しょうせつ

今日は朝から全校集会で伊東君と一緒に実行委員会の挨拶をして、
お昼休みにお妙ちゃんたちからおめでとうの言葉を貰って、
うへへアタシ今幸せの絶頂に居る!とか思って顔が緩んでたら、
放課後になって伊東君から書類整理があるからと声をかけられた。

そんなわけで、アタシは今、風紀委員会の部屋で伊東君と2人きりです。

『お昼休みに幸せの絶頂とか言ってすみませんでしたぁぁ!!!!』
「ッ!?」

あまりの幸せにアタシが叫びながら机に頭を叩きつけると、
隣で書類に目を通していた伊東君が体をビクッと震わせながら
悶え苦しむアタシを目を見開いてガン見した。

「だっ、大丈夫かい……?」
『うへへ……なんとか……。』

憧れの伊東君に心配され、アタシの心は薔薇色に染まった。
副委員長に立候補した時からこんな機会が増えるとは思っていたけれど、
いざ伊東君と2人きりで書類整理♪となったら信じられないくらい嬉しい。
目の前の書類の山に別の意味で頭が破裂しそうだけど、
アタシのすぐ隣にはまだアタシを心配そうに見つめる伊東君の姿が。
これ以上の幸福がこの世に存在しえようか!

「さん、本当に大丈夫かい?頭からも鼻からも血が出てるけど。」
『えっ、嘘!うわ!書類真っ赤!!』

伊東君の言葉でアタシは自分が思いっきり流血していることに気がついた。
そして慌ててタオルを引っ張り出してきて、
真っ赤になっている書類と流血している自分の顔を拭った。

『ゴメンね伊東君!血生臭くない?大丈夫?』
「いや、僕は大丈夫だけど……。」

全ての血を拭き取った後でアタシが伊東君に尋ねれば、
伊東君は驚いたような呆れたような顔でアタシを見つめてきた。

「さんはやっぱり少し変だね。君みたいな女の子初めて見るよ。」
『嘘!アタシなんてありふれた女の子だよ?』
「えっ、本当?」
『えっ?いやいや冗談。って、自分で言うのもなんだけど。』

アタシの言葉を鵜呑みにしてしまった伊東君にビックリして、
思わずアタシは自分から変な女の子発言をしてしまった。
アタシはてっきり
「どこがありふれてんねん!」的なツッコミを入れられると思っていたんだけど、
どうやら伊東君はあんまり普通の女の子ってやつを知らないみたい。
そういえば、伊東君が女の子と話してるところなんて見たことないなぁ。

『伊東君ってさ、仲良しの女の子って居るの?
 女の子と一緒に居るところあんまり見ないけど。』

アタシはふと疑問に思ったことを尋ねてみた。
すると伊東君は一瞬寂しそうな顔を見せて言葉を紡ぐ。

「女の子と言わず、僕はあまり人と馴れ合わない性分でね。
 風紀委員の連中とも、ただの仕事仲間でしかない。」

そう言う伊東君の瞳はどこか哀しそうで、
言ってる事はとても冷たいけれど、何故か冷たい人とは思えなかった。

「それに、女の子は苦手なんだ。何を考えているか分からないし、扱いづらい。」

伊東君は困ったようにそう言って、
突然「あっ、」と声を出して申し訳なさそうにアタシを見た。

「すまない、君も女の子だったね。気を悪くしたんなら謝るよ。
 君と居るのが苦痛だとか、そういう意味じゃないんだ。」
『え?あぁ、大丈夫だよ。そんな風に受け取ってないから。』

アタシが両手を横に振りながらそう言えば、
伊東君は安心したように「そうか、」と言って微笑んだ。

「やっぱり君は接しやすいね。」
『え?』
「女の子は苦手だけど、君とは普通に接する事が出来る。
 さんが実行委員で本当に良かったよ。」

伊東君のその無意識のエンジェルスマイルに、
アタシのハートは勿論がっつり締め付けられた。
伊東君の困ったような照れたような笑顔、超可愛い……!

『なっ、何よそれっ。』

アタシは真っ赤に染まっていく顔を隠す為に伊東君から顔を背け、
キュンキュンしているのを悟られないように出来るだけぶっきら棒に言葉を続けた。

『それはアタシが男みたいってこと?』
「あ、いや、そういう意味じゃなくて……。」
『あー傷ついたなー!アタシも女の子扱いしてほしーなー!』
「も、勿論してるさ!君は列記とした女の子だよ!」

アタシが冗談で言った言葉でも、伊東君は真面目だから真剣に受け止めてしまう。
その証拠に、伊東君はさっきからオロオロとした様子で
プイ、とそっぽを向いているアタシに弁解しようと頑張っている。
そんな伊東君の様子が可笑しくって、
とうとうアタシは声を出して笑い出してしまった。

『あっはは!ウソウソ!全然怒ってないから。』
「え……?」
『あはは、あっははは!』

突然変わったアタシの表情に驚いている伊東君が本当に可愛くて、
アタシはまた声をあげて笑い出した。
すると伊東君はアタシの様子に安心したのか、
「全く君は、」と呆れたように言いながら優しく微笑んでくれた。
普段はちょっと親しみにくい表情をしている伊東君だけど、
こんなに柔らかい笑顔も見せるんだなって、アタシだけの発見。




本日の質問 仲良しの女の子って居るの?

(あれ?ってコトは、アタシが唯一の仲良しの女の子?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ コンセプトは「天然鴨太郎に純情片想い」でした。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/05/03 管理人:かほ