『うへへへー。いやー、どうもどうも。』 アタシはだらしない顔でデレデレしながら、 鴨太郎君との仲を祝福してくれたお妙ちゃんと神楽ちゃん、九ちゃんにそう言った。 「まさか伊東君から告白するなんてねぇ。 私てっきりちゃんが暴走して言っちゃうものだとばかり思ってたわ。」 お妙ちゃんの意外そうな顔に、アタシはちょっとだけ言葉を詰まらせた。 『ま、まぁ、ほとんどアタシから言ったも同然だったけどね……。』 「だがプロポーズしたのは伊東だ。」 『プ、プロポーズなんて大げさな……。』 「ずっと一緒に居ようはプロポーズ以外の何ものでもないネ。」 神楽ちゃんの言葉にうんうん頷いた2人に、 アタシはまた恥ずかしくなって『うへへ』とニヤけてしまった。 「でもこれから伊東君も大変ねぇ。 ちゃんと付き合ってるっていう話、すぐ学校中に知れ渡っちゃったもの。」 「男共の目が飢えた獣の目をしてるネ。学校のアイドルを取られたから。」 「伊東も色んな奴らに因縁をつけられているそうだと聞いたぞ。」 3人の言葉を聞いて、アタシは心底驚いた。 『か、鴨太郎君そんなに大変な事になってるの……?』 アタシのせいで他の男子に酷い事されてるなんて初耳だった。 悪いことしたかな……とアタシがオロオロしながら尋ねれば、 3人は驚いたように目を見開いてアタシの顔を見た。 「ちゃん、今なんて?」 『え?』 どうしてそんなに驚かれたのか理解できないアタシは、 見開いた目で凝視してくる3人が怖くてちょっとだけ身を引いた。 「、伊東のこと名前で呼んでるアルか?」 『え?うん、呼んでるけど?あれ?言ってなかったっけ?』 「初耳だ。」 アタシはようやく驚かれた理由を理解し、 そしてちょっと照れながらも文化祭の日の放課後の話をし始めた。 『ねぇ伊東君、アタシのことって呼んでよ。』 委員会の最後の仕事、本日の売り上げの整理をしている時、 アタシはふと思いついて目の前に座っている伊東君にそう言ってみた。 すると伊東君は動かしていた手を止め、 「へっ!?」と上ずった声を出してアタシを見る。 「き、君はいきなり何を……。」 『だって折角付き合ってるのに、さん、伊東君じゃ勿体無いじゃん。』 アタシが口を尖らせながらそう言えば、 伊東君は「勿体無いって……」と呟いて軽く溜息を吐いた。 「君のその突拍子もない発想にはつくづく驚かされるよ。」 『えっ、そう?照れるなぁ。』 「いや、今のは褒めたわけじゃないけど。」 伊東君は冷静にそう言って、困ったようにアタシを見つめてきた。 「さんには申し訳ないけど、それは出来ない。」 『えぇっ!?何で!?』 驚いたアタシが思わずその場でガタッと立ち上がって大声を出せば、 伊東君はさらに困った顔をして言葉を続けた。 「別に君が悪いわけじゃないんだ。 ただ、僕は今まで親しい友人も作ったことがなかったし、 他人を名前で呼ぶのに慣れていなくて……。」 ましてやそれが彼女となると……と言って、伊東君は顔を真っ赤に染め上げた。 『伊東君、照れてるんだ。』 「…………。」 『アタシのこと、名前で呼びたくない?』 「き、君の事は……その、す、好きだけど……。」 伊東君が真っ赤な顔でそんなことを言うもんだから、 なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて、 思わずアタシも顔を真っ赤にして伊東君から視線を逸らした。 『わ、分かった。でも、アタシは今度から鴨太郎君って呼ぶからね。』 「う、うん……。」 その言葉を皮切りに、アタシ達の間には長い沈黙が訪れてしまった。 鴨太郎君はアタシに名前を呼ばれてさっきよりもさらに顔を赤くしていたし、 アタシもアタシで呼んだはいいけど後からこっ恥ずかしくなってきて、 名前で呼ぶね、なんて言わなきゃ良かったと思い始めていた。 「……そろそろ、帰ろうか。」 『そ、そうだね。残りは明日の朝、早めに来てやろうか。』 『それでねー、アタシは鴨太郎君って呼んでるけど、 結局鴨太郎君はまださんのままなんだー。』 アタシがそこまで話し終えて残念そうな声を出すと、 話を聞いていた3人は「それはけしからん!」と声をそろえて身を乗り出した。 「伊東君ってホント草食系なのね!」 「がこんなに頑張っているというのに奴は一体何を考えているんだ!」 「そんなヘタレ、さっさとフってやったらどうネ!」 『えっ、えぇっ!?』 アタシは3人の迫力に気圧されてしまい、上手く言葉を返すことが出来なかった。 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 本当は最終話に入ってた内容なんですが、 入りきらなかったので後日談として公開しました。続きます! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/08/19 管理人:かほ