しょうせつ

『お兄ちゃん、か……。』

隣で俺の横顔を見ていたが急に口を開いた。
俺は食べていた手を止め、ゆっくりと彼女を見る。

「急に何?喧嘩売ってるの?あんな弱い奴、妹でも何でもないって言ってるじゃないか。」
『……神楽ちゃんが可哀そうだよ。そんな事言わないの。』

ぶぅ、と口を尖らせるはとても可愛くて、壊してしまいたかったけど、
また食を進めることでそれを抑制した。

『兄弟ってさ、どんなになっても、兄弟なんだから。』
「どうしたの、いきなり。そんな当たり前のこと。
 認めたくないけど、アイツは腐っても夜兎族で、死ぬまで俺と同じ血が流れてるんだから。」
『夜兎の血なんて大っ嫌い。』

俺の言葉を最後まで聞かず、反論するようにそう言い捨てるを、
今度は食器を置いて体ごと振り向いた。

「やっぱり俺に喧嘩売ってるんだろ。どうしたんだよ、?」
『……。』

は哀しそうな目で俺を見つめると、うつむいておし黙ってしまった。
そんな彼女に近づき、優しく抱き締めてやれば、
力加減を間違えてしまったらしく、うっ、と声を漏らす。
ごめんごめん、と言って今度こそ優しく包み込んでやると、
は俺に自分の体を預け、服をギュッと掴んだ。
そして、あのね、と喋り始める。

『アタシ、お兄ちゃんが居たの。アタシと同じで純粋な夜兎じゃなかったけど、
 戦の時、血に抗えず戦いに飲まれていってしまった……。』

に兄が居たなんて初耳だったから、
俺は『そうなんだ。で、強いの?』といつものように聞いてみた。
すると彼女は小さい体をさらに小さくさせて、とっても強かったよ、と言った。

「でも、死んだんだ。」

“強かった”とはそういう意味なんだろうと思い、特に何も考えずに聞いてみたら、
がボソリと『ホント、デリカシーの欠片もない奴』と言ってきたので、
とりあえず『悪かったね』と返しておいた。

『……アタシが殺したの。』

少し間をおいてが口を開いたと思ったら、
急にそんな事を言うもんだから、俺は自分の耳を疑った。
彼女は俺を完全否定するほどの平和主義者で、
そのせいでおじゃんになった戦いが溢れるほどあった。
それなのに、彼女が実の兄を殺しただって?

「どうして殺すことになったの?」

俺は理由がある前提で話を進めた。
彼女は俺みたいに好きで戦うような人間じゃないから。

『…………。』
「言わなきゃ分かんないよ。」

おし黙る彼女の髪に顔を埋めれば、シャンプーの香りが体の中に入ってきた。

『……夜兎に呑まれて、天人の味方になって、見境なく人を殺して、
 とうとう自分を失って、アタシを殺そうとしたの。』

断片的に喋るは、いつの間にか俺の後ろに手を回し、震えていた。
だいたいの話は分かった。それでは自己防衛のために兄を殺したのか。
俺は震えるをギュッと抱き締めて、もう話さなくていいよと言った。

「安心しなよ。俺は絶対に、誰にも殺されやしないから。
 ずっとの傍に居るって、約束するよ。」
『ほ、ホント……?』

が上目遣いで俺を見上げてきたから、その不安そうな瞳にキスをおとしてやった。

「ホント。」

にっこり笑ってそう言ってやると、はへにゃっと笑って俺に抱きついた。
そして、思い出したように『神楽ちゃんの傍にもね!』と言ってきたので、
俺はにっこりと『それは約束できないな』と言い、今度は唇にキスをおとしてやった。




夜兎の兄妹は複雑です

(アタシの言いたい事分かる?) (さぁね?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ んんー?何でだろう、甘いぞコレ。甘いぞ!? 私の中の神威は自己中でバイオレンスな暴力亭主だったのに!(ぁ) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/01/27 管理人:かほ