「ちょ、、醤油取って。」 『はい。』 「ー、私デザートが食べたいアル。」 「贅沢言うんじゃねーよ。ウチのどこにそんな金があるんだ。」 『そう言えば昨日リンゴ貰ったっけ……持ってきてあげるね。』 「やったアル!」 「オイオイあんまり甘やかすんじゃねーよ、クセになるぞ。」 『いいじゃない別に。ねー神楽ちゃん?』 「ねー。」 そんな微笑ましい会話が繰り広げられる万事屋で、僕はこっそり微笑んだ。 まるで本物の家族のようなこの3人の日常を見るのが僕は大好きだった。 まぁその家族の中に僕も入ってるんだってさんは言うけれど、 それでもやっぱり3人のこういう下らない会話はそこら辺の家族って感じで、 別に疎外感があるわけでもなく、傍で見ているのが僕の楽しみの一つになっていた。 『じゃあちょっと取ってくるね。新ちゃん包丁準備しといて。』 「はーい。」 僕が返事をすると、さんはにっこり微笑んで部屋を後にした。 銀さんはその後姿を見送った後、「ったく、」と言って食事を再開する。 まるで夫婦のような2人だけど、実は銀さん、 まださんにちゃんと「好きだ」って言っていないらしい。 銀さんの話では寺子屋時代に一度それらしいことを言った事はあるらしいが、 さんが『え?そんなこと言われたっけ?』と言っていたので本当の所は分からない。 あと、桂さんの話によると攘夷戦争時代にも お互いにプロポーズ紛いのことを言ったことがあるらしいんだけど、 それに関しては2人とも「『え?そんなこと言ったっけ?』」といった調子だった。 まぁ2人とも信頼しあってるし、多分お互い両想いだってことは分かってるだろうから、 周りがとやかく言うことでもないかなぁと思ってるんだけどね。 “結野アナの、ブラック☆星座占〜い” 「おっ、始まったか。」 「私はきっと1位アル!なんか今日調子いいから!」 「さんの星座も見といてあげよっと。」 お目覚めテレビの人気コーナー、結野アナのブラック星座占いが始まった。 1位はなんとさそり座。 僕の隣では神楽ちゃんが「やっぱりな!」とガッツポーズをし、 銀さんは「んだよチクショー!」と頭を抱えた。 そこからどんどん占いは進み、僕は8位、さんは10位だった。 なんだか微妙な順位なのでさんに伝えるべきか伝えないべきか考えていると、 万事屋の戸がガララッと開き、さんがリンゴを持って帰ってきた。 『あれっ、星座占いもう始まってるじゃない。アタシ何位だった?』 「お前は10位だよ。ちょ、お願いだから黙ってて。」 『えぇっ?10位?なんかヤだなー。』 さんは言いながらソファーに座り、 僕が用意していたまな板と包丁でリンゴを切り始めた。 っていうか、銀さんちゃんとさんの星座チェックしてたんだ。 何だかんだ言って、やっぱり銀さんはさんのこと好きなんだなぁ。 僕は思わず銀さんの方を見てニヤニヤと笑ってしまった。 “そして今日最も悪い運勢なのは……ごめんなさい、てんびん座のアナタ” 「オイオイ勘弁してくれよー!やっぱり俺じゃねーか!」 「ゲハハハハ!1位の神楽ちゃんが運を分けてやろーか?」 「ちょ、お前イラッとくるわ。ちょっと黙っててくんない。」 結野アナがブラックスマイルでてんびん座の不運を告げると同時に、 銀さんがウガーっと頭を抱え、神楽ちゃんがコレでもかと言うほどドヤ顔になる。 そんな2人の様子に、さんは無邪気にケラケラと笑っていた。 “今日は何をやっても駄目駄目な日。大好きな人に嫌われちゃいそう” その言葉がテレビから流れた瞬間、銀さんはバッとさんの顔を見た。 「オイ!!お前俺のこと嫌いにならないよな!?絶対に嫌いにならないよな!?」 『えっ?』 さんはいきなりのその言葉に驚いた顔をした。 『あー……まぁ、多少のことでは。』 「絶対だぞ!?絶対に俺のこと嫌いになるなよ!?」 ガタンッと机に身を乗り出しながら言った銀さんに、 さんは苦笑いで困った顔をしていた。 「ちょっと銀さん落ち着いて。たかが占いなんですから。」 「バッカお前!結野アナの占いはよく当たるんだからな!!」 どうやら銀さんは結野アナの占いに全幅の信頼を寄せているようで、 最下位だったことが衝撃的すぎて自分が今デレデレなのに気づいていないようだった。 さんはというと、いつもツンツンしている銀さんが急にデレて、 そのギャップについて行けていないと言うか、正直ちょっと引いていた。 “でも大丈夫!そんなアナタのラッキーアイテムは彼女のキスか――ブチン” 「え?」 テレビの画面が真っ黒になるのと同時に、銀さんの口から間抜けな声が飛び出した。 『ヤだ、停電?』 すっかり暗くなってしまった室内に、さんはそう言いながら辺りを見回した。 『ちょっと新ちゃん窓開けて。 神楽ちゃんはふすま開けて向こうの部屋の窓開けてきて。』 「分かりました。」 「あいあいさー!」 さんの指示で僕たちは外の光を室内に取り込んだ。 どうやら他の家も窓を開け始めていることから、かぶき町一帯の停電らしい。 今が朝で本当に良かった。夜に停電なんてことになったら大変だ。 「え、ちょ、嘘だろ……?」 銀さんの震える声に、僕たち3人は一斉に銀さんの方を見た。 すると銀さんは目を真ん丸に見開いて、絶望的な顔をしている。 そっか、さっき銀さんのラッキーアイテムの途中で電源が切れたんだっけ。 『あーあー、銀時ドンマイ。』 「大丈夫アルよ銀ちゃん、1位の私が銀ちゃんのコト守ってあげるネ。」 さんと神楽ちゃんが銀さんにそう声をかければ、 銀さんはハッとしたようにさんを見て、 そして目にもとまらぬ速さでさんに歩み寄りその肩を掴んだ。 『えっ!?ちょ、何!?』 もちろん突然肩を掴まれたさんは驚いていたけれど、 僕と神楽ちゃんは別の意味で驚いていた。 まさか銀さん、占いを真に受けて……!? チュッ そんな軽いリップ音と共に、銀さんを除くその場に居た全員の目が見開かれた。 「コレでよし。確かラッキーアイテムは彼女のキスとか言ってたもんな。」 ふぅ、とまるで一仕事終えたように息をついて満足そうにそう言った銀さんの前では、 顔を真っ赤にしたさんがふるふると体を震わせていた。 『銀時の……。』 「え?」 おもむろに聞こえてきたさんの震える声に銀さんが首を傾げれば、 さんは思いっきり息を吸い込んで銀さんを睨みつけた。 『銀時のっ、ばかぁぁぁ!!!!!!』 その日、かぶき町で頬に綺麗な紅葉をつけた銀さんが目撃された。お目覚めテレビに気をつけろ
(銀時なんか大ッ嫌い!) (ほらみろ!結野アナの占いは当たるだろーが!) (いや、完全に自業自得でしょ) (占いなんかに振り回されるからそんなんなるアル) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 何も考えずにヒロインさんにチューしちゃう銀ちゃんも可愛いと思うのです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/08/10 管理人:かほ