「オイ。」 『ん?』 いつものぶっきら棒な呼びかけに応えると、 突然手の中に小さなものを押し付けられた。 見ると、それは銀時の髪と同じ色をした携帯電話だった。 『何コレ?』 「携帯。」 『んなもん見たら分かるわよ。』 アタシは手の中にある携帯を見ながら言葉を続ける。 『アンタこないだのアレで懲りたんじゃなかったの? 神楽ちゃんからのメールがウゼェって言ってたじゃない。』 「確かにあのどーでもいいメールの嵐はいい加減にしろと思ったけどよぉ……。」 そこまで言って、銀時はちょっと顔を赤らめてそっぽを向いた。 「お、お前となら……常に繋がっててもいいかなぁと思ってよ……。」 照れた様子でボリボリと頭をかきながらそう言う銀時に、 アタシは思わずドン引きした。 『銀時……気持ち悪い……。』 「なッ!?気持ち悪いってどーゆーことだゴルァ!!」 怒鳴る銀時にアタシが冷たい目で 『思考回路が乙女みたいで気持ち悪い』と言えば、 銀時はさらに目を吊り上げて「あぁん!?」と唸り声をあげた。 『だいたいアタシ嫌だよ、携帯持つの。面倒くさいもん。』 「んだとテメェ!!俺と常に繋がっときたいと思わねぇのか!!」 『思わない。』 「んっだとォ!?テメー俺のこと好きじゃねぇのかよ!!」 『好きだけど、常に繋がっときたいとは思わない。』 「上等だゴルァ!!銀さんのありがたみってやつを思い知らせてやるよ!!」 そんな会話があったのが約一週間前。 その日から、銀時は私の前に姿を現さなくなった。 『お登勢さん、アイツ本当にバカだと思うの。』 「奇遇だねぇ。私もそう思うよ。」 銀時に会わなくなってから一週間が経った今日、 アタシはいつものようにカウンターを水拭きしながらお登勢さんに呟いた。 するとお登勢さんもいつものように煙草をふかしながら軽く溜息を吐く。 どうやら銀時はアタシに『銀時に会えなくて寂しかった!』と言わせたいらしく、 あの口喧嘩の日からアタシに会うのを避けているみたいだった。 しかし所詮は上と下に住んでいる、ほぼ同居人のアタシ達。 一週間もあれば自然と一回や二回は会ってしまうものだ。 それでも銀時はこそこそとアタシの行動を覗き見して、 絶対にアタシの前に姿を現さないように頑張っていた。 『まぁそれでも覗いてる時にちょっとだけ見えるんだけどねー。』 「様は銀時様と会えなくて寂しくないのですか?」 カウンターを拭き終えて一休みしていると、 店内を掃除していたたまがアタシの傍に来てそんなことを尋ねてきた。 その質問にアタシは『んー……』と首を傾げる。 『思ったよりも平気かなー。会おうと思えばいつでも会えるし。』 「まぁ真上に住んでるんだもんねぇ。」 お登勢さんが呆れたように言えば、 今度は外で水を撒いていたキャサリンが店内に入ってきて会話に加わった。 「本当ニアホノ坂田デスネ。キット自分ノ方ガダメージ受ケテマスヨ。」 『あはは、もしそうだったら最悪だねー。』 「いや、アイツの事だから今頃寂しくて拗ねてるんじゃないかい?」 『そんなぁ。』 キャサリンとお登勢さんが一緒になってそんなことを言うもんだから、 アタシは冗談でしょうと笑いながら2人の会話を聞いていた。 すると突然店の扉がガララッと開いたので、 アタシ達は会話を中断して一斉に入り口の方へと意識を向ける。 『うわっ!?ちょ、どうしたの2人とも!』 驚いたアタシは思わず叫びながら席を立った。 入り口から入ってきたのは 今にも倒れそうなくらいゲッソリとした神楽ちゃんと新ちゃんだったのだ。 2人は無言でヨロヨロと店内に入ってきて、 そして倒れこむようにカウンター席に座り込んだ。 「一体どうしちまったんだい。」 『新ちゃん、神楽ちゃん、大丈夫?』 アタシが2人の元へ駆け寄って声をかければ、 2人は初めて顔をあげ、そしてアタシの顔を見てうるっと瞳を潤ませた。 「……。」 「さん……。」 今にも泣き出しそうな2人の様子に、アタシ達は一斉に顔を見合わせた。 そしてアタシがもう一度声をかけようと2人を見た途端、 2人は何かの糸が切れたようにアタシに抱きついて泣き出してしまった。 「うわあぁぁん!!ー!!銀ちゃんが悪かったネー!!」 『えっ!?』 「さん本当にすみませんでした!!全部あの天パが悪いんです!! 僕達が代わりに頭下げますから銀さんと仲直りしてあげて下さいぃぃ!!」 『えっ、ちょ、ちょっと!2人とも落ち着いて!』 わんわんと泣き喚く2人に気圧されてしまったアタシは、 とりあえずアイコンタクトでお登勢さんに助けを求めた。 するとお登勢さんは一度はぁ、と溜息をついて、 「ほらほら、泣いてないで一旦席に座りな」と2人を宥めてくれた。 『えぇっと……何事?』 やっと落ち着いた2人にアタシが尋ねれば、 2人が答える前に横からキャサリンが「ハン!」と鼻息を荒くして口を開いた。 「ドーセサッキ私ガ言ッタコトガ当タッテタンダロ!」 『え?えっと……何だっけ。』 「銀時様がご自分でダメージを受けてらっしゃるというお話でした。」 『あぁ、そう言えばそうだったね。』 「で?本当にあのバカはダメージ受けてんのかい?」 お登勢さんが尋ねると、 神楽ちゃんと新ちゃんはお互いに顔を見合わせて2人同時に大きな溜息を吐いた。 「そうなんですよ……。銀さん、自分で自分の首を絞め続けてるんです。 寂しいなら寂しいって言えばいいのに、変に意地張っちゃって。」 「自分から会いに行ったら負けた気がするって言ってたネ。 でももう銀ちゃん廃人状態ヨ。既にアイツは負け組アル。」 2人の話に、アタシ達は呆れすぎて声も出なかった。 『なんか……大変な事になってるみたいね……。』 「大変どころの騒ぎじゃないですよ!」 アタシが呆れた声で呟けば、 新ちゃんが眉間にしわを寄せて勢いよくそう言った。 「あの人が上の空なせいで仕事も苦情の嵐なんですから!」 「銀ちゃん、と喧嘩した次の日から寝言で“”て言うようになったアル。 そうかと思ったら一日中携帯見つめながら溜息をつく日々ネ。」 「さんに会いに行けばいいのにって言うと “はぁ!?別に寂しくねぇし!?”って逆ギレするし……。」 「寂しくない言う割には時々布団の中で泣いてるヨ。」 万事屋はアタシ達の予想以上に大変な事になっていたらしく、 2人は話を進めるうちにどんどん暗い雰囲気になっていった。 アタシは何て言葉をかけていいか皆目検討もつかず、 ただ『あはは……』と乾いた笑いでやり過ごすしか出来なかった。意地っ張りの憂鬱
(全く馬鹿だねぇ) (理解しかねます) (ヤッパリマダオダッタニュ) (ちょ、ちょっとみんな……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 思いっきり本誌ネタバレ(?)ですが、続きます! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/06/07 管理人:かほ