「あれ?お前何作ってるんだ?」 俺が甘い匂いの立ち込める厨房でにそう話しかければ、 は嬉しそうな顔をして俺の方を振り向いた。 『あっ、近藤さん!見て見て!上手に作れたでしょ?』 そう言ったの手元には握り拳大のハート型のチョコレートがあった。 あぁ、そう言えば、明日はバレンタインデーだったっけか。 『これね、伊東先生にあげるの。』 「伊東先生に?」 俺が聞き返すと、は照れたような笑顔で『そう』と言った。 『伊東先生にいっぱい愛情をあげたいの。 昔もらえなかった分まで、アタシがいーっぱいあげるの。 多すぎて返品するって言っても聞いてあげないくらいにね。』 「……。」 悪戯っぽく笑ってそう言ったに、俺は涙腺が緩くなった。 入隊してから誰にも心を開かなかった伊東先生が唯一心を開いた人物。 のおかげで俺たちが伊東先生と関わる事が出来たと言っても過言ではない。 俺も周りから相当なお人好しだと言われるが、 は俺以上の、本当に相手の懐に入るのが上手いお人好しだ。 我が娘ながら本当に真っ直ぐに育ったなぁと、俺は目頭を強く押さえた。 、お前は本当にいい子だ。 トシも総悟も伊東先生も、真選組の奴等は全員お前が大好きだ。 天真爛漫で素直で優しくて、本当にいい子だってのは俺が一番良く知ってる。 でも、でもなぁ……。 『伊東先生!はいコレ!バレンタインデーのチョコレートです!』 明るい声と天使のような笑顔でそう言ったと、 食堂のテーブルの上に山の如く積み上げられたチョコレートを前に、 伊東先生を筆頭にその場に居た全員がものっそい顔になった。 あの普段冷静なトシと篠原君ですらものっそい顔になったと言うのに、 総悟だけは相変わらずのベビーフェイスで鮭を頬張っていた。 「はいコレって君……これ全部僕に?」 『勿論です!全部伊東先生にあげます!』 隊士達のものっそい顔が見えないのだろうか、 は相変わらずの可愛らしい笑顔で大量のチョコレートを差し出した。 昨日見た時は隊士に配る分だと思っていた大量のチョコレートも、 実は伊東先生用のチョコレートだったらしい。 多い……多すぎるぞ……。 愛情をいっぱいあげたいからってお前、いくらなんでもそれは多いだろ。 我が娘ながらなんて馬鹿な奴なんだ……お父さん将来が心配です。 「いくらなんでも多すぎる!返品を希望する!」 「本当に言った!!!!」 『ダメです!全部責任を持って食べて下さい!』 「お前は伊東を糖尿病にする気か!!」 俺がまさかのデジャヴに驚いていると、 とんでも発言をしたがトシに頭を叩かれた。 そしてザキの提案で大量のチョコレートは結局隊士全員に配られることになり、 は不服そうな顔をしながらも渋々それを承諾した。 『せっかく伊東先生にって作ったのに……。』 ザキと篠原君が隊士たちにチョコレートを配っているのを眺めながら、 が食堂のテーブルに突っ伏して頬を膨らませていた。 「ものには限度があるんだよ限度が。」 「オイ、大量のマヨネーズを食事にかけて食べる土方さんに 限度の何たるかを語られたくねぇって言ってやれ。」 「ドSメーター振り切ってるお前にも言われたくねぇよ。」 『2人とも五十歩百歩だよ。アタシはそこまで変じゃないもん。』 俺から見れば3人とも普通の思考回路じゃないんだがな……。 そんな言葉が頭によぎったが、 事態がさらにややこしくなりそうなので口には出さなかった。 『仕方がない……伊東先生。』 大きな溜息を吐いた後、 はチョコレートを一つ手に取って伊東先生の名前を呼んだ。 そして丁寧に両手で箱を差し出しながら言葉を続ける。 『はいどうぞ、改めまして。』 「あぁ……すまないね。」 伊東先生がそう言ってチョコレートを受け取ったのに、 の顔はまだ暗いままだった。 それに気づいた伊東先生が「?」と顔色を伺うように声をかけると、 はしばらく黙った後、ゆっくりと口を開いた。 『アタシ、伊東先生には特別をあげたかったのに、 これじゃあみんなと何も変わらない……。』 が今にも泣き出してしまいそうな声でそう言ったので、 伊東先生は一瞬驚いた顔になり、それから心底困ったような顔をした。 「泣かないでくれ。僕は別に特別扱いなんて受けなくてもいい。」 『でもっ、アタシがしたいんです!』 真っ直ぐな瞳でにそう言われ、伊東先生はさらに困ったような顔になった。 そして今度は伊東先生がしばらく黙り込み、 ゆっくりと顔をあげながら、「、」と優しい声で話しかける。 「その言葉をもらえただけで、僕は十分特別だ。」 『伊東先生……。』 「君のその気持ちだけで僕はとても嬉しいんだ。 君には本当に勿体無いくらいの愛情を貰っていると思ってる。」 『愛情を?本当に?』 「あぁ。」 伊東先生が優しく微笑んでそう言えば、は安心したような顔になり、 そしていつものように天使の如く微笑んだ。 『良かったぁ!』 のその満面の笑みに、あの伊東先生の顔が真っ赤に染まっていった。 伊東先生は咄嗟に真っ赤になった顔を隠すように俯き、 しばらくしてからゆっくりと顔を上げて本当に小さな声で「」と呟いた。 名前を呼ばれたは『え?』と首をかしげながら顔を寄せる。 「その……あ、ありがとう、……。」 伊東先生は照れたようにそう言って、また顔を逸らした。 それはさながらアニメの登場人物の如く典型的なツンデレだ。 俺や総悟、そしてトシはそんな伊東先生の行動に呆気にとられていたが、 は顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。 『かっ……かっ……!!!』 「……??」 異変に気づいた伊東先生が声をかけた瞬間、 はブフー!!と鼻血を出してその場にびたんっと倒れこんだ。 『可愛いぃぃぃ!!!! 伊東先生何それ萌えるぅぅぅ!!!!!』 びったんびったんと転げまわりながら鼻血を撒き散らすに、 その場に居た全員が一斉に数メートル後退りした。甘い展開はまだ早い?
(伊東、いい女に巡り逢えたじゃねーか……) (土方君、今ののどこをどう捉えたらいい女なんだい?) (伊東先生一筋のイイ女じゃねぇですかィ。俺なら御免被りますけど) (沖田君、ちょっとここに正座しにおいで) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ クールな原作寄りの鴨太郎と暴走ヒロインさんのお話でした! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/20 管理人:かほ