しょうせつ

どこで間違ってしまったんだろう。

「離れてた先頭車両が!!」

確かに僕はを愛していた。
でも、どこかできっと、疑っていたんだ。

「ぬがァァァ!!」
「つぶされるぅぅ!!」

小さい頃から人間と関わることをして来なかったから、
急に僕を包み込んだ優しさを、心のどこかで否定していた。

「来い土方!!最後の決着の時だァァ!!」

自分が傷つきたくないばかりに、を酷く傷つけてしまった。
戦場と化した列車の中で、焼け野原と成っていく外の景色を横目に見た。
酷い光景だ。真選組の内乱。まるで、地獄のようだ。

それでも、は僕に味方した。

『待ってトシ!!!!お願いだから、それだけはやめて!!!!』
「そこをどけ。どうせ今助けたところで結果は変わらねぇ。」

僕を殺そうと刀を構える土方君の前には、
僕ではなくの小さな体が大きく手を広げて待ち構えていた。
その顔は、いつもの優しい笑顔ではない。
普段ならどんな事があっても笑顔で乗り越えるが、
近藤さん譲りの天然さと寛容さを兼ね備えたが、
僕の目の前で初めて、泣きそうな顔で悲痛な叫び声をあげている。

『変わるよ!!近藤さんだったらきっと許してくれる!!
 アタシがずっと見てるから!もう二度とこんなことさせないからッ!!』
「甘ったれるな!!!!コイツが居たままじゃ真選組はまた崩壊する!
 ここで白黒ハッキリさせねぇと組織は成り立たねぇんだよ!!!!」

別にそんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。
君にはずっと笑顔で居てほしかったのに。
後悔という言葉があるのなら、今使わずにいつ使おうか。
僕はどこで道を踏み外してしまったんだろう。

「、そこをどくんだ。」

僕が震える小さな背中に静かに声をかければ、
その今にも壊れてしまいそうなその背中は強い意志を持って僕に返答した。

『絶対嫌!!!!アタシが邪魔ならその刀で刺せばいいでしょ!?』
「オイ!!」
『アタシは鴨太郎に背中を向けてるんだから!!!!』

の言葉で刀を下ろした土方君が、その目を見開いた。
明らかに震えているの声に、僕もその理由を悟る。
こちらから顔は見えないが、きっとは、泣いているんだろう。
敵である僕に背を向けながら、敵である僕のために、泣いているんだろう。

沈黙が続いた。
いや、正確には僕達3人だけが無言になっているだけだった。
周りからは爆音や断末魔が聞こえ、悲惨な戦闘が繰り広げられている。
それでも、少なくとも僕の耳には何も聞こえてはこなかった。
の時々しゃくり上げる様な声以外は。

長い沈黙の後に僕の耳に入ってきたのは、
僕の名前を叫ぶの声と、鼓膜を切り裂くほどの爆発音だった。
急に傾いた視界が、ゆっくりとフェードアウトしていく。
消えゆく意識の中で、土方君がの名を呼ぶ声が聞こえる。

次に目を覚ますと、僕は傾いた列車の席で倒れていて、
僕の体には背中を大火傷したの姿があった。

「ッ!?!?」
『うっ……。』
「しっかりするんだ!!ッ!!!!」

僕が体を揺さぶると、は苦しそうな呻き声を上げた。
それもその筈。小さな背中が悲鳴を上げている。
さっきまで、そして今の今まで僕を護ってくれていた、その小さな背中が。

「、死ぬんじゃない!
 僕を庇って死ぬなんて愚かな最期、僕は認めない!!」

何とかして彼女を助けなければ。
僕はすぐさまを抱き上げてその場に立ち上がるが、
直後響き渡った爆音と共にあっさりと崩れ落ちてしまった。
上ではまだ大きな戦闘が繰り広げられているらしい。

「伊東先生ェェ!!!!」
「ッ!?近藤さん!?」

急に名前を呼ばれ上を見ると、そこには真選組の面々が僕達の方を見ていた。
隊士達はの様子にざわめきだし、沖田君は僕に刀を向ける。

「アンタに何をしたんでさァ。」
「やめろ総悟!待ってて下さい、伊東先生!すぐにロープを……!!」
「局長!これを早く!」

そんなやり取りの後垂れ下がってきたロープを掴めば、列車がグラリと傾いた。
このままじゃ、次に僕がこの場から動けば、列車は落ちてしまう。
それに気づいた僕はの体にロープを巻きつけ、
近藤さん達にゆっくりと引き上げるように叫んだ。
僕の声に、やっぱり近藤さんは反論する。

「伊東先生!!それじゃあアンタが……!!」
「近藤さん、僕は君を殺そうとしたんだ。当然の報いだろう。」

僕の中にまだ残る理性がそう言わせたんだ。
本当は、もっと君達と一緒に居たいんだ。
隣で立ち、隣で剣を握り、隣で生き、出来れば笑いたい。
こんな僕にも救いの手を伸ばす近藤さんを、
こんな僕の隣に最後まで居てくれたを、護りたいんだ。

しかし僕は反乱因子。もう真選組には居られない。
自分で蒔いた種だ。最期は潔く、自分の罪を受け止めようじゃないか。
気づけなかった僕が悪いんだ。
自分で壁を作っていた事。周りに仲間が居てくれた事。
そして何より、が隣に居てくれたことを。

「……すまない、……。」

僕は呟き、ゆっくりと目を閉じた。




本当はしていたのに

(崩れ落ちていく壁が怖くて、気づかぬふりをした) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 悲恋って言うか、鴨太郎が死んでいくのが許せなかったので前後編。(愛ゆえに) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/05/04 管理人:かほ