しょうせつ

「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、まさかここまでとはねぇ……。」

お登勢さんが煙草の煙と共に大きな大きな溜息を吐くと、
釣られるようにして新ちゃんと神楽ちゃんも大きな溜息を吐いた。

「とにかく、日に日に銀さんに生気がなくなってってるんですよ。
 今だって万事屋の雰囲気が幽霊屋敷みたいで、
 とてもじゃないけど居てられなくて逃げてきたんです。」
「きっと今頃うわ言のように“”って呟きながら泣いてるね。」

言いながらまた溜息を吐いた2人の姿に、ちょっとだけ罪悪感。
別にアタシが悪いわけじゃないし、
アタシを避けてるのは銀時だから完全に向こうが悪いんだけど、
そのせいで新ちゃんと神楽ちゃんがこんな目に遭っちゃって、
ちょっと悪いことしたかも……。

どうしたものかと頭を抱えていると、ふと視界の端に銀色の箱が飛び込んできた。
それは一週間前に銀時から貰った銀色の携帯。
あの日から一度も触ってなかったけど、現状打破の鍵はこれしかないと思った。

『しょーがないなぁ……。』

アタシは初めて携帯を手に取り、メール作成画面を開いた。

「あっ、さん、それ……。」
『アタシから会いに行くのは嫌だけど、メールくらいならしてあげる。』
「……!」

ポチポチと文字を打ち込むアタシを見て、
新ちゃんと神楽ちゃんは目に涙を溜めて喜んだ。
メールを打つだけでそこまで感謝されるなんて、
2人ともよっぽど追い詰められてたんだなぁ……。
銀時の機嫌が直ったあかつきには、こっぴどく叱ってやらないと。

 ―――――――――――
 件名:銀時へ
 本文:買い物付き合って
    くれない?
 ―――――――――――

『はいっ、送信っと。』
「ありがとうございますさん!これで銀さんの機嫌も直りますよ!」

そう言って新ちゃんと神楽ちゃんは喜びのハイタッチをした。
そんな2人の様子に、アタシ達は顔を見合わせて呆れたように微笑んだ。

「あっ、そうだ!!銀時携帯見せてヨ!」
『銀時携帯!?何それ!?』
「さんが持ってる携帯のことですよ。
 銀さんが自分の髪の色を選んだから、銀時携帯。」

新ちゃんがアタシの携帯を指差しながらそう言ったので、
アタシ達は一斉に銀色の携帯を見た。

『こ、このカラーリングにはそんな意味が……。』
「銀ちゃんが言ってたネ。に俺を携帯してもらうんだって。」
「重ッ。、ソレサッサト捨テタ方ガイイヨ。」
『そんなことしたら取り返しのつかない事態に陥る気が……。』

キャサリンの言葉にアタシが顔を引きつらせた時、
銀時携帯がピロリロリンッと音を立てて揺れ始めた。

『あっ、返信きた。』
「何て書いてあるんですか?銀さん喜んでます?」
『ちょっと待ってねー。』

 ―――――――――――
 件名:買い物だと?
 本文:なんで俺だよ
 ―――――――――――

『あれっ、あんまり乗り気じゃないや。』
「きっと銀ちゃん照れてて素直に喜べないアルよ。」
「銀さんらしいね。」

携帯の画面を覗き込みながら、
新ちゃんと神楽ちゃんはニヤニヤしながらそう言った。
その言葉にキャサリンもお登勢さんもたまも大きく頷いたけれど、
アタシは何やら雲行きが怪しい気がしてならなかった。

 ―――――――――――
 件名:大荷物なの
 本文:男手がほしいから
    銀時来てよ。
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色々気になることはあったけど、
返信しないことには話が進まないのでアタシはとりあえずそんな内容を返した。
これで「じゃあ……」と銀時が下に降りてきてくれればそれでいいし、
「はぁ?お願いしますは?」的な内容が返ってきても、
メールだから何とか平静を装って返信出来るだろう。
勿論こっちではイラッとして暴れまくるけど。

ピロリロリンッ

「!返信ネ!」
「何て返してきました?」
『んーっとねぇ……。』

 ―――――――――――
 件名:断る!!
 本文:男手だったら新八
    が居るだろ!
    別に俺じゃなくて
    もいいだろーが!
    バカヤロー!
 ―――――――――――

その文面を見た瞬間、その場にいた全員が一斉に肩を落とした。

「あの……さん、本当にすみません……。」
「帰ったら半殺しにしとくアル。」
『い、いや……そこまでしなくていいけど……。』

さっきまでの笑顔はどこへやら、
新ちゃんと神楽ちゃんは一瞬でふりだしのテンションに戻ってしまった。

「全く……素直じゃないねぇ。」
「、ヤッパリソノ携帯ゴトアノ天パモ捨テテヤッタラドウヨ。」
『そ、そんなこと……。』

キャサリンの言葉にお登勢さんが勢いよく頷いたので、
アタシは苦笑しながら2人を見た。

『まぁ、あの銀時が一回で折れるとも思ってないし、
 しばらくはメールのやりとりで様子を見るよ。』

アタシのその言葉に、新ちゃんと神楽ちゃんは「お願いします」と言って
今日のところは万事屋に帰ることとなった。
お登勢さんとキャサリンは「まぁ頑張んな」と言ってお店の準備に取り掛かったし、
たまは「充電でしたら私のコードがありますのでいつでもどうぞ」と言って
頭から携帯充電用のコードを引っ張り出してくれた。

『いや、そんなに酷使しないから。』

こうして、アタシと銀時のメール大戦争が勃発したのだった。




2人を繋ぐ色の箱

(それにしても、銀時携帯ってネーミングセンス悪いよねー) (イヤネーミングノ問題ジャナイダロ) (前々から女々しい奴だとは思ってたけどねぇ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 銀ちゃんはですね、携帯電話篇で携帯の使い方をマスターしたのです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/06/10 管理人:かほ