鬼兵隊の船に捕らわれてしまったアタシは、やっとのことで網から脱出した。 しかしそこは薄暗い部屋。窓もなければ簡単に開きそうな扉もない。 あるのは先ほどアタシを捕まえた網が放たれたであろう自動開閉式の扉と、 なかなか体から離れてくれなかった網と、堅く閉ざされた分厚い扉だけだ。 『ったく、晋助の奴やってくれるわ……!』 アタシが1人でそんな悪態をついていると、突然堅く閉ざされた扉から光が差し込んだ。 「よォ、久しぶりだなァ。俺の元へ嫁ぐ準備は終わらせてきたか?」 扉からは黒スーツに身を包んだ晋助が相変わらずのどや顔で姿を現した。 『久しぶりね晋助。相変わらずやることがハデねぇ? おかげで明日からかぶき町を素顔で歩けそうもないわ。』 「ククク……そりゃ好都合だ。かぶき町に戻り辛ぇなら俺と一緒に来い、。」 晋助はそう言いながらアタシの元へゆっくりと歩み寄り、 座り込んでいたアタシのすぐ目の前で片膝をついたかと思えば、 荒っぽくアタシの顎をつかんで自分の方を向かせた。 「こんな茶番はもう仕舞いだ。 、お前は俺のモンになって一緒に世界をブッ潰す運命なんだよ。」 『アンタ相変わらず学習しないわね。乱暴な男は嫌いだって言わなかった?』 晋助の眼をキッと睨みつけたままアタシがそう返せば、 しばらくアタシと見詰め合っていた晋助が「ククク、」と満足そうに笑って手を離した。 「お前のそういうトコが好きだぜ。 どうやら銀時やヅラと違ってお前は昔のままのようだなァ。」 『あら、そう言う晋助だって昔と何も変わってないじゃない。 女の子の扱いも身長も、昔っから全然成長してないわねぇ?』 アタシが挑発的に言葉を返せば、やっぱり晋助はすこぶる満足そうな顔でアタシを見据えた。 あれ、身長のこと言ったらちょっとは怒ると思ったんだけどなぁ……。 寺子屋に居た頃だって、攘夷戦争時代だって、 晋助は身長の話になると絶対に目ん玉ひんむいて怒鳴り散らしてたのに。 「さて、。お前には今から着替えてもらうぜ。」 『え?』 「連れて行け。」 『えっ?えっ??』 困惑するアタシをよそに、晋助の合図で部屋に入ってきた武市さんと河上は ガシッとアタシの両腕を拘束し、そして無言で部屋の外へと歩き出した。 『ちょっとちょっと!!何すんのよアンタ達!!』 「すみませんねぇ、アナタが鬼兵隊に入らないと晋助さん働かないって言うもんですから。」 『ガキのわがままかよ!!』 「悪いが鬼兵隊の活動活性化のため、犠牲になってもらうぞ。」 『アタシは生贄か!!』 無理やりどこかの部屋に連れて行こうとする2人にアタシが力いっぱい抵抗し、 ついでにツッコミ所満載な2人の台詞にご丁寧にツッコミを入れていると、 後ろからついて来ていた晋助が不満そうな顔をして河上の背中を睨みつけた。 「オイ万斉、犠牲ってどういうことだテメェ。」 「すまんでござる晋助。うっかり口がすべってしまった。」 「いけませんねぇ万斉さん。それではまるで晋助さんと結婚するさんが 不幸みたいじゃありませんか。本当に不幸なのはこの2人に振り回される私達ですよ。」 「それもそうでござるな。」 『ってゆーか離せえぇぇぇ!!!!!』 とんでもなく失礼な会話を繰り広げる2人にアタシが力の限り叫んでも、 両腕をしっかりホールドされているので結局無駄な努力となってしまった。 そうこうしている内に目的の部屋に到着したのか、晋助が少し前に出て先に扉を開け、 2人はアタシを無理やり押し込めるようにしてその部屋へと入っていく。 「、お前には今からウェディングドレスを着てもらう。」 『わぁ……。』 部屋に入った瞬間目に飛び込んできたそれに、アタシは思わず感嘆の声をあげる。 そこに飾られていたのはごく一般的な純白のウェディングドレスではなく、 引き込まれるほど深い漆黒の、しかし光の当たりようによっては妖しい紫色にも見える とても綺麗なウェディングドレスだった。 露出もレースも下品でない丁度よい程度に抑えられており、 スカートの部分には綺麗な蝶の絵が描かれている。 見れば見るほど魅力的なそのドレスに、 いつの間にか2人に解放されていたことにも気づかずただただ見とれていた。 「お前白よりこういう暗い色の方が好きだろ。」 『す、好き……っていうか好みドストライク……。』 「ククク……このドレスはお前のために特別に作らせたんだぜ? 惚れた女が俺のモノになる記念すべき日に着せるもんだ、どうせなら喜ばせてェだろ?」 そう言いながらアタシの髪を優しく撫でる晋助に、 今まで平然としていた心臓がうるさく鳴り響く。 そうだった……晋助っていつも乱暴でぶっきらぼうで全然優しくないけど、 こういうプレゼントとかを用意させたら一番アタシのツボを突いてくるんだった……。 何故かアタシの好みを熟知してるし、金に物を言わせて何でも作っちゃうし、 しかもサプライズとか好きだから渡すときの演出までしっかり考えてるし、 晋助のこういう所には気をつけようと思っていたのに……、一生の不覚……! 「今から俺が着せてやるよ……。」 『へっ!?ぃやっ!ちょっ、晋助……!!』 突然服に手をかけられ、アタシはガラにもなく可愛らしい悲鳴をあげてしまった。 武市さんと河上に助けを求めようとしたけど、2人の姿は既にどこにもなく、 この部屋にはアタシと晋助の2人だけしか残っていなかった。 ヤバイヤバイ!これはヤバイ! このままじゃ少年漫画あるまじき展開になっちゃうよ!青年漫画になっちゃうよー!! アタシがそんなことを考えながら晋助の手を抑えようと抵抗していると、 ふいに晋助の左手に持っている服が目に入った。 あれ?黒くない。って言うか何かピンクっぽい色が見えたんだけど……。 アタシがその服をちゃんと見ようと身を乗り出すと、そこには可愛らしいメイド服が。 「俺の嫁になる前に、まずは俺の奴隷になってもらおうか。」 『晋助やっぱりさっき身長の話したの怒ってるでしょ!!!!』 その日、鬼兵隊の船内にアタシの悲鳴が響き渡った。いきなり奴隷化計画
(晋助さんも隅に置けませんねぇ) (あの女がそう簡単に晋助の手にオチるわけないと思うがな) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 晋ちゃんのプロポーズ、茶番は仕舞いだって言うところが 銀ちゃんにそっくりだなぁって自分で書いてて泣きそうになりました。 やっぱりこの2人は考え方は似てるけど、その後の行動が違うだけなんだなぁと。 オイ誰だこのアホな小説にシリアスをログインさせた奴は。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2013/06/02 管理人:かほ