銀さんは バシンッと勢いよく机を叩き、さんをまた驚かせた。 「で!?他には!?」 『えっ、えっと……あとはお登勢さんトコと……。』 「それはいい!!次!!」 『西郷さんのトコにも挨拶に行って……あっ、 辰馬と小太郎が明日ここに来るって言ってたから2人の分も……。』 「アイツ等は水かけて追い返せ!!」 『えっ、えぇっ!?』 どうやらさんが他の男の人にチョコを渡すのが相当気に食わないらしく、 銀さんはこれでもかと言わんばかりに声を張り上げていた。 そんな銀さんに気圧されているさんの隣では、 神楽ちゃんが心底呆れきった顔で銀さんを見つめていた。 『ちょ、ちょっと銀時、さっきから何でそんなに怒ってるの?』 眉をハの字にして今にも泣きそうな顔でそう尋ねるさんに、 銀さんはグッと言葉を飲み込んでそのまま黙り込んでしまった。 どうやら次の言葉を言おうか言うまいか迷っているみたいだ。 そんな感じでしばらく頭を掻きながら悩んでいた銀さんだったけど、 散々悩んだ末に言うことに決めたのか、 顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら小さな声でこう呟いた。 「惚れた女が他の男に愛想振りまいてたら……誰だって腹立つだろ。」 銀さんのこの言葉に、今度はさんの顔が真っ赤に染まる番だった。 そんなさんの向かい側では、神楽ちゃんが放心状態で 「あの銀ちゃんがデレたネ……」と呟いている。 僕はと言うと、お互いに顔を真っ赤に染める2人を見て、 この夫婦可愛いなぁ、なんて思わず顔がニヤけてしまっていた。 『ほ、惚れたって……。』 「だーもーうっせぇな復唱すんな!!いいからさっさと買い物行けよ!!」 銀さんが照れ隠しでちょっと乱暴にそう言えば、 さんもこれ以上追及するのが恥ずかしかったのか、 向かいに座っていた神楽ちゃんに『行くよ、』と声をかけて 足早に玄関の方へと歩いて行ってしまった。 「オイ。」 さんの後姿に銀さんが声をかければ、さんは無言でその場に立ち止まる。 「テメー分かってんだろうな。」 『……銀時へのチョコは、ドロドロに溶かしたやつだから!』 さんは恥ずかしかったのか叫ぶようにそう言って バッと玄関の方に向かって駆け出してしまった。 その後ろを神楽ちゃんと定春が追いかけ、ガララッと玄関の閉まる音がする。 銀さんはさんの謎の言葉にしばらく唖然として固まっていたけれど、 突然フッ、と微笑んで愛用のイスに深く腰掛けた。 「ドロドロに溶かしたやつって意味分かんねぇよ……バーカ。」溶けちゃうくらい甘い恋
(良かったですね銀さん、さんから今年も手作りチョコが貰えそうで) (全然よかねーよ、他の奴に渡さねぇようにしねーと終わりじゃねぇんだよ) (全くもう……そんなに好きなら素直になればいいのに) (うるせぇ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 銀ちゃんと一緒に、ハッピーバレンタイン! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/02/14 管理人:かほ