「でも何で俺たちだけなんですかねィ。も伊東先生も何ともなかったってのに。」 総悟がアタシと鴨太郎を交互に見ながら不満そうな声でそう言った。 確かに、何でアタシと鴨太郎は無事だったんだろう。 出番的にも役どころ的にもアタシと鴨太郎は準主役級なのに……。 「フッ……僕は君たちと違って日頃の行いがいいからね。」 総悟の言葉にアタシが首を傾げていると、 隣に座っていた鴨太郎が自慢げにそう言って眼鏡をクイッとかけなおした。 すると例によってトシがムッとした表情で鴨太郎を睨みつける。 「オイ、それじゃあまるで俺たちの日頃の行いが悪いみてーじゃねぇか。」 「おや、自覚していなかったのかい土方君。 そんなアホみたいな姿になるなんて天罰としか思えな……ブフッ!!!!!」 トシの言葉に鴨太郎がいつものように嫌味を返そうとしたのだが、 鴨太郎はトシの姿をその目に映した瞬間、また盛大に噴き出して笑い始めてしまった。 さっきまで落ち着いてたのにまたツボに入ったのか。 鴨太郎は前かがみで全身をプルプルと震わせながら必死に爆笑を堪えていた。 そんな鴨太郎の反応にトシがこめかみに青筋を立てながら 「テメェ今度こそブッタ斬ってやらぁぁぁ!!!!!」とその場に立ち上がったが、 隣に居た近藤さんに宥められ渋々座りなおしていた。 『それにしても困ったね……ゲームの中では何も情報はつかめなかったの?』 アタシはとうとうムセてしまった鴨太郎の背中をさすりながら3人に問いかけた。 とりあえず鴨太郎は完全にドライバートシがツボに入ってしまっているので 今回の話し合いでは使い物にならないだろう。 だってもうトシのこと直視できないもの、話にならないもの。 「ゲームの中で俺たちと同じようにドライバーになった万事屋には会ったんだが、 肝心のゲーマー星人にはお目にかかれなかったんでな……。」 『えっ、銀さんたちもドライバーになってるの?』 「あぁ。アイツ等も俺たちと同じくゲーム内にゲーマー星人を探しに来たようだが、 お互い何の収穫もなしに今日は切り上げてきたんだ。」 『へぇ……。』 銀さんたちもドライバーになったって、 これ本当に日頃の行いが悪い人たちが狙われてるんじゃないの? アタシはそんなことを考えたけど、言ったら確実にトシが怒るので口にはしなかった。 そんな中ようやく鴨太郎が落ち着きを取り戻し、 「ありがとう」と言いながらその場で深呼吸を始めた。 『鴨太郎、大丈夫?』 「あぁ……そろそろ土方君のアホみたいなドライバー姿にも慣れてきたよ。」 「オイ伊東、頼むから一発だけ殴らせてくれよお願いだから300円あげるから。」 「すまないが、しばらく席を外させてもらうよ。」 鴨太郎はトシの言葉を完全にスルーして廊下の方へと歩いていった。 さっきからずっと笑いっぱなしだったから疲れちゃったのかな……。 アタシがそんな事を思いながら鴨太郎の背中を見送っていると、 突然総悟が「伊東先生、」と鴨太郎を呼び止めた。 「催すのは大の方ですかィ、小の方ですかィ。 それによっては待ち時間をどう使うかが決まってくるんで参考までに。」 「君って奴は本当にデリカシーの欠片もない男だね。」 予想外の総悟の発言に鴨太郎は冷たくそう返すと、 「すぐ戻る」とだけ言ってスタスタと部屋を出て行ってしまった。 その発言でその場に居た全員が(あぁ、小の方か……)と思ったけど、 改めて口に出す者は誰一人として居なかった。 「ったく、何で伊東の野郎は無事なんだ。胸クソ悪ぃな。」 『あれじゃない?鴨太郎はゲームと無縁だから標的にされなかったとか。』 「俺たちだってゲームなんて滅多にしねぇじゃねぇかィ。」 『それは……そうだけど……。』 「確かに、どうして俺たち3人だけが標的にされたのか、謎が深まるばかりだな。」 近藤さんが腕を組みながらそう言うと、他の2人も同じく「ううん、」と首を捻った。 アタシも3人に倣って腕を組みながら『ううん、』と唸る。 しばらく4人で沈黙の中各々の意見をまとめていると、 ススス……という軽い音と共に驚くほどゆっくりと襖が開き、 そこから暗い顔をした鴨太郎がのそのそと部屋に入ってきた。 『あれ、鴨太郎?どうしたの?』 明らかに何かあったであろう鴨太郎にアタシがそう尋ねても、 鴨太郎はゆっくりと自分の場所に座って俯いているだけだった。 そんな鴨太郎の反応に、アタシ達は揃って顔を見合わせた。 「伊東先生、どうしたんですか?キレが悪かったんですか?」 『あのねぇ近藤さん。鴨太郎は近藤さんとは違うんだから!』 「どうせ便器から零れたんだろィ。」 『総悟あんた殴られたいの!?鴨太郎がそんなヘマするわけないでしょ!? 大丈夫?鴨太郎、どうしたの?怪人カワーヤが出てきたの?』 「いやそれこそありえねぇだろ。」 『なにトシ、アンタ怪人カワーヤ信じてないの?おっくれってるー。』 「何で俺が世間知らずみたいになってんの!? カワーヤなんてどうせテメーの妄想の産物だろーが!!」 アタシの言葉にトシが盛大にツッコミを入れた時、 それまで無言だった鴨太郎がゆっくりと口を開いた。 「……いよ。」 『え?何?何て言ったの鴨太郎?』 「用は……足してないよ。」 『へ?』 鴨太郎の予想外の言葉に、アタシ達はまた顔を見合わせた。 さっき小便に行くって席を外したんじゃなかったっけ? アタシがそんな思いを込めて3人を見ると、3人とも一斉に肩をすくめた。 『鴨太郎、厠に行ったんじゃなかったの?』 「あぁ、行ったさ……だが、用が足せなかったんだ。 いや……足す手段が……断ち切られていた……。」 『へ?それってどういう……。』 アタシが鴨太郎の言葉に首を傾げると、 一緒に聞いていた近藤さんがいきなり「まさか……」と青ざめた顔をした。 総悟はバッと後ろを向いて震えだしたので多分笑いを堪えているんだと思う。 トシはと言うと、さっきまであんなに鴨太郎に文句を言っていたのに、 今では鴨太郎を哀れみを含んだ目で見つめていた。 そこでアタシは全てを理解した。 もしかして鴨太郎、ゲーマー星人の被害にあっていたんじゃ……。 しかも全身がドライバーになる以上の屈辱…… この世にたった一つしかないアナログスティックが、ドライバーに……? 『か……鴨太郎……。』 アタシが恐る恐る名前を呼ぶと、鴨太郎はバッとアタシの顔を見上げ、 そしてガシッとアタシの肩を掴んだかと思うとこれでもかと言うくらい顔を近づけてきた。 いつもだったら『やだ鴨太郎ったらチューする気!?』とか言いながら 冗談交じりに照れたり恥ずかしがったりするんだけど、今はそんな雰囲気ではなかった。 鴨太郎は本当に真剣な目でアタシを見つめ、何かを決心するかのようにこう言った。 「……、僕と共に戦ってくれるかい? 僕の大切な分身を…… この世にたった一つしかないアナログスティックを取り戻すために……。」 や、やられたァァァ!!!!! 鴨太郎これ完全にやられてるよ! 完全にゲーマー星人にアナログスティックをドライバーにされちゃってるよ!! アタシはあまりの衝撃に引きつった笑いで頷くことしか出来なかった。 さっきまで日頃の行い云々言ってた本人が一番不名誉なジョブチェンジじゃないか……。 「近藤さん!!」 「えっ!?は、はい!?」 鴨太郎はアタシの肩を掴みながらバッと近藤さんの方を向き名前を呼んだ。 すると近藤さんはビクッと体を震わせて上ずった声で返事をする。 「一緒にゲーマー星人を見つけだし、曝し首にしてやりましょう!!!!」 「そ、そうですね!!よし、行くぞ野郎共! 俺たちの体と伊東先生の大事なアナログスティックを取り戻すために!!!!」 鴨太郎が動乱篇の演説のような勢いで声高らかに意気込むと、 それに呼応するかのように近藤さんが立ち上がり、トシと総悟にそう言った。 2人の目には内に秘める怒りがメラメラと炎のように映っている。 そしてトシも総悟も近藤さんの言葉に静かに頷いた。 話の内容は本当に下らないしバカみたいだし不名誉なんだけど、 不思議と決戦前夜みたいな雰囲気が流れていたので、アタシは思わず絶句した。 何なんだコイツ等、バカなのか? 体だけでなく脳みそまでドライバーに侵食されてしまってるんじゃないだろうな。 それともドライバー被害を受けてないアタシの方がアウトローなのか? 「あ、それと近藤さん。」 「はい?何ですか?」 アタシが場の雰囲気について行けずに戸惑っていると、 ふいに鴨太郎が思い出したかのように口を開いた。 「次アナログスティックって言ったら名誉毀損で訴えますからね。」 鴨太郎の理不尽な冷たい視線と共に、男達の戦いは始まった。いつも心にアナログスティック
(鴨太郎、さっき自分でもアナログスティックって言ってたのに……) (アイツ完全にテンパってるな) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ この後鴨太郎は銀ちゃんと一緒に2つある鍵穴にスパーキン! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/04/07 管理人:かほ