しょうせつ

「俺たちはのおかげでこうしてまた顔をつき合わせて居られる。
 だったら今度は俺たちがを幸せにする番だと俺は思いますがね。」
「…………。」

僕はまっすぐ僕を見据えてくる近藤さんから、
僕の隣で不安そうな顔をしているに視線を移した。
は真選組にとって本当に大切な存在だ。
そんなをこんな僕に預けようというのか。

「僕は……真選組に居る資格なんてない人間だ。」

ポツリと呟いたその言葉は、静かな会場にやけに大きく響き渡った。

「ちっぽけなプライドのせいで、僕は真選組を滅茶苦茶にした。
 僕のせいで多くの人間が命を落とした。処罰されても文句は言えない。」
『鴨太郎……。』

不安そうな声を出したに、僕は不器用に微笑んで見せた。

「でも、そんな僕をは拾ってくれた。
 だから僕はこの先どんなことがあっても彼女だけは護り抜くつもりだ。
 僕にはもう、の愛する真選組を壊すことは出来ない。」

僕が言い終わると同時に、の顔が真っ赤に染まった。
そんなを見て、近藤さんは何も言わずただ優しく微笑んだ。
静かに僕の言葉を聞いていた隊士たちも、優しい目で僕達を見守っていた。

「君たちの寛大さには正直、度肝を抜かれたよ。……本当に、ありがとう。」

今まで味わったことのない優しい雰囲気に、自分も思わず顔が綻んだ。
こんなに居心地の良い場所だったなんて、今まで思いもしなかった。

「先生、あともう一言。」
「え?」
「“ただいま”がまだですよ。
 さっさと言ってやらんと、野郎共は騒ぎ出したくてたまらんのですから。」

近藤さんのその言葉に、僕はゆっくりと道場全体に目を向けた。
羨望でも嫉妬でもない視線がこんなにたくさん僕を見ているのは初めてで、
なんだか気恥ずかしい気分になりながらも、僕は意を決して口を開いた。

「あ、あの……ただいま……。」

言い終わったと同時に、近藤さんがその場でバッと立ち上がる。

「よぉし野郎共!!今日は朝まで騒ぎまくるぞー!!」

近藤さんのその一言で、野蛮で騒がしい宴会が幕を開けた。
僕はに促されて近藤さんとの間に座った。
そして隣に座ったが勺をしてくれるというので、僕は厚意に甘えることにした。

『鴨太郎、さっきちょっと間違ってたよ。』
「え?」

酒を注ぎながら呟いたに、僕は驚いて聞き返す。

『確かにアタシは真選組の皆が大好きだけど、愛してはいないよ?
 アタシが愛してるのは、卑屈でお馬鹿などっかの誰かさんだけだもん。』
「……。」

悪戯っぽく微笑みながら言ったに、僕も思わず同じように微笑んでしまった。
自分にこんな柔らかい表情が作れるなんて知らなかった。
といたら新しい発見ばかりで本当に飽きが来ない。
そんなことを思っていたら、突然目の前がカッと明るくなり、
同時にパシャシャアというシャッター音が鳴り響いた。

「なっ……沖田君!?」
「おーいみんなぁ!伊東先生の笑顔の写真が撮れたぜィ!」
「オ、オイ!君は一体何を……!?」

慌てて僕がそう叫べば、
沖田君はニタリと音でも聞こえてきそうな悪い笑顔で僕に振り向いた。

「今のうちに伊東先生の弱みを握っとかねぇと、
 また謀反起こされた時に厄介なんでね。」
『ちょっと総悟!!』

沖田君の言葉にがそう怒鳴ったけれど、僕は何故か嫌な気分にはならなかった。
それは多分、言葉とは裏腹に
沖田君からは「疑っている」という雰囲気が全く感じられなかったからだ。

「伊東先生、これで俺たちゃやっと五分の仲間だ。
 弱いところも恥ずかしいところも、全部打ち明けていきましょうや。」
「近藤さん……。」

言いながら僕が振り返ると、
そこには全裸で腕組みをしている近藤さんが仁王立ちしていた。

「という事で伊東先生!!先生も一緒に無礼講しましょうか!!」
「いえ、遠慮しときます。」

自分でも驚くほど冷たい声で返事をすれば、
近藤さんは「ねぇトシィ!伊東先生が酷いんだけどォォ!」と叫びながら
隣で静かに酒を飲んでいた土方君に絡みに行った。
土方君は「めんどうなモン俺に押し付けやがって」と言いたげな目で僕を睨んだが、
すぐに近藤さんに視線を移し、そして頭を抱えて深いため息を吐いた。

「この空気が、仲間というものなのかな……。」

僕がどんちゃん騒ぎになっている道場を見渡しながらそう呟けば、
隣に居たが『え?』と声をあげて首を傾げた。
憎まれ口を叩こうが、遠く離れていようが、喧嘩をしようが、
根は信頼というもので堅く繋がっているこの雰囲気を、僕はようやく感じ取れた気がした。

「には特別に、僕の一番弱い部分を見せておこうかな。」
『あはは、まさか全裸踊りでも見せてくれるの?』
「まさか。」

僕は言いながらの額にキスをした。
唇を離すと同時に、の真っ赤な顔と見開かれた目が視界に映る。

「君が僕の唯一で最大の弱点だ。」
『なっ……ば、バカっ……!』

恥ずかしそうにそう言ったに向かって僕がにっこりと微笑めば、
僕のその笑顔はまたしても沖田君の手によってパパラッチされてしまった。




強くなるための弱点

(おーいみんなぁ!伊東先生がにデコチューしたぜー!) (沖田君!!君はすぐそうやって皆に知らせるな!!) (デコチューだぁ?伊東テメー、そこはマウス・トゥ・マウスだろーが。ナメてんのか) (君は酔っているのか土方君!何だマウス・トゥ・マウスって!) (バッカおめー、ミッ○ーとミ○ーに決まってんだろーが) (分かった!君はもうそれ以上酒を飲むな!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! ウチの真選組のツッコミポジションは鴨太郎です! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/23 管理人:かほ