しょうせつ

「あれっ?お前着替えた?」

一緒に玄関へ戻ってきた銀さんが神楽ちゃんのお兄さんを指差してそう言った。
僕は内心ドキドキしつつもお兄さんの姿を目に映す。
見ると、確かにお兄さんの服はチャイナ服からスーツ姿に変わっていた。



「さっきの服は血で汚れちゃったからね。ここの奴等に貸してもらったんだ。」

そう言いながらお兄さんは窮屈そうに服の襟を広げた。
上はYシャツに下はスーツという何ともカジュアルな格好だ。
こうしていると、そこら辺にいる普通の男の人と何ら変わりないのになぁ。

「へぇ、馬にも人参ってやつか。結構似合ってんじゃん。」
「銀さんもしかしてそれ馬子にも衣装って言いたかった?」

銀さんのボケ(いや、本気かもしれない)に
いつもの笑顔でツッコミを入れたお兄さんを見ながら、僕は変に緊張していた。
さっきの戦いを見ていて、やっぱりこの人は夜兎族なんだと実感したからだ。
さんと一緒に居る時は全然怖くなかったから忘れかけていたけれど、
この人は吉原で出遭った夜兎族の一人であり、危険人物。
下手をすればすぐに首を撥ねられてしまうかもしれない位危ない人なんだ。

さっき上で銀さんが、
「アイツはもうあんな戦い方はしねぇよ。」
なんて言ってたけど、僕はまだ分からないと思っている。
だってこの人、何を考えているか全然分からないから。
さん以外に向けられるその視線が、
いつ何がきっかけで殺意に変わるか分かったもんじゃない。
だから僕はこの人が怖い。あの時と同じ、ただ怖いんだ。

「そういえば銀さん、どうだった?」

お兄さんがちょっと不安そうな声色で尋ねれば、
銀さんは「あぁん?」とダルそうな声でそれに応えた。

「あぁ……まだ怒ってたけど。」
「そっか。」

銀さんの言葉に、お兄さんは苦笑した。
そのあまりにも寂しそうな表情に、
あんな顔も出来るんだ、なんて、ちょっと気を許してしまった。
銀さんはそんなお兄さんに向かってさらに追い討ちをかけていく。

「アイツ全然アタシのこと分かってないじゃん、
 誰があんな奴の嫁になんかなるもんか、死んでも断る!とも言ってた。」
「ちょ、ちょっと銀さん、もういいでしょう。」
「あとなぁ、銀時に土下座しなかったら一生許さないとも言ってた。」
「いやそれは言ってませんよ!!アンタ何調子に乗ってんですか!!」

どさくさに紛れてあること無いこと言い出した銀さんに
ついいつものように勢いよくツッコミを入れてしまい、
僕はハッとしてお兄さんの方を見た。
するとお兄さんはキョトンとした顔で僕を見る。

「何?」
「えっ?あっ、いえっ、別に……。」

お兄さんから声をかけられ、僕は慌てて目線を逸らした。
冷静になって考えてみれば、僕は別に悪いことなんてしてない、よな?
あぁ駄目だ、恐怖のあまり必要以上に緊張してる。
この人は一応、さんの言うことは聞くんだから、
僕や銀さんに手を出すようなことは、多分無いに等しいだろう。
だからそんなに緊張することないぞ新八。
僕は心の中で何度も自分にそう言い聞かせた。

その時。


ドガァァァン!!!!!


「ッ!?」
「なッ……!?」

急に頭上から凄まじい破壊音が鳴り響いてきたので、僕たちは一斉に上を見上げた。
するとそこには社長室に突っ込んでいる宇宙船の姿が。
その惨状を目の当たりにした途端、
お兄さんと銀さんは血相を変えて最上階へと駆け出して行った。

「!!!」
「!!神楽!!大丈夫か!?」

2人は最上階、つまり社長室に到着した瞬間同時にそう叫んだ。
すると3人は宇宙船が突っ込んでいる窓側ではなく、
僕たちのすぐ目の前、エレベーターの前に居た。

『銀時!!どうしよう、社長さんが……!!』

悲痛に叫ぶさんの腕の中には倒れている社長さんの姿が。
それを見た瞬間、銀さんはチッと舌打ちをしてさんの前に駆けて行き、
煙が立ち込めている窓側からさん達を庇うようにして木刀を構えた。

「落ち着け!元救護長がぎゃーぎゃー喚いてんじゃねぇよ!!」

銀さんが荒っぽくそう言うと、さんは首を大きく横に振った。

『無理よ!!こればっかりはアタシにもどうすることも出来ない!!』
「テメェらしくねぇぞ!!
 目の前で倒れてる奴にはとりあえず救いの手を差し伸べる、
 それが攘夷志士救護長のだったじゃねぇか!!」

銀さんが真剣な表情でそう言っても、さんはまだ首を横に振っていた。

『違うの銀時よく見て!!社長ヅラだった!!』
「テメェが状況を良く見ろォォ!!!!
 今はそれ所じゃねぇだろーがァァ!!!!さんがあまりにも真面目に叫びだすので、
銀さんは思わずさんの方に振り返って力の限りさんにそう怒鳴りつけた。
どうやら社長さんの命に別状は無いようで、僕は少しだけ安心した。
しかし2人がそんな下らない会話をしている間にも相手は着実に動いていて、
もくもくと揚がっていた煙が薄くなっていくのと同時に、
その中から先ほどとは比べ物にならない数の天人が姿を現した。




VS春雨戦、開始

(っていうか無事なんだったらどうしては社長を抱き上げてるの?) (ちょ、!社長無事なんだろ!?だったら降ろせ!今すぐ降ろせ!!) (嫌!社長気絶してるから!これだけは医療班の血が騒ぐの!) (お願いちゃん俺の言うこと聞いて!バカの血も騒いじゃってるからァァ!!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ スーツなお兄さんはお嫌いですか? ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/05/03 管理人:かほ