しょうせつ

俺ととヅラで久々に飲み屋で酒を飲んでいると、
いきなりが立ち上がって突拍子もないことを言い出した。
そのの言葉に俺とヅラはお互いに顔を見合わせ、
どうやら相当酔っ払っているらしいの顔を見た。

「お前何言ってんの?」
「ほら水だ。まずは座れ。」
『アタシ酔っ払ってるわけじゃないわよ!?』

は憤慨したようにそう言って、ドカリと席に座った。

「いや完全に酔ってるだろ。
 お前今自分が何て言ったのか分かってんの?」
『分かってるよ!辰馬誘って晋助んトコ行こうって言った!』

どうやら意識はハッキリしているらしく、
は先ほどの衝撃の発言をもう一度自分で繰り返した。
そうなるとますます大問題だ。
コイツはつい先日の紅桜の一件があったにも関わらず、
本気でまた高杉の所へ説得に行くつもりなのか?

「いや、……。」

の心中を察したのか、ヅラが何ともいえない表情でに声をかけた。
するとヅラの言葉を待たずしてが泣きそうな顔で俺達を見つめる。

『だってこのままじゃ嫌だもん!』

そのの真っ直ぐな瞳に、俺とヅラは言葉を失ってしまった。

『昔からずっと一緒に居たのに、戦場で命を預けて戦ったきたのに、
 ずっとこのままなんて、アタシ……絶対に嫌だもん……。』
「……。」
『大切な人なら今でも周りにいっぱい居る。
 でも、本気でバカやれる悪友は、もう4人しか居ないんだもん……。』

そう言って愁いを帯びた瞳で俯いたの姿に、
俺とヅラはただ顔を見合わせるしかできなかった。
すると急にが顔を上げ、空元気なのか本気でそう思っているのか、
『大丈夫だよ!』とまるで自分に言い聞かせるように言い切った。

『大商人の辰馬だったら人心を惑わす薬くらい持ってるよ!』
「お前は一体高杉をどうしたいんだ?」

の言葉にヅラがツッコミを入れる中、俺は静かに立ち上がり、
親父に「釣りはいらねぇ」と言って華麗に千円札を差し出した。

『ちょっ、銀時!』
「……下らねぇな。いつまでもそんな夢物語追いかけてんじゃねぇよ。」

俺は驚いているとヅラに背を向けたままそう言った。
するとヅラが「オイ銀時、」と諌めるような声を出したが、
俺はそれを無視してゆっくりと前へ歩き出した。

「行くぞ。」
『えっ……?』

呆気に取られているの声を背中に、俺はその場で立ち止まった。

「テメーにいつまでもそんな夢物語聞かされんのはゴメンなんだよ。
 さっさと手に入れて、夢じゃなくなりゃいいんだろ。」
『ぎっ、銀時……!』

決まった。
去ったと見せかけてこの決め台詞。こりゃ誰が見ても決まった。
俺がその場に仁王立ちしながらとヅラの反応を楽しみに待っていると、
急に後ろから肩をポンポンと叩かれた。
思っていた反応とちょっと違うな、と思いながらも俺がどや顔で振り返ると、
そこにはでもヅラでもなく、屋台の親父が立っていた。

「お勘定、千円じゃ足りないから。」
「えっ?」

まさかの展開に俺が呆気にとられていると、
親父の後ろで呆れた顔をしている2人の姿が目に飛び込んできた。

『だから呼び止めたのに……。』
「無銭飲食は頂けんぞ、銀時。」

諌めるように言ったとヅラに、
俺は何だかカッコつけてたことが急に恥ずかしくなってきた。
そして俺は一目散にヅラに向かって走っていった。
目標はその顔。勢いをつけ、地面を蹴って飛び上がる。

俺が無駄にカッコつけてたことは謝る。だが、一つだけ言わせてくれ。

「テメェにだけは言われたくねーよこのお尋ね者が!!!!!」





「性格を直す薬ィ?そがな薬、あったらとぉの昔にワシが使っちゅー。」
『だよねぇ……。』

快援隊の船の一室でそんな会話を繰り広げた俺達は、
辰馬の言葉にガックリと肩を落とした。

「けんど、試作品なら近いモンがあるぜよ。」
『えっ?』
「試作品?」

とヅラが聞き返すと、辰馬は奥の方から頑丈な木造の箱を取り出してきた。

「こないだの取引でもろうたんじゃがのー、
 なんでも人格を入れ替える薬の試作品らしーんじゃ。」
「人格を入れ替える?」
「そんな薬で本当に人格が入れ替わるのか?」

ヅラが疑わしそうに薬を見つめながらそう尋ねれば、
辰馬はいつもの能天気な声で「さぁ?」と言った。
そのいい加減な反応に、俺もヅラもも同時に眉間にしわを寄せる。

「さぁ、じゃねーだろ、さぁ、じゃ。」
『ちょっとー、大丈夫なの?この薬。』
「大丈夫大丈夫!死にゃあせん!」
「貴様はこの薬を試してみたのか?」
「ワシャそがな危ないことしとーないきに。」
「『じゃあやっぱり危ねぇんじゃねーか!!』」

どこまでも適当な辰馬の返答に、俺とは同時に力いっぱいそうツッコんだ。
しかし他に高杉を説得できそうな手段もなかったので、
とりあえず何が起こるか分からないが、この薬作戦は採用となってしまった。
まぁ万が一のことがあっても高杉だし、別にいいよな。


続く

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攘夷組は何だかんだいってなかよしだったらいいよね。


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2012/01/02 管理人:かほ