「いや、ねぇわ。」 坂田のその一言に、公園のベンチでジャンプを読んでいた俺は耳を疑った。 「え?何?何がねぇって?」 「いやだからぁ、俺がアイツ等と一線越えたってのがねぇって言ってんの。」 坂田はやけに自信満々で、その表情からは焦りも何も感じ取れない。 俺は最初、この余裕はただの強がりに決まっていると思っていたが、 どうやら様子を見る限りそういうことでもないらしい。 今の坂田には明らかに「不祥事は起こしていない」という確固たる自信があった。 「いやいやいや……え?だって女共の家に確認とって来たんだろ? 起きたらババァとホテルで寝てたんだろ? キャバ嬢の姉ちゃんも柳生家の嬢ちゃんも処女奪われてたんだろ? 吉原の姉ちゃんに至っては花魁道中が開催されてたんだろ?」 「えぇー?なーんかキナ臭くなーい?」 バレている。俺は瞬間的にそう悟った。 坂田はこれがドッキリであることを知っている。 だからこんな女子高生みたいな態度で俺にカマをかけるという余裕を見せているのだ。 何故だ、何故バレた。聞いたところ女共がバラしたようでもない。 元々この作戦は向こうから持ちかけてきたんだ、冷静に考えてバラすはずがない。 じゃあ部外者が?いや、それはない。 坂田が聞いて回りそうなところにはすでに袖の下を送って対処している。 じゃあ何故だ……何故この男はこんなにも余裕の表情を保っていられるのだ……。 「いやいや、俺見たよ?お前が女共と一緒に店を出て行くの。」 「うっそだー。なんかお前嘘くさいわー。ってかありえねぇし。」 ダメだ、もうコイツの中では この一連の騒動は俺たちのドッキリだと結論が出ているようだ。 その証拠に、坂田はさっきから俺に疑いの視線をガンガン送ってきている。 こんな状態の坂田に今更どんな追い討ちをかけても絶対に信じないだろう。 どこだ……どこに誤算があったんだ……! 「え、えぇー?お前なんでそんなに自信満々なの? だってお前、昨日の記憶ねぇんだろ?もしかしたらってことがあんじゃん。」 「だって俺と不祥事起こしてねぇもん。」 それが決定打だった。 坂田は俺をまるで罪人を見るかのような目で睨みつけていた。 「俺がをスルーして他の女を襲うなんてありえねぇし。 確かに昨日の記憶が全くねぇから最初は焦ったけど、 アイツ等の家を回った後ににも確認取ったら、とはヤってねぇって。 例えベロベロに酔ってたんだとしても、俺がを襲わねぇなんてあり得ないわ。」 クソッ……そういうことか。 コイツが生粋のバカだということをすっかり忘れていた。 いや、分かっていたがそれを考慮した結果が裏目に出てしまったようだ。 俺は女共と打ち合わせをした時、あえてを坂田の不祥事リストから除外した。 坂田は常日頃からを押し倒そうと奮闘していた。 そんな状態で不祥事なんか起こしてみろ、 「じゃあ責任とってと結婚するね」なんて言いながら ノリノリで事を進めてしまうに決まっている。 今回の作戦はあくまでも坂田を追い詰めることだ。 をリストに入れてしまったら罰にも何にもならない。だから外した。 しかし、それが今回の不祥事からリアリティを奪い、 さらには坂田の「俺はやってない」に自身を持たせることになってしまうなんて……! 「そ、そうか……そうだよな……。」 俺は意を決し、一か八かの作戦変更を試みた。 「お、お前……実は覚えてんじゃねぇの?昨日のこと。」 「はぁ?」 「お前の言う通り、最初はだったっけなぁ……。」 俺の言葉に、坂田の目が見開かれた。 「え?何?どういうこと?」 「あっ、ヤベ、から口止めされてんだった。」 「えっ!?ちょ、気持ち悪いじゃねーか!もう最後まで言えよ!!」 俺の作戦通りに食いついてきた坂田を一瞥し、俺はわざとらしく話し始めた。 「あー、実はな、昨日お前がヤっちまったのは6人じゃなくて7人なんだよ。 お前の言う通り、最初の犠牲者はだった。」 「え!?マジで!?俺とヤったの!?」 俺の話術が神懸っていたのか、 いきなりの路線変更に坂田は何の疑いも持たずに乗っかってきた。 どうやらと一線越えたという事実(いや、嘘なんだけど)が よっぽど嬉しかったらしい。 「あぁ。だがその後お前はだけでは飽き足らず、 酔った勢いでその場に居た女共を全員手玉に取っちまったんだよ。」 「嘘だ!それは嘘だ!!」 「いいや、本当だ。それを聞いたは酷く心を痛めてな……。 お前のことだから、私と結婚するって言ってきっとみんなのコト責任取らない、 だから私との不祥事はなかったことにして、 みんなの責任を取ってもらうようにしようって俺たちに提案したんだ。」 「そ、そうだったのか……。」 坂田は暗い声でそう呟くと、普段は絶対にしないであろうほど深刻な顔になった。 俺はと言うと、そんな坂田の反応に笑いを堪えるので精一杯だ。 何だコイツ、バカなのか。何で今の流れで全部信じる? と言うかお前は一晩で7ラウンドも出来るほど種馬なのか? コイツとイイ感じだったらあとはどうでもいいのか。 いくらなんでもムリヤリすぎるだろ、自分で言ってて思うけど。 さっきと話している内容は全く変わっていないのに、 との不祥事を付け加えた途端、坂田は自分の不祥事を素直に受け入れた。 「俺……全部責任取るわ。」 「え?」 坂田のその一言に、俺は耳を疑った。 コイツ今なんて?全部責任取るって?え? って言うか何でそんなに清々しい顔してんの?7股かましといてよくそんな顔……。 「俺、と結婚してアイツ等との子供は養子に取るわ!」 「…………え?」 やけに爽やかな表情でそう言って、坂田は俺に背を向けた。 「そうと決まれば早速アイツ等に話つけてくるわ! 俺はと結婚するからマジ悪ぃ、でも子供はちゃんと責任取るからって!」 「いやいやいやちょっと待てお前なんか色々とおかしいぃぃ!!!! 何お前壊れたの!?いきなりの事態に頭ブッ壊れたの!? のことしか見えてなさすぎだろ全然責任取れてねぇよ!! ちょっ!ちょっと待てって!!ちょっ!! 誰か、誰かコイツを止めてくれぇぇぇ!!!!!」 結局、俺たちの作戦は失敗に終わった。猪突盲進
(んだよ、やっぱりドッキリだったのかよ。勘弁しろよな) (それはこっちの台詞だバカヤロー……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 不祥事篇、なんかいろんな意味でドキドキしました(笑) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/08/20 管理人:かほ