しょうせつ

春雨に命を狙われている。
社長さんは真剣な表情でそう言った。
その顔からは本当に困っている様子や
真面目な雰囲気がしっかり伝わってくるんだけど、
春雨というその言葉に、万事屋メンバーは一気に気が抜けてしまった。

「取引先の会社が実は春雨の密輸に加担してたんだ。
 それを知った俺は取引先と春雨の両方から命を狙われてる。
 今まで何人もの用心棒に護衛の依頼をしてきたが、
 どこも春雨という名前を聞いた途端にビビっちまってなぁ……。」

拍子抜けしている僕たちとは裏腹に、社長さんは暗い面持ちで話を続けた。

「困ってた時にアンタ等の話を聞いたんだ。
 かぶき町にある万事屋なら、どんな依頼でも引き受けてくれるってな。」

社長さんは言い終わるとパッと顔を上げ、銀さんの方を見た。

「本当に危険な仕事だってのは重々承知だ。
 だが、俺もこんなところで死ぬわけにはいかんのでね。
 万事屋さん、悪いがこの依頼引き受けちゃくれねぇか?」

社長さんは不安そうな表情で銀さんにそう言った。
すると銀さんは神楽ちゃんのお兄さんを凝視していた目線を社長さんに戻し、
「あー……」とダルそうに声を出してから軽く溜息をついた。

「いいぜ。その依頼引き受けてやるよ。」
「えっ?本当か?」
「あぁ。いいよな、神威。」

銀さんがお兄さんの方を見ながらそう言ったので、
社長さんは不思議そうな顔をして同じくお兄さんの方を見た。
すると見られた本人はいつものヘラヘラした笑顔のままで、
「俺は関係ないだろ?」なんて呑気なことを言っている。

「何が関係ねぇだよ。テメーんとこの部下の仕業だろ?」
「密輸は師団にも属さない本当に下っ端の仕事なんだ。
 俺は会ったこともなければ関わった事もない。」
『へぇー、春雨にも階級とかあるんだ。』

お兄さんの言葉にさんが感心していると、
社長さんは何を言っているのか分からないと言った様子で銀さんを見た。

「万事屋さん、この人は一体……。」
「あぁ、そいつ春雨の師団長。」

もう感覚が麻痺してしまっている銀さんが平然とそう言えば、
社長さんは目を見開いてお兄さんの顔を見た。
そんな社長さんの反応に、僕はちょっとだけ不安になる。

ただでさえ宇宙中で恐れられている春雨だ。
その幹部が目の前に居るなんて、
普通の人間からしたら恐怖以外の何者でもないだろう。
その上、この社長さんはその春雨に命を狙われていて、
ウチに依頼に来るくらい困っているんだ。
銀さんは何も考えていないみたいだけど、僕には社長さんの動揺がよく分かる。

「お、お前さん……春雨の……幹部なのか……?」
「まぁね。」

社長さんはお兄さんを凝視したまま震える声でそう言った。
その行動に、僕の不安は高まっていく。
お願いだからお兄さんを攻撃するのだけは勘弁してほしい。
ここでお兄さんに暴れられたら、
止められるのはさんしかいないんだから……!

しかし、そんな僕の心配は単なる杞憂に終わってしまった。

「あっはっは!そうかそうか!アンタ春雨の幹部なのか!」

さっきまで暗い顔をしていた社長さんは急にパァッと明るい顔になり、
大声で笑いながらお兄さんに向かってそう言った。

「じゃあアイツ等なんて敵じゃねぇよなぁ?」
「まぁ、春雨の中で俺に勝てる奴なんて居ないと思うけど。」
「おー!そりゃあ頼もしい!
 じゃあ大船に乗ったつもりでアンタ等に護衛を任せるぜ!」

社長さんは嬉しそうにそう言うとまた大声で笑った。
どうやら僕と社長さんの物事の捉え方は根本的に違うみたいだ。
この社長さん、どうやら根っからのポジティブ思考らしい。
それともお兄さんの事を安全な人だとでも思っているんだろうか。
まぁさんが居る限り害はないとは思うけど、
他人を護衛してくれるような人でもないんだけどなぁ……。

「言っとくけど、俺はアンタを護ったりしないよ。」

僕の考え通り、キッパリとそう言い放ったお兄さんに、
さんが諌めるような声で『神威、』と名前を呼んだ。

『アンタ一緒についてくるんでしょ?だったらちょっとは仕事手伝って。』
「俺は弱い奴等には興味ないんだけどなぁ。」
『いいから手伝って!相手は春雨なんだから、連帯責任!』

さんにそう言われたお兄さんはやれやれと肩をすくめ、
「に言われたら断れないな」と、お決まりのフレーズを口にした。
お兄さんのその言葉に、銀さんはどこか安心したような顔になり、
仕事開始だと言うように社長イスから立ち上がった。




面倒そうな仕事の幕開け

(よし神威、春雨の奴等はお前の担当な) (何で銀さんに命令されなきゃいけないんだよ。断固断る) (お前……マジでの言うことしか聞かねぇのな……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 黒い毛玉さんは完全に趣味ですって書こうとしたらそれ次の話だった。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/30 管理人:かほ