一週間後に文化祭を控え、学校中は文化祭の準備で大忙しだった。 運動場では出店のクラスが店の設置に全力を注いでいたし、 校内でも教室の飾り付けや出し物の準備にラストスパートをかけていた。 アタシのクラスは全員が着物を着て茶屋を開くことになったので、 会場である多目的ルームには赤い布をかけた長椅子と番傘が設置されている。 厨房として区切られている一画にも、 いかにも日本って感じの食器や和菓子がたくさん用意されていた。 『百音ちゃん、お品書きこんな感じでいい?』 アタシは自分がデザインしたお品書きシートを 食品係のリーダーである百音ちゃんに見せながらそう尋ねた。 すると百音ちゃんはくわえていたリコーダーで「ピー」と一言。 『えっ、いや……それはOKなの?それともダメなの?』 「ピーピピピー。」 『百音ちゃん、お願いだから普通に喋ってくれる?』 アタシがそうお願いしても、百音ちゃんの口からリコーダーが外れる事はなかった。 困り果てたアタシは仕方なくこのリコーダー語を唯一解読できる 高杉一派(不良グループの通称)の河上君を呼んできて通訳をしてもらうことにした。 「ピーピーピピピー。」 「何々?と拙者がお似合い? 百音殿、そんな分かりきった事は言わなくてもいいでござる。」 『嘘つけ!百音ちゃんがそんなこと言うわけないでしょーが!』 「もうお前等付き合っちゃいなよ、とも言っているでござる。」 『河上君に頼んだアタシがバカだったよ!このバカ!』 アタシが河上君を罵っている間にも、文化祭の準備は着々と進んでいった。 でもそれは同時にアタシと伊東君の唯一の繋がりが 着々と終わりを迎えていることを意味している。 文化祭は純粋に楽しみだけど、 実行委員会が解散してしまうのはなんだか寂しいなぁ……。 『うわー!すっかり遅れちゃった!』 どうしようぉー!と叫びながら、 アタシは放課後の誰も居なくなった廊下を一人駆け抜けていた。 今日は5時から実行委員会の話し合いがあったんだけど、 クラスの準備が長引いてしまい、約20分くらい遅刻してしまっている。 伊東君のことだから、きっと5時からずっと待ってくれているに違いない。 アタシはやっと見えた風紀委員の部屋の扉に一目散に飛びついた。 『伊東君ゴメン!すっごい待たせた!』 アタシは案の定部屋で一人待ってくれていた伊東君にそう叫び、 全力疾走したことで上がりきってしまった息を整えつつ教室に入った。 『本当にゴメンなさい。ずっと待っててくれた?』 「……いや……。」 アタシが伊東君の向かいの席に腰掛けると、 伊東君はアタシから顔を逸らしてぶっきら棒にそう言った。 そんな伊東君の様子に、アタシは本当に怒らせてしまったのだと深く反省する。 『伊東君、本当にゴメンね。怒ってるよね……。』 「別にいいんだ。僕と2人で話すより、 クラスのみんなと騒いでいた方が楽しいだろうからね。」 伊東君のその言葉に、アタシは反射的に首を横に振った。 『そ、そんなことないよ!むしろアタシはこっちの方が……!!』 言いかけて、アタシはハッと自分の口を両手で押さえ込んだ。 そんなアタシの行動に、伊東君が驚いた顔でアタシを見る。 「さん……?」 『あのっ、えぇっと……。』 ビックリしている伊東君から顔を逸らし、アタシはオロオロと視線を泳がせた。 どうしよう……今の一言で伊東君に全部バレたかも。 それなくても伊東君は勘が鋭いのに、今の言葉は明らかに決定打……。 いやっ、でも何だかんだ言って伊東君って乙女心には鈍いもんね。 うん、きっと大丈夫。頑張れば誤魔化し通せるよ!……多分。 『あ、アタシ、伊東君と一緒に喋るのも楽しいよ? 確かに、クラスのみんなと一緒に騒いでるのも楽しいけど、 でもクラスのみんなは伊東君じゃないもん。』 そこまで言って、アタシはガバッと頭を抱えた。 あれ?アタシ何言ってんだろう。明らかに状況が悪化したぞ? 誤魔化すんじゃなかったのか自分! またバレるようなこと言ってどうするんだ自分! ダメだ、完全にテンパってる。 あぁどうしよう、伊東君いまどんな顔してるんだろう……! 「……すまない。おかしな事を言ったね。謝るよ。」 『へっ……?』 突然聞こえたその言葉に、アタシは間抜けな声を出して顔を上げた。 「君が僕には見せないような笑顔でクラスの人間と話しているから、 少し考えが卑屈になってしまったようだ。今のは忘れてくれ。」 そんな伊東君の言葉に、アタシはしばらく無言のまま伊東君を見つめていた。 これは単なるアタシの自意識過剰かもしれないけれど、 もしかして伊東君、アタシがクラスの皆と仲良くしてた事に嫉妬してる? いやでもまさかそんな……。 アタシが頭の中でそんな葛藤をしていると、 ずっと無言で伊東君を見つめているアタシを不思議に思ったのか、 伊東君が怪訝な顔をしながらアタシの顔を見つめ返してきた。 「な、何だい?」 『えっ、あ、いやっ、その……。』 突然声をかけられ、アタシは慌てて伊東君から顔を逸らした。 『……伊東君、もしかしてヤキモチ妬いてくれたの?』 「なっ……!?」 アタシが半信半疑でそう尋ねれば、 図星だったのか伊東君は顔を真っ赤にしてオロオロし始めた。 「い、いやっ、あの、僕は……!!」 『うわっ!伊東君顔真っ赤!』 「えっ!?」 アタシが驚いて声をあげれば、伊東君はさらに驚いて咄嗟にアタシから顔を背けた。 それからはお互いになんとなく黙り込んでしまって、 アタシ達はしばらくの間、気まずい雰囲気に包み込まれた。 「きょ、今日はもう遅いし、これでお開きにしようか。」 重い雰囲気を取り払うように、伊東君が席を立ちながらアタシにそう声をかけた。 その言葉に便乗するように、アタシも『そうだね』と言いながら席を立つ。 「じゃあ、さん、また明日。」 『う、うん。また明日。』 こうして、その日はお互いろくに顔も合わせないまま学校を後にした。本日の質問 ヤキモチ妬いてくれたの?
(もしかしてって思うのは、アタシの自意識過剰なんだろうか……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 山場ってなんぞや……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/05/03 管理人:かほ