しょうせつ

「オイ、団長来てねーか?」

いきなり聞こえてきたその声に、俺たちは誰一人として振り返らなかった。
それもそのはず、俺たちは今ジェンガという名の戦争の真っ只中なのだ。
最初は暇だからってやり始めたジェンガだったが、
神楽の巧妙な裏工作やの集中力の高さ、
そして新八の地味さが俺の闘争本能に火をつけ、
いつの間にか4人全員が本気で熱中してしまっていたりする。

「あぁん!?団長!?ライオンでも追っかけてんじゃねーの!?」

俺は自分の番になったので客には目もくれず言葉を返した。
さっき神楽が引いたせいで絶妙なバランスになったジェンガを凝視しつつ、
一番安全そうな真ん中のジェンガをゆっくりゆっくり引き抜く。

「銀さん、何でライオンが脱走した設定なんですか。
 どうせならもっと大人しい動物を……ちょ、神楽ちゃん揺らさないで。」

俺の次は新八の番だ。
さっきから新八の番になると神楽がさり気なく机を揺らす。
俺はそんな子に育てた覚えはねーぞ、ナイスだ神楽。

「いや……サーカス団の団長じゃなくて、ウチの団長だよ。」
「内野団長だとォォ!?奴は先月死んだ!!現実を見るアル!!」
「神楽ちゃん、勝手に内野団長殺しちゃダメでしょ。そして揺らさないでって!」

まだどれを引こうか迷っている新八にまたもや地震攻撃をしかける神楽。
そんな神楽の行動に新八が若干イラッとしていたが、
そこは万事屋一の知将・志村新八だ。
感情に流される事なく一番安全なジェンガに狙いを定め、それを一気に引き抜いた。
引き抜いた時の衝撃で多少揺れはしたものの、
ジェンガは相変わらず堂々と俺たちの前に聳え立っている。

「いや、お前等ちゃんと人の話聞いてる?」
『聞いてます聞いてます!ええっと、誰でしたっけ?内野さん?
 内野さんなら多分今中庭に居ると思うんで行ってあげて下さい!』
「さん、ウチに中庭なんてありませんけど。が不安定なジェンガを真剣に見つめながら一番丁寧な返事をした。
そして持ち前のカンで瞬時に安全なジェンガを見極め、一瞬で引き抜いた。
の神業にジェンガの塔は微塵も揺れることなく、次の神楽へと順番がまわる。
しかし、そこは宇宙最強の戦闘部族である神楽だ。
に負けず劣らずの神業で瞬時に安全なジェンガを引き抜きやがった。

「いやいや、内野さんって誰だよ。団長だよ団長。」
「ふふふ、誰も私に勝てないアルよ。そう、団長さえもなぁ!!」
「くっそー!!何でコイツ無駄にジェンガうめーんだよォォ!!」

俺が頭を抱えながらそう言うと、神楽はムカつく高笑いをし始めた。
しかも今更「コレ負けた奴は罰ゲームアルよ」なんて言い出しやがった。
何なんだよコイツ、自分は負けないと確信したらこの態度。
こうなったら意地でも俺は生き残る。そして新八を犠牲にする!

「おい、お前等いい加減にしろよ。俺もそろそろ怒るぞ。」
『ほら銀時!早く引かないと怒られるよ!早く引いて!』
「うるせぇって!今集中してんだから!」

とりあえず俺はさっきから狙っていたジェンガを引き抜くことにした。
ゆっくりゆっくり、慎重に慎重に……。
俺が成功すると自分の番になってしまう新八と、
その新八が成功したら自分の番になってしまうが固唾を呑んで見守る中、
俺の指先に挟み込まれたジェンガがスポッと音を立てながら塔から脱出した。

よっしゃ!これで俺は安全圏だ!
この様子じゃ、次の新八かの番には確実にジェンガは崩れ去る!
勝った……俺はこの勝負に勝った!!
だはははは!ザマァみやがれ新八ィ!罰ゲームは一週間トイレ掃除な!

「銀さん、心の声がきっちり出てますよ。
 そしてさっきから何で僕の番になったら揺らすの神楽ちゃんんん!!!!」
「揺らしてないアル。これはれっきとした地震ネ。」
「机しか揺れない作為丸出しの地震があるかァァァ!!!!!」

新八が大声を出した瞬間、ジェンガが見事に崩れ去った。
これは多分新八のツッコミの所為で倒れたので新八の負けだ。
神楽とは「やったぁ♪」とお互い手を叩き合っているし、
俺は俺で「ドンマイ新八!」と勝利の笑い声をあげながら新八の背中を叩いた。
新八は心底悔しそうに「くっそォォ!神楽ちゃんの陰謀だァァ!!!!!」と
崩れたジェンガが広がる机をバンバン叩いていた。

「はー、これで一週間はトイレ掃除をしなくて済むな。
 ところでさっき客来てなかった?」
『あっ!そうだった!すみません、お待たせしましっ……た……。』

俺の言葉にハッとしたが急いで部屋の入り口に向かって謝ったが、
次の瞬間、は口をあんぐりと開けて固まってしまった。
そんなの様子を不思議に思った俺たちは3人同時に入り口へと振り返る。
そして、その人物の姿を視界に入れた次の瞬間、
神楽と新八が敵意剥き出しで同時にバッと立ち上がった。

「お前……吉原の時の……!!!」
「どうしてここに……!?」

そんな2人の反応に、オッサンは深い溜息を吐いた。




天敵の襲来

(あ、そう言えば神楽ちゃんと新ちゃんにこないだの事言ってないんだっけ) (もう二度と会うこともねぇと思ってたんだけどなぁ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 噂の兄ちゃんが出てこない章、開幕です! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/11/03 管理人:かほ