突然万事屋に乱入してきた黒スーツの集団は、 よく見ると全員顔に傷があり、すぐにソッチ系の人たちだということが分かった。 「ぎ、銀さん……。」 「狼狽えるんじゃねーよ。」 僕が銀さんに声をかければ、銀さんは手早くそう言って 社長イスに座ったまま黒スーツの集団をぐるっと睨みつけた。 その声と表情は真剣そのもので、僕は思わず息を呑んだ。 「お前等一体何なの?は?」 お兄さんのその声に僕が神楽ちゃんとお兄さんの方を見ると、 神楽ちゃんもお兄さんも真剣な表情で黒スーツ達を睨みつけていた。 特にお兄さんの方はその顔から笑顔が消えていて、 少し離れている僕にまで伝わってくるほどの殺気を放っている。 「オイ神威、手ぇ出すんじゃねーぞ。」 銀さんは今にも暴れ出しそうなお兄さんにそう声をかけたけど、 お兄さんは銀さんの言葉なんか聞こえてないといった様子で 指をパキパキ鳴らしながら射殺すように黒スーツの集団を睨みつけた。 「まさかとは思うけど、俺のに手ぇ出したりしてないだろうね?」 お兄さんは低い声でそう言いながら一歩前に踏み出した。 その顔は吉原で見た時とは違う、本当に怒っている表情だった。 このまま暴れらたら絶対に誰も止められない。 そんな考えが万事屋3人の頭をよぎった時、 突然玄関から慌てた様子のさんが飛び込んできた。 『神威ストップ!この人たち悪い人じゃないから!!』 「……!……。」 さんが言いながらお兄さんに駆け寄れば、 お兄さんはさんの姿を確認したと同時に殺気を放つのを止め、 驚いたようにさんの名前を呼んだ。 そんなお兄さんの様子に、銀さんが安心したように溜息を吐いた。 「すまねぇな、万事屋さん。こんな大人数で驚いただろ。」 黒スーツの集団やお兄さんの殺気によって 必要以上に緊迫していた室内に、突然そんな声が響いてきた。 その声にその場に居た全員が玄関に顔を向けると、 姿を現したのは40歳くらいの華奢な男の人だった。 「「「「ご苦労さんです、頭ァ!!!!」」」」 その人が入ってきた瞬間、 事務所の周りを取り囲んでいた黒スーツの人たちによる ドスの効いた重低音のコーラスが万事屋に鳴り響いた。 それと同時に黒スーツ達はバッとその男の人に頭を下げる。 突然の異様な光景に、僕たちは口をあんぐりと開けた。 どうやらこの優男さんが黒スーツ達のボスのようだ。 『えぇっと、紹介するね。この人が今回の依頼主。』 黒スーツ達の大合唱や突然現れたボスらしき人に僕たちが唖然としていると、 さんが困ったような笑顔でそう言ってボスらしき人を紹介した。 それに呼応するかのようにボスらしき人、 もとい今回の依頼主である社長さんが軽く頭を下げる。 「えっ、何?アンタが今回の依頼主?」 呆気に取られた銀さんが間抜けな顔のままそう言うと、 社長さんは銀さんに向かってまた丁寧に礼をして顔を上げた。 「今回アンタ等に護衛を頼んだ者だ。」 「いやいやいや……護衛ってアンタ、 こんなに大人数のおっかない部下抱え込んで何言ってんだよ。 もう俺たちいらねぇじゃん。コイツ等だけで十分じゃん。」 銀さんの言葉に、社長さんはケラケラと声をあげて笑った。 「確かに、普通の人間相手ならコイツ等だけで十分だ。 しかしねぇ、今回はそうも言ってられなくてな。」 社長さんの意味深な言葉に、銀さんとお兄さん、 そして神楽ちゃんとさんが同時に真剣な表情になった。 「まぁ今から詳しく話すよ。早速で悪いが、仕事の話だ。」 『あっ、立ち話もなんですから、どうぞお掛け下さい。』 さんがソファーに促すと、 社長さんは「悪いね」と言ってソファーの真ん中に腰を降ろした。 その後、さんは台所へお茶を淹れに行き、 社長さんの向かい側で立っていた神楽ちゃんとお兄さんはソファーに腰掛けた。 そして僕は銀さんの隣に立ち、銀さんは社長イスで体勢を整える。 「で?アンタは誰に命を狙われてんだ?」 全員が社長さんに注目する中、銀さんがおもむろに口を開いた。 「確か依頼内容は取引先の会社からの怨恨が理由だって聞いてたが?」 「あぁ、確かにそうだ。俺はある取引先の重大な秘密を知っちまったのさ。 それが理由で命を狙われてる。ただ……。」 社長さんがそう言ってしばらく黙り込んでしまったのと同時に、 さんがお茶を運んできて社長さんの前に置いた。 「単刀直入に言うとなぁ、俺は春雨に命を狙われてるんだ。」 重々しく放たれた社長の言葉に、僕たちは一斉にお兄さんの顔を見た。まさかの知り合い(?)
(へぇー、春雨にねぇ。そいつは大変だね) (いや大変だねじゃねぇだろテメー) (なんかややこしい事になっちゃったなぁ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ この章からちょっとずつシリアスなお話になっていきます。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/27 管理人:かほ