しょうせつ

触覚バカにまたプロポーズされて顔を真っ赤にしているを眺めながら、
俺はどうしたものかと元々あまり無い頭をフル回転させていた。
この様子じゃ、神威はから離れようとはしないだろうな。
それどころか社長が死にそうになってても自分から動きはしないだろう。
の身が危険にさらされるか、に命令されるか、
そのどっちかでしかこのバカは絶対に動かない。
俺はそこまで考えて、大きな溜息を吐いた。

「銀さん、どうします?とりあえず全員で社長の傍を護りますか?」

俺の隣で新八がそう尋ねてきたので、
俺は「いや、」と言いながら顔を上げて全員を見渡した。

「俺と神威と新八は玄関で待機、と神楽はここに残って社長の護衛だ。」

俺が言うと、が驚いた顔で俺を見た。

『二手に分かれるの?春雨相手に大丈夫?』
「だからこそ分かれるんだよ。」

俺はソファーの背もたれにもたれかかりながら言葉を続ける。

「そこに居る触覚バカはともかく、
 相手は俺たちがまともに戦り合って勝てる相手じゃねぇ。
 だったら万が一を考えて、敵の侵入を食い止める係と
 社長の身の安全を確保する係に分かれた方が確実だろーが。」
『まぁ、それもそうね……。』

俺の言葉にが納得したような顔でそう言えば、
今度はの隣に座っていた神威が俺に不満そうな視線を向けてくる。

「俺はと離れる気はないよ。分かれるなら俺はと一緒に居る。」

ほらきた、言うと思ったんだよ全くよぉ……。
予想通りの神威の言葉に、俺は「あのなぁ、」と神威を睨んだ。

「お前は戦力の要だから当然敵を迎え撃つ方に行ってもらう。
 はそこそこ戦える上に治癒能力がある。
 いざって時のために社長の傍に置いておくのが一番いいんだよ。」

俺がそう言うと、神威は少しだけ驚いたような顔になった。

「銀さん、意外と考えてるんだ。」
「ったりめーだ。銀さんデキる大人だから。
 テメーみてぇに我ァ通して依頼人殺すような真似しねーよ。」

俺の言葉に、神威は真剣な表情になった。
それがどういう感情からなのかは俺には到底分からなかったが、
どうやら過去に自分の我を通して依頼人を殺した経験があるらしい。
別にコイツの過去を言い当てる気なんてさらさらなかったが、
コイツの表情から察するに、俺の言ったことは図星のようだ。

『神威、お願いだから銀時の言うこと聞いて。』

お互い黙ったまま睨み合っていた俺と神威を交互に見ながら、
は控えめに、しかしハッキリと神威にそう言った。
すると神威はゆっくりと視線をに向ける。

『万事屋の一員として仕事についてきた以上、
 神威にもちゃんと働いてもらうからね。』
「…………。」

の真っ直ぐで強い瞳に、神威は大きな溜息を吐いた。

「分かったよ、銀さんの言うことは極力聞くようにする。
 完全に俺の負けだよ。流石は俺の惚れた女だ。」

神威はそう言いながら両手を挙げて降参のポーズをとった。
するとの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

『ほっ、惚れたってアンタ、またそういうバカなこと言う!』
「俺は真剣だよ?いつか絶対にを組み敷くから。」
『組みっ……!?だ、だから!バカなこと言わないでってば!!!』
「、顔が真っ赤だよ?俺に惚れた?」
『調子に乗るな!!!!』

怒ったがそう叫びながら
神威の顔面めがけて結構速いストレートを繰り出したが、
神威はケラケラと笑いながらいとも簡単にそれを避けてしまった。

「じゃあ行ってくるね、。」

神威はやけに爽やかな笑顔でそう言って、
部屋の入り口にあるエレベーターへと歩いて行った。
そんな神威の余裕っぷりに腹を立てたのか、
が悔しそうに『くそー!!』と叫んでいる。
俺と新八はお互いに顔を見合わせ深い溜息を吐いた後、
神威に続いてエレベーターへと乗り込み、地獄の一階を目指した。

「はぁ……またあのおっかねぇ部屋を横切んのか……。」
「大丈夫ですよ銀さん。
 僕たちには手出しさせないって社長さん言ってくれましたし。」

肩を落とす俺にそう言った新八だったが、
その笑顔は引きつっていてとても大丈夫そうには見えなかった。

「はやっぱり面白いね。」

俺と新八がお互いに顔を引きつらせていると、突然神威がそんな事を言い出した。
その言葉に俺たちは同時に神威の方を見る。

「今まで出会った奴等の中で、俺をあんな凛とした目で見た女は初めてだよ。
 だいたいの奴が怖がってるか敵視してるか死んでるかなんだけどな。」

そう言って神威はケラケラと笑った。
そんな神威の行動に、俺は小さく溜息を吐いた。

「バカヤロー。そこに2つほど付け足しとけ。」

俺がそう言うと、神威は不思議そうに小首を傾げて俺を見た。

「一つは“コイツ絶対バカだ”っていう目。
 もう一つは“コイツぜってー後で殴る”っていう目だ。」

俺が言い終わるのと同時に、エレベーターは一階へと辿り着いた。
そしてエレベーターのドアが開くのと同時に、
神威が初めての居ないところで自然な笑顔で微笑んだ。




初めて繋いだ“仲間”の絆

(へぇ……銀さんたちそんな目で俺を見てたんだ) (いえ、全部この眼鏡が言ってたことです) (ちょっと!!勝手に僕を巻き込まないで下さいよ!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 銀ちゃんは元攘夷志士だから戦術とか結構考えてるよねって話と、 雷槍さんは絶対に依頼人をやっちゃったことがあるはずだっていう話。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/30 管理人:かほ