最近よく、人に「変わった」と言われる。 僕自身は別段何が変わったという自覚はないのだけれど、 傍から見たら僕は別人のように丸くなったのだとか。 だからといって嫌味を言わないわけでも優しくなったわけでもない。 むしろ以前よりも臆さずものを言っていると自分では思っている。 それなのに、どうして僕はこんなにも皆に受け入れられているのだろうか。 謀反を起こしたにも関わらず、 どうして僕は謀反を起こす前よりも皆に受け入れられているんだろうか。 あの頃は欲しても欲しても手に入らなかったというのに。 『鴨太郎ぉー!』 僕は突然後ろから聞こえてきた元気な声に思わず顔を緩ませて振り向いた。 そして、一瞬で顔を歪ませた。 「……と、土方君と沖田君。」 笑顔で僕の元へと駆け寄ってくるの後ろには、余計な顔が2つ僕を見つめていた。 どうしてこの2人がと一緒に居るんだ。 確か今日は2人とも市中見廻りの任があったはずだが……。 『鴨太郎!今日の予定は?』 「予定?どうしてそんなこと……。」 『いいから!今日は何するの?お仕事いっぱい?』 首をかしげて可愛らしい表情で尋ねてくるに、僕は少し戸惑った。 全く、どうしてこうも僕はの押しに弱いかな……。 いつの間にかに追いついてきた2人を一瞥し、僕は冷静を装って質問に答える。 「今日はこれから松平公と挨拶回りだ。 僕の起こした謀反の無罪放免が決定したものの、 まだまだお上に僕を受け入れてもらうには時間がかかるからね。」 『そっか……。じゃあ、それが終わったら何かある?』 「今日の予定はそれだけだけど……一体何だって言うんだい?」 『えへへ、秘密!じゃあ鴨太郎、挨拶回り頑張ってきてね!』 は笑顔でそう言うと、土方君と沖田君と共に来た道を引き返して行った。 そんな元気な後姿に、僕は小さなため息を吐く。 「全く、どうしてこうも君たちは……。」 幕府の上役が僕をまだ完全に信じきっていないというのに、 謀反を起こされた張本人である真選組の人間はすっかり僕を受け入れている。 いつまた裏切るかもしれないのに、それでも皆は僕を先生と呼び慕う。 一番理解に苦しむ点は、僕が謀反を起こす前よりも皆が僕を慕っているということだ。 以前は顔も会わせたことのない隊士ですら、 僕を見かけると「先生」と呼んで寄ってくる。 まぁ、それは一重にの存在のおかげなんだということは理解していた。 最近では僕一人の時でも隊士たちが寄ってくるが、 それまではが僕の隣に居たからこそ隊士たちが気を許して僕の傍に寄ってきた。 が僕の隣に居てくれたからこそ、僕は真選組との絆を切らずに済んだ。 だから僕はの押しにとことん弱いのだと思う。 にならどんな無理難題を言われても首を縦に振ってしまいそうで恐ろしい。 しかし、いつまでもに護られているわけにもいかない。 真選組との絆はが取り持ってくれたのだとしても、 それ以外の、世間からの信頼というものは僕が自分で取り戻していかなくては。 が救ってくれた命だ。彼女を一生護り抜くために、 どんなに恥辱にまみれようが僕は前を向いて歩いていかなければならない。 「伊東先生、やっぱり変わりましたよ。」 「え?」 挨拶回りが終わり、夕方になって屯所に帰ってきた僕を迎えてくれた山崎君が、 僕をある場所へと案内しながらいきなりそんなことを言い出した。 「前はギラギラした目をしてたのに、今では優しいお兄ちゃんだ。」 「そ、そうだろうか……皆にそう言われるけれど、自分ではさっぱり……。」 「それは伊東先生が本当に変わった証ですよ。 自覚はしていないでしょうがね、今のアンタは信頼に足るお人ですよ。」 山崎君はそう言うと一度だけ僕に笑顔を見せ、そしてまた前を向いて歩きだした。 彼は僕が変わったことを自覚できていないのは、 僕が内側から変わったからだと、そう言いたいのだろうか。 行動だけでなく価値観まで変わってしまったと。 まぁ確かに、言われてみればそんな気もしないではない。 そんなことを考えながら廊下を進んでいると、 道場の方からなにやら騒がしい声がガヤガヤと聞こえてきた。 真選組の人間が騒がしいのはいつものことだが、今日は一段と騒がしい。 それが宴会のせいだということを、僕は道場の扉を開けて初めて理解した。 「さぁさぁみんな!主役のお帰りですよ!」 「え?主役?」 山崎君の言葉にさらに沸き立つ会場に、 僕は度肝を抜かれてポカンとその場に立ち尽くしてしまった。 すると奥からいつもの笑顔を携えたが駆けてきて、 僕の腕を掴んだと思ったら無理やり僕を会場の前に連れて行く。 そして僕をみんなの方にグイと押しやりながら、明るい声でこう言った。 『それではみなさん!今までゴタゴタしてて出来なかった 伊東先生お帰りなさいの会を始めます!』 「えっ!?」 の声に、会場からは「ウォー!!」という謎の歓声が。 何がなんだか分からなくなってしまった僕は思わずの顔を見つめて助けを求めた。 するとは優しい笑顔で僕を見つめ、 騒がしい中でもハッキリと聞こえる声を僕に投げかけてくる。 『さぁ鴨太郎、みんなにただいまって言って?』 「へ?」 僕が間抜けな声で聞き返せば、 の隣でドッカリと座っていた近藤さんが僕に向かって口を開いた。 「伊東先生、ただいまだけじゃ駄目ですよ。 ちゃんとを幸せにしますまで言ってくれないと。」 『ちょ、ちょっと近藤さん!』 恥ずかしそうに近藤さんを諌めたを受け流し、 近藤さんは真剣な眼差しで僕の顔を見据えた。 「アンタをもう一度受け入れようと決めたのは、がアンタを変えたからだ。 今やアンタは一人でも真っ直ぐ立っていられるようになった。 それは他の誰でもない、のおかげだ。」 いつの間にか静まり返った会場に、近藤さんのその声だけが厳かに響き渡った。 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! 鴨太郎には原作でもこんな風に助かってほしかったなぁ、なんて願いを込めて。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/23 管理人:かほ