『近藤さーん。あのね、朝からトシと総悟の姿が見えないんだけど……。』 アタシはそう言いながらガララと近藤さんの部屋の襖を開けた。 しかし、そこに近藤さんの姿はなかった。 代わりにあったのは、馬鹿デカいドライバーが一本。 予想外の光景にアタシが呆気に取られていると、 部屋の中央に置かれていた馬鹿デカいドライバーがゆっくりとこちらに振り向いた。 「おぉ、!帰ってきたか!」 『……え?えぇっと……どちら様?』 なにやらドライバーに近藤さんらしき顔がプリントされていて、 さらに近藤さんみたいな声で喋っているので、アタシは驚いてそう聞き返した。 するとドライバーは憤慨したように「俺だよ俺!」と言う。 これは新手の俺俺詐欺なんだろうか。いや、俺ドライバー詐欺? 「俺だよ!勲だよ!まさかちゃんお父さんの顔忘れちゃったの!?」 『オトーサン?何それ、新しいドライバー会社?オトーサンドライバー?』 「違う違う!!正真正銘、本物の近藤勲だってば!」 ドライバーはアタシの言葉にやっぱり憤慨したようにそう言った。 えぇっと、何?ホンモノの、コンドウ、イサオ? つまりこの馬鹿デカいドライバーは近藤さんだっていうの? そりゃ顔も声も近藤さんだし、近藤さんに見えなくもないけど……。 …………え? 『ええええぇぇぇぇぇ!?』 アタシは近所迷惑も考えずに思いっきり絶叫した。 そりゃそうだ。 だって何でか知らないけど近藤さんがドライバーになってるんだから!! 『な……何で……?』 アタシは近藤さんの変わり果てた姿を凝視しながらそう呟いた。 何で近藤さんがドライバーになってるの? っていうか何で近藤さんはそんなに落ち着いてパソコンの前に座ってるの? 一体何なの?どうなってるのこの状況? アタシが予想外の事態に混乱していると、 何故か余裕の表情の近藤さんが胡坐をかいて腕組みをしながら話し始める。 「俺にもさっぱり訳が分からんのだ。 唯一分かる事といえば、最近ゲーマー星人という奴等が 江戸の人々をドライバーに変えているという事だけでな……。」 だから俺は朝からそのゲーマー星人が出没するというモンハンをやってたんだ。」 『も、モンハン……?って、あの、モンキーハンター?』 「そうだ。」 アタシは冷静にとんでもないことを説明してくれた近藤さんを見つめつつ、 とりあえず今アタシが置かれている状況を無理やり飲み込んだ。 つまり、近藤さんは今噂のゲーマー星人騒動に巻き込まれたかもしれないと。 だから体がドライバーになってて、戻る方法を探すべく今モンハンをやっていたと。 いやいやいやいや。ヤバいよヤバいよ吐きそうだよ。 デカすぎるよこの状況、飲み込めないよお母さん。 っていうか本当に何でこの人はこんなに冷静で居られるんだ。 アンタの全身ドライバーになってんだぞ!! アタシがそんなことを考えながら部屋の入り口で立ち尽くしていると、 突然向こうの廊下の方から弾けたような笑い声が響いてきた。 その声にアタシと近藤さんは思わず顔を見合わせる。 この真殿的な良い声はもしかして……いやいやそんなはずは……。 アタシと近藤さんはまるでこの世のものではないものを見たかのような顔になり、 2人揃って恐る恐る廊下の向こう側を覗き見た。 「あっはっはっはっは!!あーっはっははは!!」 「テメー何がおもしれぇんだブッタ斬んぞコラ!!!!」 「土方さん、その姿が今までで一番輝いてやすぜィ。 ちょっとそれ一眼レフに収めてもいいですか。アンタの遺影にするんで。」 「させねぇよんなこと!!!!っていうかテメーも似たようなもんだろうが!!!!」 まだ続いている爆笑の声に被さって、そんなトシの怒鳴り声が聞こえてきた。 それでも怯まない爆笑の声はさらに激しさを増して……あ、むせた。 『ね、ねぇ近藤さん……あの声って……』 「いや……多分そうだけど……。」 アタシと近藤さんは廊下を覗き見ながらそんな会話を繰り広げた。 さっきから廊下の向こうで爆笑しているのは、多分、いや、確実に鴨太郎だ。 しかし普段の鴨太郎と言えば冗談の一つも言わないようなお堅い性格なので、 あんなに爆笑してあろうことか笑いすぎてむせるなんてことあるはずがない。 あるはずがないんだけど……現に爆笑してるしなぁ。 アタシも近藤さんも同じようなことを考えていたらしく、 だんだんと近づいてくる笑い声にもう一度顔を見合わせた。 もしあの廊下の角からトシと総悟と鴨太郎が出てきたら、 爆笑していたのは間違いなく鴨太郎ということになる。 そうなったらスクープものだ。真選組に一生語り継がれることになるだろう。 あの参謀・伊東鴨太郎が廊下で大爆笑していたと。 「ん、じゃねぇか。居たのか。」 廊下の角から姿を見せたのはトシではなく一本の馬鹿デカいドライバーだった。 そのドライバーがアタシの姿を見るなり先ほどのような言葉を口にした。 声はトシのものだったけど、やっぱりどこからどう見てもドライバーだった。 さっき近藤さんの時にも十分衝撃を受けたけど、 今回もかなりの衝撃を受けたのでアタシは思わず口をあんぐりと開けてトシを凝視した。 「近藤さん、途中で伊東さんに会ったんで伊東さんも連れてきやしたぜィ。」 「こ、近藤さん……た、大変な……ブフッ……!!」 「伊東先生、いいですよ今更笑いを堪えなくても。」 総悟がそう言うと、一生懸命笑いを堪えていた鴨太郎がまたお腹を抱えて笑い始めた。 やっぱりさっきの笑い声は鴨太郎だったのか……。 鴨太郎は普段からは想像も出来ないほど顔を真っ赤にして肩を震わせながら笑っていた。 『鴨太郎……。』 「オイ、テメーも無事だったんだな。」 『え?あぁ、うん……そうみたい……。 ト、トシはちょっと見ない間に随分……その……イメチェンしたのね……。』 「ブッハ!!!!!」 返答に困ったアタシが引きつった笑顔で何とか言葉を搾り出すと、 その言葉がツボに入ったのか鴨太郎が盛大に噴き出してまた爆笑し始めた。 そんな鴨太郎を見てトシが「テメいい加減笑うの止めろや!!!!」と怒鳴っていたけれど、 アタシはあんなに楽しそうな鴨太郎を見るのは初めてだったのでちょっと嬉しかった。 鴨太郎、いっつもあんな風に笑って過ごせたらいいのにな。 ……いや、やっぱり常にあのテンションの鴨太郎はちょっと嫌だ。 「総悟、トシ。大変な事になったな……。」 爆笑していた鴨太郎をなんとかなだめ、 アタシ達は近藤さんの部屋に丸く円になって作戦会議をすることにした。 近藤さんがトシと総悟の変わり果てた姿を見ても驚かなかったのは、 既にモンハンの中で会っていたからとのことだった。 そしてとりあえず現実世界で会おうとゲーム内で別れた後、 廊下を歩いていた鴨太郎と遭遇してしまったのだと総悟が言っていた。 「悪ぃ近藤さん。俺たちが紛らわしい格好してたからアイツ等取り逃しちまって。」 「俺は止めとこうって言ったんですがねィ。 土方さんがこりゃ妙案だって言って聞かなくって。」 「嘘つけェェ!!!!テメーもそいつは妙案だって言ってたじゃねぇか!!!」 「止めて下せぇ土方さん、嘘つきは泥棒の始まりですぜィ?」 「よおぉぉし分かった!! テメーは先っちょ削って使えねぇドライバーにしてやるよォォォ!!!!」 「トシ!総悟!今は仲間割れしてる場合じゃねぇだろ!」 姿はドライバーでもやってることは普段と変わらず、 トシと総悟はお決まりのパターンで喧嘩をし始め、近藤さんに怒られていた。 そんな2人を見てさっきまで爆笑していた鴨太郎が 「やれやれ……」と溜息混じりに呟いてえらく真面目な雰囲気で眼鏡をかけ直す。 雰囲気も声も普段通りのクールさだったが、その目にはまだ若干の涙が浮かんでいた。 「まさか近藤さんまでドライバーになっていたとはね……。 これは由々しき事態だよ。あろうことか真選組のトップ3人が 馬鹿デカいドライバーに成り果ててしまっているなんて。」 鴨太郎はそう言って深い溜息を吐いた。 そうだよね、一応この人たちウチのトップだもんね……。 一生このままだと真選組がドライバー会社にジョブチェンジさせられるかもしれない。 早いとこ元の体に戻ってもらわないと。 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 真選組が出てきた回に鴨太郎を手当たり次第に突っ込んでいこうのコーナー。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/03/18 管理人:かほ