しょうせつ

きっと俺たちは戦いの中で死んでいく、哀れな人種なんだよ。
普通の人間が体験するような感情を体験しないまま、
慕情も友情も愛情も、何もかもを知らないまま死んでいってしまうんだ。
でも、それでもいいと俺は思ってる。
だって、俺の中では戦いこそが一番重要なものなんだから。

いつだったか、阿伏兎に怒られた時にこう言った事がある。
ちょっとお得意様を殺しちゃったくらいで怒らないでよ。って言ったら、
阿伏兎にゲンコツを食らわされて、結構痛かったっけ。
でもその後何とかしてくれた阿伏兎は、何だかんだで使える部下だ。

でもそれは友情でもなんでもない。単なる部下としての信頼。

周りから見たら少し狂っているとも言える俺がずっと俺だったのに、
そんな俺を変えてしまったのが、先月春雨に連れてこられただった。
どっかの星の貴族で、春雨が全力で攫いに行った、相当珍しい種族らしい。
貴族の娘だからきっと弱くてつまらない女なんだろうと決め付けて、
俺は本人に会うまで全く興味を持っていなかった。

『ちょっとアンタ!!か弱い女の子が助けを求めてるのよ!?
 ここは大人しくアタシをかくまうのが普通の対応でしょお!?』

ある日、阿伏兎が元老に報告しに行ったのを廊下で待っていると、
見知らぬ女が全速力で走ってきて、慌てて俺の後ろに隠れ始めた。
特に驚くでもなく俺が『何してるの?』と聞いてその女から離れようとすると、
女は威勢のいい声で先ほどのような台詞を俺に浴びせてきたのだった。

それが、との最初の出会い。

貴族の娘だなんて言うから弱っちい女かと思いきや、
なんと彼女はちょっと有名な戦闘種族で、しかもおてんば娘だという。
俺は女は殺さない主義だから、その時は素直に彼女をかくまってやったけど、
それでも戦闘種族だと聞いて自分の中の血が騒ぐのを感じた。
すると、それを感じ取ったのか、は追っ手が居なくなると同時に俺から離れ、
そして深々とお礼をすると俺に向かってこう言った。

『ありがとうございました。でも、アタシ戦うのは嫌いです。』

本当に面白い、興味をそそる女だなぁと思って、
俺は何となく彼女に第七師団に入らないかと聞いていた。
すると、報告を終えて部屋から出てきた阿伏兎が俺の言葉を聞いていて、
驚いたことに『そりゃ良かった、手間が省けた』と言い出した。

「その女、さっきウチで預かる事に決まったんだ。
 団長が断固反対すると思っていたが、
 自分からその気になってくれたようで安心したぜ。」

その日から、は第七師団に預かられる事となり、
俺の命令で片時も俺から離れないようにした。
阿伏兎も俺が大人しくなるならと、それを快く受け入れた。


『初めて会った時から思ってたけど、神威ってなんか変。』

3日がかりの任務がようやく終わり、
俺と一緒に宿泊先のベランダで一息ついていたが、急にそう呟いた。

「俺が変?それはいつも言われるけど、に言われるなんて心外だな。」
『はぁ!?何でよ!そっちの方が心外なんだけどぉ!?』
「だって十分変だよ。俺とは違った変だけど。」
『何よそれ!絶対神威のほうが変よ!』

はそこまで言うと、ちょっと寂しそうな表情でうつむいた。

『アタシをずっと傍に置こうとするなんて、変人じゃなきゃ考えない。』

きっと彼女は自分を責めてるんだろう。
彼女は実は珍しい戦闘種族の最後の生き残りで、
たくさんの海賊や組織からその身を狙われている。
そのため、を狙う奴等と戦闘になるのが俺たちの日課だ。
だからあの日元老は夜兎族である俺たちにを預けたのだが、
それでも戦いが嫌いなにとって、それは申し訳ないことなんだろう。

「俺は闘いが好きだから、別に何も苦じゃないよ。」

俺は思ったままを口にした。
でもはまだ納得いかないらしく、『そうだけど……』と表情を曇らせる。

「それに、俺がをそばに置いている理由はそれだけじゃないしね。」
『へ?』

俯いていたの顔が、キョトンとした表情で俺に向けられる。
それが可愛くて、俺は自然と笑顔になった。

「俺、初めて会った時からに惚れてるんだ。」
『……え?』
「だから、俺はを傍に置いてるんだよ?」
『な、ななな、にゅわあぁぁぁー!?』
「何それ、新しい呪文?」

予想以上のの反応に、俺はケラケラと声をあげて笑った。
はと言うと、顔を真っ赤にして俺を指差し、わなわなと体を震わせている。

『じょじょじょ、冗談!!だって、阿伏兎さんが言ってたもん!
 神威は人間らしい感情が欠落したイカれた人間だって!!』
「……阿伏兎そんなこと言ってたの?」
『言ってた!それに、他の人だってみんなそう言ってた!』

あとで全員シメとくか。
俺は心の中でそう思いつつ、トマト状態のに近付き、そっと抱きしめた。
はビクッと反応を示したが、驚きすぎたのか抵抗はしなかった。

「確かに、に会うまではそうだった。それは否定しない。
 でも、最近俺の人格が変わってきたって、阿伏兎から聞いてない?」
『……そういえば、最近、神威の性格が穏やかになってきたって……。』
「それ、のせい。」

俺は抱きしめる力を少し緩めて彼女を見た。
相変わらず真っ赤な顔で呆然と俺を見るがあまりに可愛くて、
本人の了解も何も得ぬままに俺はに口付けた。
触れるだけの簡単なキスだったけど、には相当恥ずかしかったようで、
顔を離すと同時に思いっきりグーで殴られた。(酷い……)

『何すんのよ!!』
「冗談じゃないよ?、俺は本気なんだ。」
『アタシの返事も聞かないで!!!!』
「だって、……。」
『ずっと一緒に居て好きにならないわけないでしょ!?』

大きな瞳に涙をいっぱい溜めて、顔を真っ赤にして俺に怒鳴るが声を荒げるなんて初めてで、俺は一瞬面食らった。
俺がキョトンとした顔をしていると、がギュッと俺に抱きついてきて、
小さな『ばか……』という呟きが聞こえてきた時、
俺はやっとの事での言いたいことを理解した。

「……本当に?」
『ばか!!ばかむい!!もう知らない!!!』

俺を抱きしめるの腕にギュウッと力が入る。
そうか、そうなんだ。俺は緩んだ口元で『』と名前を呼んでやる。
俺でも驚くほどの優しい声色に、はそっと俺を見た。

「俺の性格を変えちゃったんだ。それなりの事はしてもらうよ?」

そう言って、俺はもう一度鞠末に口付けた。




この責任は取ってよね

(好き、大好き) (神威なんか……大ッ嫌い) (ホントに?) (知らない!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ さぁて、神威と両想いになれてるかなコレ!(不安) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/03/02 管理人:かほ