ある寒い冬の日、万事屋にはアタシと銀時以外誰も居なかった。 と言うのも、新ちゃんは家でお妙ちゃんと過ごすからって休暇を取り、 神楽ちゃんも星海坊主さんが地球に来てるとかで休暇を取り、 必然的に万事屋は銀時とアタシの2人になってしまったのだ。 そんなわけで、別に仕事があるわけでもなく、 今日は日曜日なので銀時はジャンプを読むでもなく、 家事は朝のうちに済ませてしまったのでアタシもやることがなく、 2人でソファーに向かい合わせに腰掛け、朝からボーっとしていたのだった。 「……今夜は鍋でもするかぁ……。」 ボーッと窓の外を眺めていた銀時がおもむろにそう呟いた。 『……鍋?2人で?』 「いいじゃねーか、2人鍋。」 『2人は寂しいでしょ。材料も中途半端だし。 どうせなら小太郎誘おうよ。今日は確か辰馬も来てるって言ってたし。』 「おっ、いいなぁ。久々に攘夷メンバーで飯でも食うか。」 そんなこんなで、アタシは小太郎に電話した。 いや、正確にはアイツ決まった家がないから幾松さんトコに電話したんだけど、 そしたら丁度店で辰馬と一緒にご飯食べてたみたいで、 夕方になったら食材を買って2人でウチに来ると言って電話を切った。 『銀時、小太郎と辰馬来るって。』 「おー。じゃあ俺たちはチョコレート買いにいくかぁ。」 『は?何で?』 「何でって……鍋と言ったらチョコレートだろーが。」 『お前は久々の再会を闇鍋で台無しにする気か!』 こうして銀時のチョコレート鍋を却下して、 夕方までの時間をお登勢さんの店の手伝いをして過ごし、 2人が来る頃を見計らってアタシ達は鍋を用意して万事屋で2人が来るのを待っていた。 ピーンポーン 『あっ、小太郎と辰馬来た!』 「アイツ等何買ってきやがったんだぁ?」 銀時も久しぶりに4人でご飯を食べるのが嬉しかったようで、 アタシと一緒に玄関まで出て行った。 しかし、そこに立っていたのは小太郎と辰馬の2人だけではなく、 玄関を開けたと同時にアタシと銀時は思わず言葉を失った。 「おぉ金時!相変わらずやる気のない面じゃのぉ〜! は相変わらず可愛いのぉ。どうじゃ?わしと結婚ばせんか?」 「辰馬テメェ……俺の目の前で口説くたぁいい度胸じゃねーか。」 「止めろ2人とも。人様の玄関先で喧嘩するもんじゃない。 悪いな。今夜は世話になるぞ。」 『あ、いや……それはいいんだけど……。』 あまりの衝撃にあんぐりと口を開けたまま何も言えないアタシの隣では、 銀時がこれでもかというほど顔を歪めていた。 「何でテメェが居やがる、高杉。」 「街でたまたまコイツ等に会って、無理矢理引きずって来られたんだよ。」 ものっそい嫌そうな顔で晋助にガンたれる銀時に、晋助は負けじと銀時を睨み返してた。 でも身長の関係で古いヤンキーみたいな睨み方になっているのでちょっと滑稽だ。 銀時は上から晋助を見下ろし、晋助は下から抉るように銀時を睨みつける。 そんな傍から見ても明らかに喧嘩5秒前の光景に、 小太郎と辰馬は微笑ましそうにあっはっはと笑っていた。 「どうせなら全員そろっていた方が楽しかろうて。」 「あっははは!こうして5人がそろうのはわしの船出の日以来じゃのぅ!」 オイオイお前等、この2人どう見てもそんな微笑ましい関係じゃないだろーが! 思いっきり胸倉掴み合ってるからね!超睨み合ってるからね!! 辰馬は頭ん中空っぽだと思ってたからこの反応はだいたい予想出来てたけど、 まさか小太郎まで頭空っぽになっちゃってたなんて……時の流れって本当に怖い。 『ま、まぁ、立ち話もなんだからさ、みんな中に入りなよ! ほら!銀時もさっさと中に入りなさい!』 「オイ!コイツも家に入れるつもりか!?俺は断固反対します!!」 『黙らっしゃい!!いいじゃない今日は攘夷組みんなでご飯食べたら! トランクス派もブリーフ派も関係ないの!アタシ達は5人そろって攘夷志士!』 「、その派閥はちょっとおかしいぞ。俺はボクサー派だ。」 「おかしいのはテメーの頭だ。」 「あっははは!」 嫌がる銀時を無理やり押し込めながら、アタシ達は鍋を準備している部屋に入った。 そして各々が適当に食卓を囲み(ついでに順番は銀時、アタシ、辰馬、晋助、小太郎)、 小太郎と辰馬と晋助は買い物袋から買ってきた食材を取り出して それをガサガサと適当にテーブルの上に置き始めた。 『わー凄い!いっぱい買ってきたね!』 「そりゃあボンボンが2人も居るからな。とーぜんだ、とーぜん。 ところで甘いもんはどうした。お坊ちゃまはそこら辺気ィ利かねぇよなぁ!」 『ちょっと銀時!せっかく買ってきてくれたのにそれはないでしょ?』 「ふふふ……お前はそう言うと思ってな……。」 まだガサガサと買い物袋を漁っている晋助と辰馬の隣で、 小太郎が1つの袋を片手に不気味な笑い声をあげた。 って言うかどんだけ買ってきたんだコイツ等。 まだ開けてない袋が3つはあるんだけど。 きっと晋助も一緒に買い物に連れて行ったんだろうなぁ…… 晋助こーゆー晩御飯の食材とかには超こだわるから……。 「見ろ銀時!お前の大好きなカレーの甘口だ!」 「俺は辛口派だァァ!!!!テメッ、ちょっと期待しちまっただろーが!!! 別にそれ甘いもんでも何でもねーよ!!いや、確かに甘いけども!!」 小太郎はババーンと音がしそうなほど 自信満々でカレーの箱を銀時の目の前に差し出した。 目の前にカレーの箱(甘口)を持ってこられた銀時は心底イラッとしたようで、 小太郎の手ごと箱を振り払い、小太郎に怒鳴りつけていた。 その様子をやれやれと見守るのは、 いつの間にか食材を全部テーブルの上に出し終わっていた辰馬と晋助だった。 「わしゃあちゃんと止めたぜよ。でもヅラがどうしてもって言うもんじゃき。」 「ヅラにもテメー等のちゃらんぽらんが移ったんじゃねーか?」 「んだとテメェ!!!!」 『ちょっと晋助!?そのテメー等にアタシは入ってないよね!? 小太郎と銀時と辰馬はともかく、アタシはちゃらんぽらんじゃないから!!』 「ちょっとちゃん!?何で急に裏切ったの!?」 晋助の言葉にアタシが思わず本音で返したら、 隣で怒っていた銀時がバッとこちらを振り向いて情けない声を出した。 その一連の流れがツボに入ったのか、 辰馬が涙を浮かべてヒーヒー言いながら大笑いしている。 「さて、そろそろいい頃合だろう。食材を入れていくぞ。」 周りがこんなにも騒がしくしていると言うのに、 って言うか元はと言えば小太郎のせいで銀時が怒ったのに、 マイペースな小太郎は冷静な顔をして鍋を見ながらそう言った。 その言葉に全員が既にいい具合に温まっていた鍋に意識を向ける。 『じゃあ硬いのから入れていこっか。こん中で一番硬いのどれ?』 「餅入り巾着じゃのぅ。」 『じゃあそれ入れて。あとエビとか大根とかも先入れとこっか。』 「おいヅラ、何でトウモロコシがあるんだ。」 「これは後で醤油で焼いて食べようと思って買っておいたんだ。」 『こんだけ具材の多い鍋の後に焼きトウモロコシ食べようとしてたの?』 「わしゃあ止めたんじゃが、ヅラがどうしてもって言うもんじゃき。」 「それさっき聞いた。」 そんな下らない会話をしながら鍋に材料を投入していった。 なんか、このメンバーでこーゆー平和な食卓って不思議な感じ。 戦争中はご飯なんて質素なものを食べれる時にって感じだったから、 こうやっていっぱい材料買ってきて、時間決めて皆で集まって、 5人で円卓囲んで下らない話しながら晩御飯って、なんか幸せだなぁ……。 鍋に具材を入れている4人の姿を見ながら、アタシはこっそり微笑んだ。 晋助も鬼兵隊に戻らずにずっとココに居ればいいのに。 辰馬はまぁ、仕事だから仕方がないとして、 小太郎と晋助と銀時でキャッツアイみたいな……あれ、ちょっとおかしいな。 あまりにも平和な一時に、アタシの思考回路がおかしくなってきた頃、 さっきまで仲良く(?)鍋を作っていた銀時たちの空気が急にピリッとしたものに変わった。 「オイ銀時、マロニーちゃんは野菜の前に入れるもんだろ。」 何事かと思ってアタシが妄想の世界から現実に帰ってくると、 案の定、晋助と銀時が険悪なムードで睨み合っていた。 「はぁ?お前何言ってんの? んなことしたらマロニーちゃんがドロッドロになっちまうじゃねぇか。」 「そこがいいんじゃねーか。俺はマロニーちゃんはドロドロ派だ。」 「バカなのお前!マロニーちゃんはちょっと硬いくらいが丁度いいんだよ!」 「まて2人とも!俺はシラタキ派だ!」 「お前は黙れ!!」 「自体をややこしくすんじゃねーよ!!」 あーもう、またこの2人喧嘩してるし。 小太郎はまたアホな発言して2人を怒らせてるし……。 辰馬は相変わらずあっはっはって笑ってるし……何なのコイツ等。 しかも喧嘩の内容!小学生かお前等は! 別にマロニーちゃんがどうなろうと構やしないじゃないの! 『ちょっと2人とも喧嘩しないで!』 「お前どっち派なんだ?。」 『えっ、アタシ?』 2人の喧嘩を止めようとしたら、あろうことか巻き込まれてしまった。 予想外の事態に、アタシはあははと苦笑いをする。 『アタシは別にどっちでも……食べれたらいいし。辰馬は?』 晋助と銀時が思いっきり真剣な顔でアタシを見て(むしろ睨んで)くるので、 耐え切れなくなったアタシはそれとなしに辰馬に話をふった。 すると辰馬はグツグツと煮えている鍋から餅入り巾着を取り出し、 それを皆に見えるように鍋の上に上げて笑い始めた。 「あっはっは!見ろ!餅入り巾着が破裂しとーぜよ!あっはっは!」 『お前空気読めよ!!何が面白いんだあぁん!?』 「待て!お前までそっち側に行ったらツッコミが俺しか居なくなる!」 「ヅラテメー自分をツッコミだと思ってやがったのか!?大間違いなんだよ!」 「銀時!!マロニーちゃんを俺に渡せ!!」 あまりの辰馬の空気の読めなさにアタシがドカンと爆発したのを皮切りに、 銀時も晋助もギャーギャーと騒ぎ出し、辰馬は相変わらずの大笑い。 ここは小太郎がツッコミにコンバートしてアタシ達をまとめてくれるのかと思いきや、 スーパーの袋から徐にシラタキの袋を取り出して鍋に投入し始めた。 「お前達がその気なら今からココは戦場だ!俺はシラタキを入れる!」 「上等じゃねぇか!じゃあ俺はキャビアを入れてやる!」 「ヅラ!高杉!テメー等ちょっと落ち着けェェ!! そんなもん入れたら鍋のバランスが崩れるだろーが!」 「んなこと気にしちょったら鍋なんて出来んぜよ! とりあえずここら辺のモンは全部入れたらええんじゃ!」 『きゃー!?辰馬その肉しゃぶしゃぶ用ー!!』 「テメェ等いい加減にしろォォォ!!!!」 その夜、歌舞伎町に銀時の怒鳴り声が鳴り響いた。自己中達の華麗なる食卓
(そんなに一気に投入したらグチャグチャになるだろーが!) (いや待て銀時。逆に全ての味が染み渡って美味いかもしれんぞ) (んなわけねーだろ。マロニーちゃんとシラタキは共存しねーんだよ) (晋助さっきからマロニーちゃんの話ばっかりだね。そんなに好きなの?) (あっはっはっは!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 大阪は鍋と言ったらマロニーちゃんなんですが、他の地方はシラタキらしいですね。 そして攘夷が出てきたら最終的に銀ちゃんがツッコんで終わるという罠。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/10/16 管理人:かほ