しょうせつ

「勝男!あぶさん!どうしよう!俺に捨てられるかも!!」

ある日の国語準備室でいきなりそう叫んだ銀時に、
俺と黒駒は作業していた手を止めず、同時に「あっそう」と冷ややかな態度だった。

「何だよテメー等!!何その反応!!冷たすぎやしねぇか!?」
「あ、やってもーた……あぶさん、ちょいそのハサミ取って。」
「ん。」
「テメー等せめて人の話聞けやァァ!!!!!」

銀時は腹の底からそう叫びながら持っていたスティックのりを床に叩き付けた。
その反応に、俺達はやっと作業していた手を止めて銀時の方を見る。

「何やねんうっさいなぁ。こっちは忙しねん。
 っちゅーかお前もさっさ手伝えや遊んどらんと。」
「あのなぁ!同僚が困ってんだぜ!?
 ちょっとは相談にのってくれてもいいんじゃねぇの!?」
「が簡単に男を捨てるわけねぇだろ。はいのった。」
「流石あぶさんや、言葉の重みがちゃうわ、重みが。深いわ〜。」
「どこがだァァ!!!!!!」

俺と黒駒の見事なコンビネーションに、銀時はまたしても腹の底からシャウトした。
ただいまの時刻、放課後の6時半。
生徒はほぼ帰っているが、教員はほぼ残っている時間だ。
そろそろ職員室辺りから
「うるせぇんだよテメー等!!」と苦情が来ても何らおかしくはない。

「オイお前等いい加減にしろよ!?俺がに見捨てられてもいいってのか!?」
「別にええんとちゃうの。むしろ大半の男は大歓迎やろ。」
「んっだとテメェ!!
 まさかお前生徒であるに色目使ってんじゃねぇだろーな!!」
「現在進行形で付き合ぉとるお前にゆわれたないわ。」

黒駒は冷ややかにそうツッコんでから作業を再開した。
さっきから俺達が何を作っているのかと言うと、
明日の体育の日にちなんで来週から始まる運動週間の呼びかけポスターだ。
今年は国語科と理科の教員がポスターを作ることになり、
こうして男3人が同じ部屋に集まって虚しくポスター作りに勤しんでいるというわけだ。

「俺のどこがダメだったんだよー!!」
「うっさいわ!!!!それなくても暑苦しいんに余計暑苦しなるやろが!!!!
 ちょっとは黙っとけ!!それが出来へんのやったらどっか出て行け!!」

叫びながらその場で崩れ落ちた銀時にとうとう痺れを切らしたのか、
黒駒が怒鳴りながらその場で立ち上がり、
床でだんご虫みたいになっていた銀時を容赦なく踏みつけだした。

「まぁまぁ黒駒、ちょっと落ち着けよ。
 銀時もアホなこと言ってねぇでさっさとポスター作っちまうぞ。
 あのがそう簡単にお前を見捨てるわけねぇだろ。」

俺が黒駒をなだめながら銀時に言えば、
銀時はその場でバッと顔を上げ、ほとんど泣きそうな声でこう叫んだ。

「愛想尽かされたのかもしんねぇじゃん!飽きられたのかもしんねぇじゃん!!」
「なんや、心当たりでもあるんかい。」
「いいや!!俺はを世界で一番愛してると自負してる!!
 と付き合ってからタバコも控えてるし酒も控えてるし
 パチンコに入り浸ってねぇし風俗にも行ってねぇし借金もしてねぇ!!」
「とりあえず今までが最低だったって事だけは分かったが……。」

予想以上のマダオっぷりに顔を引きつらせる俺と黒駒を華麗にスルーし、
銀時はソファに座りなおしてから一度大きく溜息をついてその場に落ち着いた。

「最近なんかおかしいんだよ……。
 昨日も今日も一緒に帰るの断られたし、何か隠し事してるっぽいし……。」
「そらもう完全に浮もがが!」
「黒駒、銀時にここで発狂されたくなかったら黙ってろ。」

俺は浮気というNGワードを口にしかけた黒駒の口を塞ぎ、銀時に続きを促した。
すると銀時は最近態度が冷たいだの忙しいからって電話に出ないだの
どこからそんなに不満が出てくるんだと言いたくなるほどの不満を口にした。

「一番酷いのはメールだ!
 俺が一日100通メール送っても返って来んのは2、3通だけなんだぜ!?」
「もーそれただの嫌がらせやろ!!!!!」
「案外それが原因だったりしてな……。」

とことん予想外すぎる銀時の言葉に、俺と黒駒はそろそろが不憫に思えてきた。
よくもまぁこんなマダオと付き合ってるなぁアイツ……。
俺が苦笑いをしながらそんなことを考えていると、
突然銀時が「それに……」と消え入りそうな声で呟き、
ソファーの上で体育座りという典型的ないじけ方をした。

「明日は俺の誕生日なのに、何も言ってこねぇし……。」

その言葉を聞いた瞬間、俺と黒駒は同時に顔を見合わせた。

「あー……そーいやぁ明日もポスター作りすんのかって訊かれたなぁ。」
「別に来てもええよってゆうたわ、そーいえば。」
「はぁ?お前等一体何言ってんの。」

俺達の会話に不機嫌そうにそう言った銀時に、
黒駒は「アホらし……」と作業に戻り、俺は銀時の肩を叩いてこう言った。

「まぁ、明日を楽しみにしてろって。」





翌日、銀時がサボったせいでポスター作りが終わらなかったので、
俺達は坂田家でポスター作りを再開していた。
しかし、銀時は今日も使い物にならず、
さっきから「俺教師辞めるわ……」とブツブツ言いながら
スティックのりのケツの部分でひたすら蜘蛛の巣を作り続けていた。

「あぶさんアイツどついてもええかな。」
「まぁ落ち着けよ。が来るまでの辛抱じゃねーか。」

俺がイライラし始めた黒駒にそう言ってしばらくしてから、
待ちに待ったインターホンが室内に鳴り響いた。

「おっ、やっと来たか。」
「オイ銀時!お前しっかりせぇよ!客やぞ!」
「あぁ……?俺の第一発見者か……?」
「お前まだ死んでへんやろ!!」

俺はそんな会話を繰り広げている2人を置いて部屋を出た。
そして玄関に辿り着いて扉を開けると、そこには予想通りの姿が。

『お仕事中にすみません……。』
「いやいや、むしろ助かった。」
『へ?』

意味が分からないと言いたげな顔で首を傾げたに、
俺はここ最近の銀時の様子を話してやった。
するとは驚いたような呆れたような表情になり、
そして『はぁ……、』と大きな溜息を吐いた。

『まさかそんなことになってるなんて……。』
「アイツ、お前には何も言ってなかったのか?」
『銀ちゃん、年上としてのプライドがあるらしくって、
 弱みとか悩みとか絶対にアタシに言わないんですよ。』

苦笑して言ったに、俺もつられて苦笑した。
なるほど。一応の前でだけは教師であり年上である自分を保っていたと。
まぁそれも今しがた崩れ落ちたのだが、
ちょっとは銀時の奴を見直してやってもいいかな、と思った。
ちょっとは、だけどな。

「オーイ銀時、がクッキー焼いてきたってよー。」
「えっ!?!?」

俺がを連れて部屋に入りながら話しかければ、
銀時は“”という単語に反応してバッと顔を上げた。
そしての姿を確認したとたん、
勢いよくその場に立ち上がっての元へと歩み寄った。

「!お前っ、何でここに……!?」
『銀ちゃん今日お誕生日でしょ?
 だからビックリさせようと思って内緒でクッキー焼いてきたの。』

はそう言いながら手に持っていた可愛らしい袋を銀時に差し出した。

『でも、銀ちゃんに心配かけちゃったみたいで……。ごめんね、銀ちゃん。』
「……っ!……!!」

の奥ゆかしい態度に銀時はしばらくその場でわなわなと震え、
そして何かが弾けたようにガバッとに抱きついた。

「ー!!疑った俺が悪かった!!愛してるぞー!!」
『ちょっ、ちょっと!阿伏兎先生と勝男先生も居るのに……!!』
「あー、ええねんええねん。俺らは居らんと思いー。」
「落ち込まれるよりそっちの方がまだマシだ。」
『えぇー!?』

こうして、銀時の悩みはただの考えすぎとして解決したのだった。




いつまで経ってもだから

(あっそうだ、阿伏兎先生と勝男先生にもクッキー焼いてきたんです) (何ィ!?オイ!浮気かお前!!) (銀ちゃんのは全部ハート型だから、先生達のは星と四角と丸のやつ) (……!(キュン)) (あぶさん、アイツどついてもええかな) (いいんじゃねぇか?もう殴り倒してやれよ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ まさかのメンバーで趣味丸出しな上に遅れちゃったけど、 銀ちゃんハッピーバースディ! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/12/25 管理人:かほ