しょうせつ

最期の最期で素直になれた。
僕には仲間が居て、理解者が居て、が居た。
でも、気づいた時には全てが遅かったんだ。

「……すまない、……。」

僕は呟き、ゆっくりと目を閉じた。

『……っる、さない……。』
「ッ!?」
『ゆるさない、そんなの……!』

突然聞こえたの声に、僕は目を見開いた。
するとは驚くほど強い力で僕の襟元を掴み上げ、
痛みで顔を歪めながら僕の目をまっすぐ見た。

『逃げるなんて許さない……!
 どうせ罪を償うなら、プライドを捨てなさい……!!』
「……。」
『ずっとアタシの傍に居て、みんなに土下座しなさい……!!
 ずっとアタシの隣で、一生謝ってればいいのよ!!』

ポロポロとの頬を伝う涙に、
上に居る近藤さんたちが言葉を失っているのが分かった。
僕だってそうだ。どうして、僕を助けようとする?
君達に、君に、こんなに酷いことをしたというのに。

「、そんな奴放ってさっさと登って来いよ。」
「総悟……。」
『嫌よ!!絶対嫌!!』
「ソイツは近藤さんの命を狙った奴だ!!
 ここで助けても打ち首に変わりはねぇ!!」
『そんなことさせない!!アタシが絶対に!!!!』

沖田君が無理やりの体に縛ったロープを引き上げようとしたが、
は僕に抱きついて必死に抵抗した。
それどころか、刀でロープを切り、唯一の命綱を断ってしまった。

「!?君は一体何をして……!?」
『アタシが悪いんだもん!!
 鴨太郎が寂しいのに気づいてあげられなかったから、
 ずっとずっと一緒だったのに、アタシが傍に居たのに……!!!』

の腕に力が入った。
どうして、君は僕のために泣いているんだい?
いつも太陽みたいに笑っていた君が、僕のためなんかに。

『みんなが鴨太郎を殺すしかないって言うなら、
 アタシもここで鴨太郎と一緒に死ぬ!!!』
「!!!何を馬鹿なこと言ってんでィ!!!!」
『だってこのままだったら鴨太郎また1人じゃない!!!!!』

が怒ったようにそう泣き叫ぶと、
沖田君を筆頭に今まで苦い顔をしていた隊士達が目を見開いた。
の覚悟が本物だと悟ったのだろうか。
それとも、僕のためにここまでするに失望したのだろうか。

そんな時、どこからともなく土方君が落ちてきた。
きっと爆風に飲まれて上に行っていたんだろう。
それを見た近藤さんは土方君に手を伸ばす。
2人の手ががっしりと強く繋がり合って、土方君は宙にぶら下がった。

「オイ。馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。
 死んで全部償えるわけねぇだろ、こんな大騒動起こしといて。」

土方君はそう言うと、ゆっくりと手を差し伸べた。

「ソイツは当分俺の下僕だ。
 プライドずったずたにしてやんねーと気が済まねぇよ。」
『……ッ!!!トシ……!!』

この土方君の言葉に続くように、隊士達が近藤さんの体を支え始めた。

「土方さん、俺は納得いってませんぜ。
 その人は当分真選組の雑用係にでもなってもらわねぇと。」
「いや、それじゃ甘いぞ、トシ、総悟。
 伊東先生は当分と会うの禁止令を出さねぇとな。」
「そりゃいいな近藤さん。えげつねぇお仕置きだ。」

僕は状況が理解出来ずに言葉を失った。
しかし僕の腕の中ではの笑顔が戻っていた。
いつもと変わらぬ、屈託の無い優しい笑顔だ。

「オイ伊東、抱いてさっさと上がって来い。」
「伊東さん、帰ったらとりあえず全員分の靴舐めてもらいやすからね。」
「、傷は大丈夫か?」
『うん、大丈夫。だいぶ治ってきたから。』

上の方で言い争う声が聞こえる。
この声は、さっき居た銀色の髪の男達の声だ。
あの様子では、どうやら鬼兵隊を追い払ったらしい。
僕が無言のまま固まっていると、腕の中のが僕の顔を包み込んだ。

『しゃきっとしなさい!帰ろ?みんなと一緒に。』

の笑顔に、僕も釣られて笑顔になり、
あれほどいがみ合っていた男の手をしっかりと掴んだ。





「……近藤さん、本当にいいのかい?」
「え?何がですか?」

鎮火されていく戦場を眺めつつ、
僕は隣に座っていた近藤さんに問いかける。
すると近藤さんは予想通りの間抜けな声で質問を返してきた。

「僕をこのまま生かしておけば、君の面子は丸潰れだ。」

この戦いで何人もの隊士が死んだ。
僕の配下だった隊士も若干名生き残っている。
そんな状況を容認するなんて、真選組局長としてあるまじき行為だ。

「いいんですよ、面子よりも仲間の方が大事でしょう。
 当分隊士たちの風当たりは強いでしょうが、アンタなら大丈夫だ。」
「……それは大きな見当違いだよ、近藤さん。」

鎮圧されていく騒ぎの中で、がこっちに走ってくる姿が見えた。
その後ろからは土方君が手に包帯を持って慌ててを追いかけている。
どうやら、薬を塗った後すぐこちらに駆けて来たらしい。
全く、のやりそうなことだ。

「僕は、が居なければこの先生きていけませんよ。」
「伊東先生……。」

隊士達がどんどん車に乗って屯所に戻っていくのが横目に見えた。
勿論、僕の下に居た者達は手を拘束されていた。
幸いにも、僕が負けたことで戦意は完全に喪失していたようだが。

『かもたろー!!』
「うわっ!?」

ドタッという音と共に僕は飛びついてきたに押し倒された。
その拍子に応急処置を受けた傷がズキッと痛む。

「痛ッ……!!!……ッ、、僕も一応怪我人なんだが……!!」
『良かったね!近藤さんもトシもありがとぉ!!』
「別にソイツのやったことを許したわけじゃねぇぞ。」
「そうだぞ、伊東先生にはとっつぁんからキツイ処罰が下る。
 お前も、当分は面会禁止になるからな。」
『うん!いいの!だって処罰は一生じゃないもん!
 鴨太郎が生きててくれただけでいいの!だってまた会えるから!』

本当に、心から嬉しそうに笑ってそう言ったに、
僕だけではなく周りに居た隊士全員が諦めたように微笑んだ。
全く、だけには一生敵わない気がするな……。
近藤さん譲りのお人よしに、この無敵の笑顔が加わったんだ。
勝てる人間なんて、この世に居ないだろう。

『罰はしっかり受ければいい。
 そしたらまたアタシのところに帰って来てね、鴨太郎。』

僕を迎えに来た護送用の車の音なんか気にならないくらい、
の優しくてしっかりとした声は心地よかった。




が望むなら

(今度こそ道を踏み外さない。君が隣に居るって気づいたから) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ もし鴨太郎が瀕死じゃなかったら、こんな終わり方だって望めた気がするんです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/05/04 管理人:かほ