しょうせつ

年が明け、夜中にスナックお登勢でみんなと騒ぎ、
アタシは途中で眠たくなったので夜中の3時くらいに就寝した。
元日早々ちょっくら野暮用もあったしね。
そして朝の7時頃に目が覚めてお店に出ると、
銀時と長谷川さんとキャサリンがまだお店でお酒を飲んでいたのである。

『うわっ、アンタ達もしかしてオールしたの?』

呆れた声でアタシが尋ねると、ベロンベロンに酔っ払った銀時が
同じくベロンベロンに酔っ払った長谷川さんと肩を組んだまま返事をした。

「あったぼーよ!これが大人の年越しってやつだ。なぁ、長谷川さん?」
「おーよ!今日はどんなに飲んでも定額だってお登勢のババァが言ってたからな!
 こりゃ飲まなきゃ損ってやつだろ!なぁ銀さん!」

2人はそう言い合うと同時に「がはははは」と大笑いを始めた。
すると隣で一升瓶を一気飲みしていたキャサリンも続けて笑い出す。
ダメだ。完全に酔っ払いのテンションだ。関わらないでおこう……。
アタシは対応が面倒くさくなって3人を通り過ぎてお店の外に出た。

『うわっ、外めっちゃ雪降ってる!』

驚いたアタシは思わずそんな独り言を口にした。
お店の扉を開けた瞬間、辺り一面雪で真っ白に染まっていた。
道行く人もこれでもかというくらい防寒対策をしている。
アタシは今になって
着流しにチャンチャンコという軽装備で外に出てきてしまったことを後悔した。

「オイ寒いだろーが。、そこ閉めろ。」

外からとても冷たい空気が店内に入り込んでいたので、
銀時が怒ったようにそう言ってアタシの顔を見た。
アタシはちょっとだけムッとしながらも言われたとおりに扉を閉め、
寒い寒いと言って体を抱きながら銀時たちの方へと戻っていった。

『あーヤだなー、外出たくないなー、ヤだなー。』

とうとう酔いつぶれてしまったキャサリンの隣に座ってアタシがそう文句を垂れれば、
正面に座っていた長谷川さんが不思議そうな顔をしてアタシを見た。

「何?ちゃん今日なんかあんの?元旦だよ?」

そう尋ねた長谷川さんの隣では、
同じく銀時が不思議そうな不機嫌そうな顔をしてアタシを見ていた。
何なんだ。さっきから何でこんなに機嫌が悪いんだ。
アタシが一体何をしたっていうの?

『こないだ買い物行った時にね、落さんにちょっとサービスしてもらったから、
 今日はそのお返しで隣町までイベントの手伝いに行かなきゃならないの。』
「えぇ?隣町?」

長谷川さんはお酒のせいで真っ赤になった顔で
「結構キョリあるぞ……」と心配そうに眉間にしわを寄せた。
長谷川さんは銀時と違ってベロンベロンになっても理性を失わないから凄いよなぁ。
マダオな所を除けばとってもいい人なのに。

『そうなんだけど、元旦だと人が集まらなかったみたいで……。』

アタシが苦笑しながらそう言えば、長谷川さんは「大変だなぁ」と呟いた。

「それって給料出るの?」
『ううん、ボランティア。』
「そっか……給料が出るなら俺が代わってやったのに……。」
『うん……その気持ちだけで十分ありがたいよ……。』

金にならなくても代わってよ……。
長谷川さんの言葉にそう思ったアタシだったが、
アタシのことを心配してくれていることには変わりないので
さっきの感情はそっと心の中にしまっておいた。

「隣町までは一人で行くのか?結構積もってたみたいだけど。」
『ううん。真選組の車に迎えにきてもらえるの。だからそれに乗って――』

ダンッ

アタシが長谷川さんの質問に答えていると、
急に銀時が持っていた一升瓶を乱暴に机に置いた。
そして思いっきりアタシのことを睨んでくる。
何なの、さっきからアタシに喧嘩売ってるのコイツ。
銀時はお酒飲むと理性が飛ぶから嫌なのよね……あぁ面倒くさい。

「オイテメェ、真選組に迎えに来てもらうって一体どういうことだ。」

案の定むちゃくちゃ喧嘩腰の銀時に、アタシは小さく溜息を吐いた。
何で今日はこんなに機嫌悪いのよ……まぁお酒のせいなんだろうけど。

『今日手伝いに行くイベント、有名人のイベントだから、
 護衛として真選組も来ることになってるの。
 だから知り合いのよしみで車に乗せてってもらえることになったのよ。』
「テメー、ヤローばっかりの車に乗るつもりか!あぁん!?」
『何でそこで怒鳴られなきゃなんないの!?銀時には関係ないじゃん!』
「んっだとテメー!関係大有りだろうが!!」
「まぁまぁ銀さん、ちょっと落ち着けよ……。」

口喧嘩になってしまったアタシ達を長谷川さんがオロオロしながら止めていたけど、
銀時はすでにその場で立ち上がっていたし、
アタシも何だか腹が立ってきてバッとその場で立ち上がってしまったので、
長谷川さんはとうとう諦めたのか、苦笑しながら2、3歩後ろに下がってしまった。

『ヤローばっかりって言うけど、一緒に車に乗るのは
 近藤さんとトシと総悟だもん!安全なメンバーじゃない!』
「何が安全なんだよ!!江戸で一番最悪のメンバーじゃねぇか!!」
『アンタよりはマシよ!あっちは良識ある警察だもん!!』
「あぁん!?アイツ等のどこに良識があんだよ!!」
『ゴメンちょっと嘘ついた!!あんまり良識なかった!!』

アタシと銀時はそこまで言い終わるとお互いに不良よろしく相手を睨みつけた。
銀時は上から高圧的なメンチをきり、アタシは下から抉るようなメンチをきる。
お互いに負けん気だけは強いのでその状態での睨み合いが数秒間続いたけど、
急に銀時が舌打ちしたかと思うとバッとその場で踵を返し、
カウンターに置いてあったお気に入りのジャンバーに袖を通しだした。

『ちょっと、何してるのよ。』

アタシが尋ねると、銀時はジャンバーだけでなくマフラーまで着用し、
何故か外に行く準備万端の状態でアタシの方に振り向いた。

「送ってってやるっつってんだよ!!いいからさっさと仕度しろやこのノロマ!!」
『はぁ!?別にいりませんけど!どうせ銀時バイクでしょ!?車の方がいいし!』
「バカ言うんじゃねーよ!こんな雪の中バイクなんて飛ばせるわけねぇだろ!
 歩きに決まってんだろーがこのバカ!バーカバーカ!!」
『バカはお前だバカー!!尚のこと車の方がいいわ!!』

いきなり意味不明な罵倒を浴びせられ、アタシはその場でバカを連呼し続けた。
すると怒った銀時がドスドスとアタシの方に歩み寄ってきて、
乱暴にアタシの腕を掴んだかと思うとグイッと自分の方に引き寄せてこう怒鳴った。

「新年早々お前を俺以外のヤローの中に放り込みたくねぇんだよ!!
 今日は一緒にイベント手伝ってやるから黙って俺の隣に居ろやボケ!!」
『なっ……!?』

アタシは銀時のその言葉に思わず顔を真っ赤にしてしまった。
たった今アタシが受けた仕打ちは理不尽に怒鳴られるという酷いものだったけど、
怒鳴った内容というか、銀時の台詞というか、
それがその……とっても恥ずかしい内容だったので……不可抗力だよね。

「ったく元旦から怒らせんなよテメーは!今のが俺の初怒鳴りだコノヤロー!
 分かったらさっさと服着て髪といて化粧でもして来いバカヤロー!」
『けっ、化粧はいつもしてないもん……。』

アタシはそんな精一杯の強がりを言った後、
銀時から逃げるようにそそくさと自分の部屋に戻っていった。
今年のアタシの“初キュン”は、悔しいけど銀時に持って行かれてしまったようだ。




一年のは初キュンにあり

(あーさみぃ。何でこんな日に依頼なんて受けんだよ) (寒いんだったら帰りなよ。別に頼んでないし) (うるせぇな。寒いんだからもっとこっちに寄れよバカヤロー。気が利かねぇな) (気が利かなくて悪かったわね。アンタは素直じゃないくせに……) (あぁ?何か言ったか?) (いいえ!何にも!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ やっぱり銀ちゃんはツンデレに限るよね! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/01/02 管理人:かほ