その日、アタシはるんるん気分で学校に向かっていた。 ガラにもなくスキップなんてしながら廊下を進み、 浮かれ気分で調子に乗って鼻歌なんかも歌いながら、 アタシは自分の教室を一旦通り過ぎて3Zの教室へと向かった。 『おー妙ちゃぁーん!』 アタシが扉のところで元気よくお妙ちゃんの名前を呼ぶと、 3Zの個性的な生徒たちが一斉にアタシの方を向き、 「あ、ちゃんだ!」「おはようちゃん」なんて挨拶をしてくれる。 『みんなおはよー!ねぇねぇお妙ちゃん聞いてー!』 アタシは挨拶してくれた皆に笑顔で返事をし、 またるんるんとスキップをしながらお妙ちゃんの席へと足を運ぶ。 「あらあら、ちゃんご機嫌じゃない。また伊東君の話?」 『うん!』 お妙ちゃんの机に手を置いてしゃがみこめば、 アタシの事なんて全部お見通しのお妙ちゃんは「フフ、」と笑った。 「今日はどうしたの?一緒に登校でもしてきたの?」 『そうなのー!アタシの前に風紀委員の集団が居てねー?』 教室に風紀委員が居ないのをいいことに、アタシはデレデレしながら話を続ける。 『その中に居た伊東君がねー、お妙ちゃんの笛持ってた近藤君にねー、 すっごい冷たい視線を送っててとってもカッコ良かったのー♪』 「ちゃん?今すっごく大切なことをサラッと流さなかった?」 お妙ちゃんのいきなりのブラックスマイルに、アタシはハッとして口を押さえた。 『え、えぇっと……大丈夫だよ?舐めたりしてないって言ってたから! ただちょっと三木道三をワンコーラス吹いちゃったって……。』 「あんのクソゴリラァァァ!!!!!」 アタシが言うと同時にお妙ちゃんは 風紀委員が集まっている渡り廊下に向かって全速力で駆け出していってしまった。 アタシは廊下に出てお妙ちゃんが走り去っていった方向を呆然と見つめ、 『近藤君ゴメン』と合掌しながら呟いた。 「えぇっと、次は来月の文化祭の実行委員についてだが……。」 その日のHRの時、服部先生が手元の書類を確認しながら言葉を続けた。 「銀八がなぁ、勝手に伊東を委員長に仕立て上げたらしいんだわ。 で、いま副委員長やってくれる奴探してるんだけど……。」 『はい!!』 アタシは服部先生の言葉を遮って高らかに挙手をしながら大声を出した。 いきなり挙手と同時に立ち上がったアタシの奇行に、 その場にいた全員が一斉に驚いた顔でアタシの顔を見る。 「な、何だよ……やけに元気いいじゃねーの。」 『アタシはいつでも元気です!それより先生、アタシ副委員長やります!』 驚く先生にアタシが怯むことなくそう言えば、 服部先生は「マジで?」と安心したような表情になる。 いや、先生の顔は前髪で半分隠れてるから 全然表情とか分かんないんだけど、声から察するに、多分安心した。 「じゃあが副委員長な、はい全員拍手ー。」 服部先生のやる気のない声に続いて、クラス中からやる気のない拍手が沸き起こった。 『伊東君!』 放課後、アタシは前を歩いていた伊東君に声をかけた。 すると伊東君は振り返ってアタシの姿を確認すると、 ちょっとだけビックリした顔でアタシを見つめてきた。 「君は……。」 『あ、えぇっと、アタシのこと知ってる?あのね、隣のクラスの……。』 「いや、知っているよ。さんだろう?」 平然と答える伊東君に、アタシは心底ビックリする。 『な、何でフルネーム……。』 アタシが尋ねると、アタシがよっぽど驚いた顔をしていたのか、 普段はあんまり表情を変えない伊東君が可笑しそうに「ふ、」と笑った。 「有名じゃないか。屋上で空手部を返り討ちにしたおてんば少女。」 『なっ、なんちゅー覚え方してんのよ!忘れて!その話忘れてー!!』 伊東君がアタシの黒歴史を知っていたことにビックリして、 とっても恥ずかしくなったアタシは顔を真っ赤にして伊東君にそう叫んだ。 すると伊東君はアタシが本気で嫌がったと誤解したのか、 急に笑顔を取り払って困ったような、真面目な顔になった。 「あぁ、すまない。怒らせてしまったね。」 『えっ?あ、いやっ、全然怒ってないよ!』 変に気を遣わせてしまっただろうかと今度はアタシが眉をハの字にすると、 伊東君は優しい顔をして呆れたように微笑んだ。 「さっきから君は百面相だな。見ていて飽きないよ。」 憧れの伊東君に胸キュンスマイルでそう言われ、アタシの顔はまた真っ赤になる。 それを隠す為にアタシは伊東君からバッと視線を外し、 持っていた委員会のプリントをようやっと伊東君に手渡して、 さっき職員室で聞いた服部先生からの伝言を伝えることにした。 今日から伊東君と2人で文化祭の実行委員長と副委員長。 文化祭が終わるまでは一緒に行動する機会も増える。 もちろん、お話しする機会だって増える。 今日からしばらくの間、アタシの人生はバラ色になりそうです。本日の質問 アタシのこと知ってる?
(ハッ……百面相ってもしかして、変な奴って思われたんじゃ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 自作お題、『憧れの貴方に5つの質問』シリーズ、始動です! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/05/03 管理人:かほ