しょうせつ

『それでねー!伊東君ってば本気で慌てちゃってー!』

パラパラとしか人が居ない昼下がりの3Zの教室で、
アタシは机に持たれかかりながらデレデレした表情でそう言った。
するとアタシの話を聞いてくれていたお妙ちゃんと神楽ちゃんが
お互いに顔を見合わせ、呆れたように苦笑した。

「ちゃんよく飽きないわねぇ。」
『飽きる?何に?伊東君に?そんなことありえない!』

お妙ちゃんの言葉にアタシがガバッと起き上がってそう言えば、
隣に居た神楽ちゃんが溜息を吐きながら頭を左右に振った。

「そろそろ私たちが飽きてきたネ。、朝からずっと伊東の話ばっかりアル。」

疲れた様子の2人に、アタシはちょっとだけ反省した。

『ゴ、ゴメン……アタシ、そんなに伊東君の話してる?』

自分ではそこまで話しているつもりはなかったんだけど……と
申し訳ない気持ちを全力で表情に詰め込んで言えば、
2人はまた呆れた顔をしてアタシを見つめてきた。

「まぁそれだけちゃんが伊東君のこと好きだってことだから、
 私としては聞いていてとても微笑ましいんだけどね。」
「一日中伊東ばっかりを見てるなんて勿体無いアル。
 くらいの美少女ならもっと上を狙えるネ。」
『あっ、アタシは伊東君がいいの!』

神楽ちゃんの言葉に、アタシは熱を込めてそう言った。

『だって伊東君って普段はあんまり喋らないけど、
 内に秘める熱い野望的なものがあるじゃない!
 頭もいいししっかりしてるし、その上顔もいいし声もいい!
 そりゃ他人にはちょっと冷たいかなって印象はあるけど、
 でも昨日アタシにちょっとだけデレてくれたもん!可愛かったもん!』

アタシは昨日の伊東君の笑顔を思い出し、
机をバンバン叩きながら『ムキャー!』とその場で身悶えた。

『ツンデレってあーゆーのを言うんだと思うの!
 今日だってお話してたら髪の毛触らせてくれてねー!?
 もうふわっふわ!!ホントに可愛いぃぃぃ!!』

アタシが机をベシベシ叩いていると、
前に座っている2人の「ダメだこりゃ」の溜息が聞こえてきた。
結構大きな声で叫んでいたので、教室に居た阿音ちゃんや百音ちゃん、
それに新ちゃんやザキやトシ君までもが呆れたようにアタシを見つめていた。
まぁ3Zではアタシは「伊東バカ」として通っているので
今更何を聞かれようがどう思われようが関係ないんだけどね!

そんな事を考えながらアタシが『可愛い』を連呼していると、
突然聞き慣れた声が背後からオズオズとアタシの名前を呼んだ。

「あの、さん。」
『……ッ!?』

その声に、アタシはビクッと体を震わせて撥ねるように後ろに振り返った。
するとそこにはビックリした顔の伊東君が立っていて、
「驚かせてゴメン……」なんて申し訳なさそうな声を出している。

『い、伊東君!?いっ、いつからそこに!?』

アタシが心底驚いて大きめの声でそう尋ねれば、
伊東君はちょっとだけ困ったような顔をして私を見た。

「ついさっきだけど……。」
『いっ、今の話……聞いてた?』
「あぁ……ツンデレがどうとかっていう話かい?」

ぎゃああ!一体いつから!?いつから聞こえてた!?
って言うかアタシさっきから何言ってたっけ!?
どうしよう、もしかしてアタシが伊東君のこと好きなのバレた!?
アタシはグルグルとそんな事を考えながら伊東君を見つめていた。
額にうっすらと冷や汗が滲んでくるのが感じ取れる。
あぁもう駄目、頭真っ白……!

「えぇっと……猫の話でもしていたのかい?」
『…………えっ?』

困った笑顔でそう言った伊東君に、アタシは間抜けな声を出した。
えっ、猫?猫って何?あの猫?

「あっ、違った?」
『えっ!?いやっ、そうそう!!猫の話してたの!
 可愛いよねーアイツ等!!ほんと可愛い!!マジ天使!!』

アタシが慌ててそう言えば、伊東君はちょっと嬉しそうな顔で微笑んだ。
あれっ、伊東君って猫好きなんだ……意外かも。
周りが伊東君の滅多に見られない笑顔に唖然としている中、
アタシはその胸キュンスマイルにしばらくニヘヘと微笑んでいた。

わがままを言えば、その笑顔はアタシだけにしか見せてほしくなかったけど、
でも、伊東君を笑わせたのは他でもないアタシだから、
そこだけはアタシの特権かな、なんて、ちょっとだけ思ってみたりして。




本日の質問 今の話……聞いてた?

(あっ、そう言えば何か用?) (あぁ、そうだった。委員会のことでちょっと伝えたいことがあるんだ) (やっぱり委員会か……ちょっとだけ悔しいなぁ) (…………?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 鴨のエンジェルスマイルは反則だと思います。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/05/03 管理人:かほ