しょうせつ

『銀時、一緒にお出かけしない?
 べ、別にデートとかそんなんじゃなくて、
 こないだ近所に出来た甘味処、一緒にどうかなぁって思っただけ!』

『銀時……今日ね、お登勢さん達が町内会の慰安旅行で留守にするの……。
 だから、その……一緒に寝てもいい……?』

『銀時、ちゃんのことス・キ……言ってみ?』


「うがあああぁぁぁぁぁ!!!!!!!バコォン!!!!!

俺はとうとう頭がオーバーヒートしてしまい、
奇声を発しながら社長机に思いっきり頭を打ち付けた。
その衝撃で社長机が真っ二つに割れてしまったが、んなこたぁどうでもいい。
問題は小説冒頭のゲームのようなの台詞が全て現実であるということだ。

「ちょっとちょっと!どうしたんですかいきなり!」

俺の奇行に、本日唯一出勤していた新八が慌てて俺に駆け寄ってくる。
は今日はババァの店を手伝う日だし、神楽は朝早くから友達と一緒に出掛けていた。

「ししし、新八くん、ちょちょっ、ちょっと聞いてくくくれるか……。」
「しっかりして下さいよ銀さん!一体どうしたんですか!」

動揺のあまり上手く喋れない俺にますますオロオロする新八。
俺はとりあえず自分を落ち着かせるため、社長椅子に座り大きく深呼吸をした。

「実はな……最近ゲームと現実がリンクし始めたんだよ。」
「はぁ?」

新八が言いながら「まさかコイツまた……」とでも言いたげな顔をして
俺を冷ややかな目で見つめてきたので、俺は「いやいやホントだって!」と慌てて続けた。

「こないだのの家出事件だって、最近俺とが付き合い始めたのだって、
 が最近めちゃくちゃ甘えてくるのだって、
 デレデレすぎてむしろツンはどこ?みたいな状況になってるのだって、
 全部ゲームの中でそうなってるから現実でも起こってるんだよ!!」

俺が思わず立ち上がりながら熱弁すると、
新八は依然として疑うような目で俺を見ていたが、
しばらくしてから「そう言えば最近のさんはちょっと変ですよね……」と呟き、
手を顎に当てて典型的な考えるポーズをとった。

「一重に銀さんと正式なお付き合いを始めたせいだと思ってたんですけど、
 言われてみれば確かに言動がラブチョイスっぽいかもしれませんね。」
「ぽいじゃなくてそうなんだよ!毎日がゲームそのまま!!
 夜中にプレイした通りの内容が翌日絶対に現実になってるんだよ!」

そう必死に訴える俺の姿を見て少しずつ俺の話を信じている新八だったが、
やはりまだ疑っているのか、「でもそんなことあり得ませんよ」と微妙な返事だ。

「よし、じゃあこれからここで起こることを予言してやろう。
 今からが万事屋に上がってきて、
 “銀時ー、アタシ買出し行ってくるけど何かほしいものあるー?”と尋ねる。
 俺はそこで「いちご牛乳」と答える。するとが
 “そんなに甘いモンがほしいならアタシとちゅーしとけばいいでしょー”と
 笑いながら買い物に出掛けるんだ。」

ちなみに今言ったことは昨日のゲームで俺がプレイした内容だぞ、と付け加えると、
新八はそろそろ俺の言うことが本当だと分かってきたのか、
こわばった顔をしてゴクリと一回生唾を飲み込んだ。

『銀時ー!』

ガララッという音と共にが万事屋に入ってきた。
その声に新八はバッとはねるようにしての方へと振り返る。

『アタシ買出し行ってくるけど何かほしいものあるー?』

のその台詞に、新八が信じられないとでも言いたげな顔で俺を見た。

「あー、じゃあいちご牛乳頼むわ。」
『もぉー、そんなに甘いモンがほしいならアタシとちゅーしとけばいいでしょー?』

は笑いながらそう言うと、『じゃあ言ってくるね』と万事屋をあとにした。

「ぎっ、銀さん!!すごい!!本当に銀さんの言ってた通りですね!!」
「だから言ったろ?ラブチョイス2と現実がリンクし始めたって。」

すっかり俺の話を信じたのか、
新八が「これからどうなるんですか!?」と嬉々として俺に詰め寄ってきた。
その質問に俺は思わず言葉を詰まらせる。

「あー……ゲームはここで終わっちまったから分かんねぇ。」
「えぇ?その場合はどうなるんですか?」
「ゲームでプレイしてねぇ時間は普段通りだ。特に変わったことは起きない。」
「へぇ……そういうもんなんですね。」

新八は感心したようにそう言うと、ふと視線を時計に移した。

「あ、もうこんな時間だ。
 銀さん、僕これから姉上と買い物に行く約束してるので、先にあがらせてもらいますね。」
「あぁ、お疲れさん。気ぃつけて帰れよ。」
「はい。それじゃ、また明日。」

俺は新八の後ろ姿を最後まで見送って、その場に「はぁぁ」と崩れ落ちた。

新八にはこの後の展開はゲームをプレイしていないので分からないと言ったが、
実はそれは真っ赤な嘘だ。
本当はこの後、が買出しから帰ってきた後までプレイしている。
その展開を思い出すだけで俺は自然と口元がニヤけてきた。

「新八に言っちまうと無理してでも残るとか言い出しかねねぇからなぁ……。」

俺はそう呟いて居場所を社長椅子からソファへと移動した。
そう、ゲームの中の俺はここで新聞を読んでいた。
するとそこに買出しから帰って来たがやってきて、
“あー、疲れた。はい、銀時、いちご牛乳”と俺にいちご牛乳を差し出してくる。
俺はそんなの手を引っ張って自分の隣に座らせる。
そして驚いて俺を見上げるにこう言い放つのだ。

「甘いモンがほしいなら、どうすればいいんだっけ?」


続く

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次回、このアホなお話も最終話です。


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2013/06/02 管理人:かほ