しょうせつ

『はいどうぞ。良かったら皆さんで召し上がって下さい。』

毎年のように真選組にバレンタインチョコ持って来たさんが、
真選組を代表して(一応)局長である近藤さんに大きめの箱を手渡した。
箱を受けとった近藤さんの両脇には例によって土方さんと沖田さんが立っていて、
近藤さんが受け取った箱を後ろから不思議そうに見つめていた。

「悪いなぁちゃん。毎年全員の分もらっちゃって。」

近藤さんが頭をかきながらそう言えば、
さんは『いえいえ、』と謙遜しながら優しくにっこりと微笑んだ。

『真選組にはいつも色々お世話になってますから。
 それに、今年はアタシ個人からじゃなくて、万事屋のみんなからなんで。』
「あぁ、やっぱりそうかィ。」
「どうりで箱がデカいわけだ。」

さんの言葉に、さっきから箱を不思議そうな顔で見ていた
沖田さんと土方さんが納得したようにそう言った。
その反応にさんが『あはは、』と苦笑する。

『ウチにうるさいのが一人居るもんでね。』
「あぁ……そう言えばちゃん、あの銀髪と付き合ってるんだっけ?」
『はい。今までは放っておいても問題なかったんですけど、
 流石に彼女という立場であの嫉妬の嵐をスルーするのは難しくて……。』
「僕達からのチョコレートって言わないと銀さんうるさいんですよ。」

僕がさんの言葉を補足すると、真選組の人たちは呆れた表情になった。

「またえらいのと付き合ってんだなお前。」
「おや、嫉妬ですかィ土方さん。これだからモテねぇ男はいけねぇや。」
「テメェ……叩き斬られてぇのか。」

いつものような流れで睨み合ってしまった2人に、
その場に居た全員が呆れた笑顔を浮かべた。

『じゃあアタシ達帰りますね。』

さんがそう言うと、喧嘩していた2人は同時にこちらに向き直り、

「旦那が鬱陶しくなったらいつでも相談に乗るぜィ。」
「俺達は警察だからな。DV被害は任せとけ。」

と、とんでもない言葉を真顔で言い放った。

「ちょっと2人とも!笑えない冗談は止めて下さいよ!」
『えっ!?ちょ、新ちゃん!?笑えるよ!?
 いくら嫉妬深い銀時でもDVなんて酷いことはしないから!』
「分からないネ。銀ちゃんのしつこさは異常アル。」
『えっ、何!?2人とも銀時のこと嫌いなの!?』

そんな会話の後、僕たちは真選組屯所を後にした。





『ただいまー。』
「定春ー!元気にしてたアルかー?」

屯所を出てから数十分後、僕たちは万事屋に帰ってきた。
そしてさんと神楽ちゃんの声と共に事務所に入っていくと、
奥から怒った様子の銀さんがドタドタとさんの方に向かって歩いてきた。

「オイ!テメー、どこ行ってたんだよ!!」

銀さんの怒鳴り声に、さんは困惑した表情で一歩後退った。

『えっ?いや、真選組んトコだけど……出て行く時に言ったでしょ?』
「それにしちゃあ遅すぎやしねーか!?
 本当に真選組に行っただけなんだろうな!?」

困っているさんなんてお構いなしで、
銀さんは言いながらズイズイさんに詰め寄った。
そんな銀さんの行動に、
僕と神楽ちゃんはお互いに顔を見合わせて「やれやれ」と肩をすくめた。
毎度のことながら、本当に銀さんは心の狭い人間だと思う。

『ほっ、本当だって!みんなからのチョコ渡しに行っただけ!』
「本当だろうな!?
 隠れて他の奴に個人的なチョコ渡したりしてねぇだろうな!?」
『してないって!新ちゃんと神楽ちゃんが証人!』

勝手に怒っている銀さんの対処に困り果てたのか、
さんは僕たちをバッと指差してそう言った。
すると銀さんは無言でキッと僕たちを睨みつけてくる。

「本当ですよ。さんとは片時も離れてません。」
「銀ちゃんそろそろ鬱陶しいネ。」
「んだとコノヤロー!!ガキは黙ってろ!!」
『あーもう!銀時ちょっと落ち着いて!』

その後、怒る銀さんをさんがやっとの事でソファーに座らせ、
まだ不服そうな銀さんをなだめるためにさんは銀さんの隣に腰掛けた。

「で?俺へのチョコは?」

銀さんがイライラした様子でさんにそう言うと、
さんは懐から一枚の紙を取り出して銀さんに差し出した。

『今年はコレ。』
「はぁ!?テメーふざけてんのか!!」
『きゃあっ!?痛い痛い!!ちょ、よく見て!!』

まさかの紙一枚に銀さんが怒ってさんの頭をグリグリしていると、
涙目になっているさんが
痛がりながらも必死に銀さんの目の前に紙を掲げた。
その行動に「あぁん!?」と不服そうに声を出した銀さんだったけど、
渋々さんの頭から手を退けてその紙を受けとった。

「何だよコレ……カップル限定……バレンタインフェア……?」

読み上げた銀さんが怪訝な顔をしてさんを見ると、
さんはグリグリされた頭をさすりながら銀さんに微笑んでみせる。

『大江戸百貨店でね、新作スイーツの試食会があるの。
 丁度いいからデートついでに一緒に行ってあげる。』
「……。」

銀さんは驚いたような声でさんの名前を呼んだ。
そしてだんだん自分の顔が赤く染まっていくのを自覚したのだろうか、
真っ赤になった顔を隠すように銀さんはさんにガバッと抱きついた。

「……悪かった。」
『ホントにね。すっごく痛かった。』
「だから悪かったって言ってんだろーが。」
『今度はもっとアタシを信頼してほしいなー。
 じゃないと銀時のこと家庭内暴力で訴えちゃうからね。』

さんが悪戯っぽくそう言って微笑むと、
銀さんは無言でさんを抱きしめていた腕に力を込めた。




嫉妬深い糖分王

(!コレマジ美味いから食ってみろよ!) (うぷ……アンタよくそこまで甘いもんが食べれるわね……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ スイーツの試食会でテンションが上がるのは女より銀ちゃんだと思います。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/27 管理人:かほ