しょうせつ

“一緒に甘いものでも食べに行かない?”

そのメールの返信は、意外とあっさりやってきた。

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 件名:行かねぇよ
 本文:坂田君いま超忙し
    いから。
    ガキ共連れてって
    土産持たせろ土産
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その内容を読んで、新ちゃんと神楽ちゃんは同時に肩を落とした。

「ほらやっぱり。また俺じゃなくてもいいじゃんパターンですよ。」
「、どうするアルか?」

眉を情けなくハの字にする2人とは裏腹に、アタシはしてやったりと微笑んだ。

『まぁ見てなさいって。』

 ―――――――――――
 件名:困ったなぁ
 本文:デートに行きたい
    から銀時を誘った
    のに……
    なら小太郎誘って
    もいい?
 ―――――――――――

『送信っと。』

やりきった顔でメールを送ったアタシとは裏腹に、
新ちゃんと神楽ちゃん、そしてお登勢さんは眉間にしわを寄せて
「何してんねん」とでも言いたげな顔でアタシの事を睨んでいた。

『あれ?何で?いい作戦じゃない?』
「いや、コレのどこがいい作戦なんですか!
 これじゃあ銀さんを怒らせるだけでしょーが!」
「ヅラに嫉妬して怒鳴り込んでくるのがオチネ。」
『それが狙いだもん。』
「「「はぁ?」」」

アタシは尚も笑顔を絶やさずみんなの方を見た。

『今まではちょっと下手に出すぎてたのよ。
 ここまで言われれば、銀時は居ても立っても居られなくなるでしょ?
 “テメー俺以外の男とデートってどういうことだ!”
 とか言って怒鳴り込んでくれば、後は機嫌を直すだけでいいんだから。』

とりあえず課題は銀時と会うこと、と
アタシが銀時携帯をカウンターに置きながら言えば、
みんなは「なるほど、」と納得したような顔になった。

「でも、そんな上手くいくもんですかね?」
『んー……どうだろうねー。アタシ的にはもう一つ、
 “ヅラ呼ぶくらいなら俺が行く”的な展開もあると思ったんだけど。』
「銀ちゃんならありそうネ。
 ヅラには負けたくないと思ってるはずアルからな。」
『でしょー?』

和やかにそんな会話を繰り広げていたアタシ達を見て、
カウンターの中からお登勢さんが大きな溜息を吐いた。

「アンタ達、銀時って奴を分かってないねぇ。」
『「「え?」」』

お登勢さんの言葉に、アタシ達は一斉にお登勢さんの方を見た。

「アイツの嫉妬深さをナメちゃいけないよ。
 今でもが相手した客に向かってガン飛ばすような奴なんだよ?」
『えっ?銀時そんなことしてるの?』

アタシは初めて聞いたその話に目を丸くした。

「銀時様は様にセクハラをしたお客様を裏路地に連れ込んでは、
 記憶がなくなるまでタコ殴りにしてらっしゃいます。」
『えっ!?嘘!そんなことまで!?』
「あぁ……だから銀さん毎日スナックお登勢に通ってるんですか。」
「イツモ酒飲ミナガラノコト監視シテマシタカラネ。」
『えぇぇ!?』

みんなから語られる衝撃の事実に、アタシは開いた口が塞がらなかった。
そりゃアタシもスナックお登勢の従業員だから、
毎日毎日最初から最後まで銀時が居たのは知ってたけど、
まさかそんな事までしていたとは……思いもしなかった。
これはもう照れるを通り越してちょっと怖いかも……。
今になって小太郎を誘うとか言ったことを後悔してきた。

「様、銀時様の返信はまだなのですか?」

アタシが顔を青く染めている時、たまが冷静にそう言った。
その言葉に全員が銀時携帯に目を向ける。

『……まだ。』
「やっぱり桂さんを誘うって言ったのがマズかったんですかね?」
「銀ちゃん怒ってるアルか?」
『んー……。』

アタシが腕を組みながら首を傾げていると、
お登勢さんとキャサリンがやれやれと同時に肩をすくめた。

「モウマジデアホノ坂田カラヅラニ乗リ換エタ方ガイイヨ。」
『えぇ?そんなこと……。』
「そいつぁ同感だねぇ。こんな面倒くさい男、さっさと捨てておやりよ。」
『お、お登勢さんまで……。』

そろそろこのメールのやり取りに飽きてきているらしい2人に、
アタシは苦笑いで対応するしか出来なかった。
そりゃアタシだってもうそろそろ面倒くさいと思ってるけど、
だからって銀時を見捨てるなんて出来ない。
あれでも一応、アタシの――……。

その時、スナックお登勢の扉が突然ガララッと開いた。

「銀さん!」
「銀ちゃん!」

全員が扉の方を見ると同時に、
新ちゃんと神楽ちゃんがそのふてぶてしい姿に向かって叫んだ。
名前を呼ばれた不機嫌さんは、入り口に立ち尽くしたままアタシを睨む。

「オイ、さっさと行くぞ。」
『え?』

突然投げかけられた言葉にアタシが唖然としていると、
銀時は照れたように頭をかきながら顔を逸らした。

「テメーとのデートは、彼氏である俺にしか出来ねぇからな。」

ぶっきら棒に放たれたその言葉に、その場にいた全員が一斉に顔を見合わせた。
多分、銀時が素直に降りてきたことにビックリしたんだろうけど、
アタシはビックリよりも何よりも、銀時の言葉がただ単純に嬉しかった。

『はいはい、それじゃあ行きますか。お登勢さん、ちょっと出かけてくるね。』
「あぁ、行っといで。」
「店ガ始マルマデニハ戻ッテコイヨ。」
『はーい。』

アタシは返事をしながら席を立ち、
先に歩き出してしまった銀時に追いつくように銀時の元へと駆けていった。

『ねぇ、どこ行こっか。銀時のおごりだから銀時に決めさせてあげる。』
「はぁ?バカ言うんじゃねーよ。今月どんだけピンチだと思ってんだ。」
『それはどっかの誰かさんが仕事中ずっとボーっとしてたからでしょ?』
「はぁぁ?それ誰のコトォ?」

そんな下らない会話をしながら、アタシ達はいつものように横に並んで歩いていた。

『ねぇ、銀時。』
「あ?」

アタシが名前を呼ぶと、いつも通りのぶっきら棒な返事が返ってくる。

『アタシやっぱり携帯いらないや。』
「あぁん?テメーまだそんなこと……。」
『だって、直接会って話したほうが楽しいんだもん。』

アタシがそう言いながら銀時に微笑みかけると、
銀時は一瞬驚いたような顔をして、そしてすぐに顔を逸らしてしまった。

「……ったりめーだろーが、バカヤロー。」

銀時の顔は真っ赤に染まっていて、その声はちょっと照れていた。
本当に久々に感じたその声と表情に、
アタシの胸は思わずキュウッと締め付けられる。

『……やっぱり、寂しかったのかな。』
「え?」
『別に!何でもない!ねぇ、銀時はアタシに会えなくて寂しかった?』
「べ、別に寂しくなんかねぇよ。……ただ、ちょっと調子狂うだけだ。」
『もぅ、素直じゃないなぁ……。』

そんな会話を繰り広げながら、アタシ達はどちらともなく手を繋いだ。




文字だけじゃなくて

(その声も、その表情も、全部あって初めて伝わるから) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 甘々な感じで携帯電話篇後日談、おしまいです! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/06/10 管理人:かほ