しょうせつ

“銀時!丁度良かった!買い物付き合ってよ!”

“銀時!丁度良かった!真剣で突き合ってよ!”

“銀時……丁度良かった……。真剣に付き合ってよ……。”

俺はそんなアホらしい台詞と悪ふざけしかない選択肢の山を乗り越え、
プレイ12日目にしてやっとゲーム内のと恋人同士になることが出来た。
毎日毎日、神楽やの目を盗んでラブチョイス2をプレイすることは
どこぞの名探偵よりもスリルとショックとサスペンスに満ちていたが、
俺はようやく晴れての彼氏になることが出来たのだ。

「な、長かった……。」

深夜の布団の中で、俺は疲労困憊のため息を吐いた。

思い返せば長い道のりだった。
最初のモードは“知り合いモード”、街中で会うたびに荷物持ちをさせられ、
画面右から流れてくる商品をタイミング良くタッチして買い物カゴに入れ、
さらに画面右からやってくる大量の不良やヤクザをうまく避けて
荷物を落とさないようにしながら万事屋に帰ってこなければ好感度が溜まらないという、
途中から恋愛ゲームをしているのか疑わしくなってくるステージだった。

次のモードが“気になるアイツモード”というやつで、
知り合いモードよりは親密な関係になりイチャイチャできるのかと思いきや、
街中で会うたびに真剣での斬り合いを要求されるという恋愛ゲームあるまじきステージだ。
主人公の俺のモノローグでは
「は俺への気持ちの変化に気づき始めたが、
 それが恋心なのか憎しみなのかが分からないから、
 俺を傷つけることで確かめようとしているんだ」
とかポジティブなのかただの頭おかしい奴なのか分からないような解釈をしていたが、
軽く戦国バ○ラとタメ張れるくらいの戦闘モードだったので
恐らくは本気で俺を殺りにきていたと思う。

そんな戦場モードをやっとのことで乗り越えると、お待ちかねの告白タイムだ。
ある日お登勢のババァから見合いの話を切り出されたが家を飛び出し、
俺はを追いかけて隣町にある公園まで走っていく。
そこでが“断るにしても、彼氏がいないんじゃ難しいよね……”と弱気な発言をし、
俺が「こんなちゃらんぽらんで良ければまだ売れ残ってるぜ」と言葉を返す。
そしてこの小説冒頭のあの“付き合ってよ”につながるというわけだ。

「プレイ時間20時間にしてようやく恋人同士かよ……ったく。」

俺は小さく舌打ちをしてゲームの電源を落とした。
ここまで来るために恋愛ゲームとはなんぞやという自問自答を繰り返してきたが、
明日からは晴れての彼氏としてゲームをプレイできるわけだ。
それだけで今までの苦労が報われる。
俺はDSを枕カバーの中に隠し、そのまま就寝した。





「銀さん!!大変です!!起きてください!!」
「銀ちゃん!!起きてヨ!!大変ネ!!」

翌日、俺はそんな2人の大声で目が覚めた。

「んんんー……んだよ一体……。」
「がババァんとこ飛び出してったネ!!」
「はぁっ!?」

神楽のその一言で俺はガバッと飛び起きた。

「が飛び出してった!?」
「そうなんですよ。お登勢さんの話によると、
 常連さんからさんに見合いの話があったそうで、
 会うだけ会ってやってほしいと頼んだら、急に飛び出して行っちゃったみたいで……。」
「は……?オイオイ、それって……。」

俺は昨日のラブチョイス2を思い出した。
確かゲームの中のも見合いが嫌でスナックお登勢を飛び出して、
そして隣町の公園で俺に見つかって、それから――……。

「……はは、まさかな。」

乾いた笑いで「ないないない」と首を振る俺に対し、新八と神楽は怒ったように
「笑ってる場合ですか!」「早くを探すアル!」と俺を急かした。

「じゃあ僕は近所の人たちにさんを見てないか聞き込みをしてきますね。」
「私はかぶき町中駆け回ってを探すヨ!」

そう言って張り切って出て行く新八と神楽の背中を見送りつつ、
俺はしばらく考えてやはり隣町の公園に行くことにした。
ゲームと全く同じことが起こっているとは考えにくいが、
手当たり次第探すよりも少しでも心当たりのある場所を探す方が効率が良い。

「いや、居ないと思うけどね、うん。まさかなぁ……。」

俺は独り言を言いつつ公園に向ける歩みを速めた。





「嘘……だろ……。」

隣町の公園に到着した俺は、ブランコに乗りながら遠くを眺めているの姿に
思わず入り口で呆然と立ち尽くしてしまった。
オイオイオイ、これじゃあまるっきりゲームと同じじゃねーか。
確かゲームの中のも公園でブランコに乗ってて、俺が近づいたらこっちを向いて、

『銀時……。』

って寂しそうに俺の名前を呼んで、そしてあの台詞を言うんだ。

『お登勢さんに聞いた?お見合いの話。』

ドクリドクリと俺の心臓がうるさく鳴り響く。
まるで昨日の画面越しの光景を見ているかのようだった。
しかし今は違う。
俺はパジャマでもなければ布団の中でもない。ましてや、は平面ではない。

『断るにしても、彼氏がいないんじゃ難しいよね……。』

ドクン、俺の心臓が大きく飛び跳ねた。
ゲームと全く同じ台詞。
このあと俺がゲームと同じ台詞を言えば、と付き合えるとでも言うのか?
今俺の目の前に居る、正真正銘現実のと?この俺が?

攘夷志士時代からずっとアプローチし続けていたのに、
いつも冗談だと思って笑って受け流してきた、このが?
夜中に布団に忍び込もうものなら真剣振り回して怒鳴り散らす、このが?
いつもツンツンしてて、素直じゃなくて、がさつで乱暴で、
俺が守らなくても自分で自分の身を守っちまうくらい可愛げのない、このが?

「こっ……。」

いつも俺と口喧嘩するくせに、いつまで経っても俺から離れようとしないで、
俺の仕事手伝ったり家事しに来たり俺に笑いかけてきたりする、このが?

「こんなちゃらんぽらんで良ければ……。」

自然と口が動いていた。の驚いた顔が昨日の映像とダブって見える。
俺が最後の言葉を言い終わると、今度はの口からあの台詞が聞こえてきたのだった。


続く

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銀ちゃんに襲い掛かるまさかの展開です。


※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。

2013/04/12 管理人:かほ