しょうせつ

白い日。直訳したらそうなる。
一体何が白いんだか、皆目見当もつかない。
ホワイトクリスマスなんて単語があるけど、あれは雪の白だ。

今日という日は別に雪が降るような気候でもなく、
白いものをプレゼントするなんていう習慣もない。
いや、マシュマロが店頭に並んでいたから、
もしかしたらマシュマロの白なのかもしれないな。

そんな下らない事を朝からぼんやりと考えていた僕の目の前に、
真っ白な着物を着たが現れたのは、ついさっきのこと。
正確には綺麗な白無垢を身に纏ったが屯所の食堂に座っていた。
僕が昼食を摂ろうと食堂に入ったら白無垢のが居て、
思わず目を瞬かせ自分の頬をつねったものだ。

「あ、近藤さん、伊東先生がご到着ですぜィ。」
「おぉ!伊東先生!ささっ、こちらへ座って下さい!」
「え?いや、ちょっ……!」

状況が飲み込めない僕を嬉しそうに引っ張っていく近藤さんに、
と一緒に座っていた沖田君がニヤリと悪い笑みを見せた。
その隣では土方君が大きなため息をついている。
白無垢姿のの顔は、被り物であまりよく見えなかった。

「さぁ伊東先生!お祝いしましょう!」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか近藤さん!
 これは一体どういう事なんだい?僕はまだと式を挙げる予定は……!」
「だって今日はホワイトデーでしょう!
 ホワイトデーといえばやっぱり白無垢でしょーが!」
「はぁ?」

屈託のない近藤さんの笑顔に向かって、僕は眉間にしわを寄せた。
そして土方君と沖田君に無言で助けを求めると、
さっきからずっと呆れ顔だった土方君が
隣でニヤニヤ笑っている沖田君の後頭部を軽く殴った。

「痛ぇよ土方さん。」
「お前のせいだぞ。自分でどうにかしろ。」
「人聞きの悪いこと言わないで下せぇ。
 俺はただ近藤さんにホワイトデーって愛娘に白無垢着せる日なんだぜって
 さりげなく呟いただけでさァ。」
「それは呟いたんじゃねぇだろ、入れ知恵したんだろーが。」
「だって近藤さん一切疑わねぇから面白くて。」

2人の会話で全てを悟った僕は、近藤さんの隣で俯いてるが
きっと呆れた顔をしているんだろうと思った。
なるほど、お人よしの近藤さんが沖田君に遊ばれた結果か、これは。
道理で周りの隊士達が何も言わずに笑いをこらえていると思った。

……それにしても、どうしてみんな白無垢のを携帯で写メっているんだ。
まだ結婚はしていないが、仮にも僕の妻だぞ。
まぁに手を出さなければ、写メくらいは許してやろうか。

「近藤さん、色々と間違ってます。」
「え!?ホワイトデーって白無垢の日じゃないの!?」
『だから言ったじゃない……。』
「だっ、だって総悟が……!!」
「アメリカンジョークじゃねぇですか。」
「そんなぁ!酷いぞ総悟!!
 トシも分かってたなら何で何も言わなかったんだ!」
「アンタがそこまで馬鹿だとは思わなかったんだよ。」

すっかり呆れ顔の3人に、近藤さんは口をあんぐりと開けてそう叫んだ。
その声に周りの隊士達がこらえていた笑いを一気に爆発させる。
全く、この人たちはどうしていつも馬鹿な事しかしていないんだ……。
僕は小さくため息をついて、隊服の内ポケットから小さな包みを取り出した。

「近藤さん、ホワイトデーは
 バレンタインデーのチョコレートのお返しをする日なんですよ。」
「え!?やっぱりそうなの!?何かおかしいと思ったんだよ!」
「、受け取ってくれるかい?」
『わぁ!ありがと鴨太郎!開けていい?』
「いいよ。」

僕が包みを差し出すと、心底嬉しそうに喜んでくれる。
そして笑顔で包みを開けるを、僕は笑顔で見守った。

「伊東先生が笑ってやすぜ土方さん。」
「気色悪ぃ……。」
「失敬だな君達は。」
『わぁー!可愛いー!!』

包みの中から綺麗なクリスタルで出来た
小さな桜の飾りがついたネックレスを取り出すと、
は本当に嬉しそうにそう叫び、
すぐに僕の方に向き直ってまた律儀にお礼を言ってきた。

『本当にありがとぉ鴨太郎!アタシこれ毎日つけるね!』
「指輪やブレスレットと違って、それなら戦う時にも邪魔にならないだろう?」
『うん!もしこのネックレスが斬られたら、
 その時はアタシの首も一緒に落っこちちゃうもんね!』
「、それは笑顔で言う台詞じゃないよ。」

さらりととんでもない事を言ったは、
ネックレスを持って白無垢姿のまま食堂を飛び出して行ってしまった。
きっとあの姿じゃネックレスを付けられないからって
部屋まで着替えに行ったんだろう。

僕はその後姿を、本当に愛おしいと思った。




白い君に、桜色の愛情

(伊東先生、感謝して下せぇよ?の白無垢見れたんですから) (アホかお前は。あーゆーもんはフツー本番まで取っとくもんだろーが) (しまった、写真に収めるのを忘れてた。もう一回着てくれないかな) (じゃあ写真屋でも呼びますか先生!) (いいね、呼ぼうか) (土方さん、アホばっかですが何か?) (…………) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ウチの真選組はとっても仲良し! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/03/14 管理人:かほ