どうやら完全にに惚れてしまっているらしい団長に、俺は深い溜息をついた。 さっきから見てりゃあ初めて見る顔ばっかりしやがるこの人。 人を困らせて笑ってんのはいつもの事だが、 その笑顔に優しさが滲み出ている団長はただただ気持ち悪い限りだ。 「悪かったな、銀髪。今日はこのまま引き下がるから勘弁してやってくれ。」 隣の部屋に立てこもったに声をかけていた銀髪に向かって俺がそう言うと、 銀髪の隣でまだをからかっていた団長があからさまに嫌な顔をした。 「団長、いつもの笑顔がお留守だぞ。」 「分かってるんなら見逃してよ。阿伏兎だけ帰れば?俺残るから。」 「何言ってんだこのすっとこどっこい!アンタも一緒に帰るんだよ。」 また上にどやされっぞ、と付け加えて、 俺は押入れに逃げようとした団長の首根っこを掴んだ。 ある程度の自由は許されている第七師団と言えど、 このまま元老に黙っていつまでも地球に滞在するわけにはいかない。 それなくてもこの間の吉原の一件で元老からは目をつけられているというのに……。 そこまで考えて、俺はまた深い溜息を吐いた。 全く、上がちゃらんぽらんだと下がしっかりするとは 一体どこの誰が言い出した言葉なんだか。 この言葉以上に俺と団長の関係、もとい俺の苦労を表現した言葉はない。 「、お前も悪かったな。団長は連れて帰るから、出てきてもいいぞ。」 団長の首根っこをしっかりと掴みながら、 俺は今回の“団長の我侭騒動”で一番被害を被ったであろうに声をかけた。 するとは警戒しながらも少し襖を開け、 団長の動きが封じられているのを確認してからゆっくりと姿を現した。 「何今の。阿伏兎、お前に惚れたのかい?」 「んなわけねぇだろ!何度言わせりゃ気が済むんだ! ほら!せっかく俺が最後にに会わせてやったんだ、 詫びの一つでも入れてさっさと帰るぞ!」 俺の言葉でが出てきたのが気に入らなかったのか、 団長はこれでもかという程の殺意を込めて俺を睨んできた。 その反応に内心冷や汗をかきながらも、俺は大人の対応を貫き通す。 団長、頼むから大人しく春雨の母艦に帰ってくれよ……100円あげるから。 「仕方がないな……年老いた阿伏兎に免じて今日は諦めてあげるよ。」 やれやれとお決まりの仕草をしながら、 団長はやっと観念した様子で俺の手を振りほどいた。 その表情は全然仕方がなさそうじゃなかったし言葉には棘があったが、 どうやら本当に春雨に帰ってくれるようなので、 俺はあえてツッコミを入れず、ただ一言「そりゃどーも」と軽く返事をした。 「でも、君を諦めたわけじゃないからね。 また近いうちにプロポーズしに来るから、今度こそいい返事を待ってるよ。」 『なっ……!?』 団長の言葉に、がまた顔を赤くした。 最初はもこの人がふざけているんだと思っていたようだが、 どうやら団長が本気だという事に気づき、言葉をちゃんと受け止めているようだ。 それにしても、の百面相は結構面白いな。 こんなこと言ったら確実に団長に殺られるから口には出さないが。 『そ、そーゆー事をサラッと言わないで!!』 「あれっ、何その反応。もしかして脈あり?」 『んなわけねーだろーが!!!!もういいからさっさと帰ってよ!!!!』 銀髪の後ろに隠れながら、は怒ったように叫んだ。 そんなを見て団長はケラケラと笑う。 「あっはは、分かったよ。じゃあね。 今度来る時は大人のおもちゃを土産に持ってくるから。」 『最悪なんだけど!!! 第一印象から何から何まで最悪なんだけどこの男ォォ!!!!』 のシャウトを背に浴びて、心底満足そうに万事屋を立ち去った団長の姿に、 俺はの今後の人生に心の底から同情した。狙った獲物は逃がさない
(!安心しろ!お父さんあんな奴は婿として認めねぇからな!) (誰がお父さんだ誰が!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ やっとこさ一章終了です!次章は迷惑兄さん捜索篇! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/11/03 管理人:かほ