しょうせつ

玄関開けたら2秒で敵襲。
そんな最悪な状況に陥ってから数分が経過した頃、
神威の活躍もあってか辺りはすぐに血の海となった。
俺と新八が相手をした奴等は気を失っていたり倒れていたりするだけだが、
神威が相手をした奴等は全員息の根が止まっている。
そんな惨状を目の前に、新八は何ともいえない顔をしていた。

『銀時ッ!!新ちゃん!!大丈夫!?』
「さん……!!」

俺たちの騒ぎを聞きつけてか、
が俺たちの名前を叫びながら玄関から勢いよく飛び出してきた。
その声に安心したのか、新八は泣きそうな声での名前を呼んだ。
そして新八はすぐにの傍に駆け寄り、
も新八の無事な姿を見て安心したようだった。

『な、何、これ……。』

血の海を見渡して愕然としているの姿に、俺は「あちゃー」と頭を抱えた。
は人殺しが大嫌いだ。
それが人間であれ天人であれ、目の前で人が殺されるのを嫌う。
一応、神威にもそのことは言ったはずなんだけどなぁ……。
俺は相変わらずにこにこと笑っている神威を一瞥して深い溜息を吐いた。

『これ、アンタがやったの……?』

はわなわなと震えながら、目線は血の海のままで神威に問いかけた。
すると神威はそんなの様子に気づいていないのか、
あるいは気づいているがさほど気にしていないのか、
にこにこと笑ったままに歩み寄って行った。

「死んでる奴は全員俺が相手をした奴だよ。」
『何も、殺さなくても……。』
「何?可哀想だとでも言うのかい?コイツ等は敵だ。情けは無用だろ?」

当たり前のように言った神威を、はキッと睨みつけた。

『それはアンタ達海賊のルールでしょ!?』
「俺は海賊である以前に純粋な夜兎族だ。
 弱い奴を相手に手加減をして戦うのは面倒なんだよ。」
『もう二度とアタシの近くで人を殺さないで!!』
「天人は?」
『天人もよ!!』

のんべんだらりと答えを返す神威に、はイライラしたように怒鳴りつけた。
そんなの様子に新八はたじろいでいたが、
怒鳴られた本人である神威はそんなこと全く気にしていないようだった。

「いくらの頼みでもそれは出来ないな。
 俺たちは戦闘部族夜兎だ。その血に背くようなマネは出来ない。」

神威がそう言った瞬間、が神威を思いっきり殴りつけた。
相当怒っていたのだろう、殴られた神威は数メートルほど吹き飛ばされ、
は泣きそうな顔をしながら驚いている神威にこう怒鳴りつけた。

『戦うのと殺すのは違うだろ!!!!』

は言い終わると、フンと顔を背けてさっさと社内に戻って行ってしまった。
その後を新八が慌てて追いかける。
そして2人と入れ違いに中から大勢の社員が出てきて、
俺たちが暴れた後の後始末やらをしてくれていた。

「だから言っただろ。は殺しが嫌いだってよ。」

俺が運ばれていく死体や取り押さえられている奴等を眺めながらそう言うと、
まだ座り込んだまま呆然としている神威が
に殴られた頬をさすりながら言葉を返してくる。

「あんなに怒るなんて思わなかったな。
 コイツ等は敵である上に所詮他人なのにさ。」

に殴られて一応ショックを受けているのか、
神威はいつもの笑顔を作り忘れて唖然とした表情でそう言った。

「それに、天人も殺すなって言ってたけど、
 って天人が嫌いなんじゃなかったっけ?」

あぁ、コイツ俺の言ったこと覚えてたのか。
俺はそんな事を考えつつ、納得いかないと言いたげな神威を見た。

「まぁ、攘夷戦争中はそうだったけどな。
 神楽がウチに来てからは考えが変わったらしいぜ。
 天人にもいい奴が居るんだってよ。」
「ふぅん……。」

神威は納得したような声を出したが、顔はまだ真剣な表情のままだった。
どうやらに殴られて相当ショックを受けているらしい。
正直、俺はに言い寄っているコイツを見てても
そこまで感情が籠もっている様には見えなかったのだが、
を嫁にしたいという言葉は嘘偽りない本心だったようだ。

「、泣きそうな顔してた。」

消え入りそうなその言葉に俺が神威の顔を見れば、
神威は柄にもなく目を伏せ、少しだけ眉間にしわを寄せていた。

「のあんな哀しそうな顔……見たくなかったな……。」

そう言って自分も哀しそうな顔になった神威に、俺は心底驚いた。
多分コイツは自分が今どんな表情をしているのか全く理解していないんだろう。
こんな人間らしい表情、に向ける笑顔だけかと思っていたが、
どうやらコイツは俺の思っている以上にによって変えられているらしかった。




初めて感じた胸の

(お前、やっぱり思ったよりもマシな奴だったな) (……?何言ってんの銀さん、頭でも殴られた?) (そんなヘマしてねぇよ、バカヤロー) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ゆっくりゆっくり、じわじわと侵食されていってるんです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/03/30 管理人:かほ