ねぇ、団長。 もしアタシと夜兎、どちらか一つを選ばなくちゃいけなくなったら、 団長はどっちを選ぶんですか? ある惑星の大掃除に出向く少し前、突然がそんな事を言い出した。 大掃除とはただの比喩で、実際にはある戦闘部族の惑星を1つ潰しに行く任務だ。 俺は昨日から戦闘部族と戦えることを楽しみにしていたのだけれど、 そんな俺とは裏腹に、 どうにも昨日からの様子がおかしい事には薄々気がついていた。 「か夜兎かってことは、か戦いかってこと?」 俺がいつもの笑顔でそう尋ねれば、 身支度をしていたがその手を止め、俺の顔を悲しそうな目で見つめてきた。 『アタシが闘わないでって言ったら、団長は闘うのを止めます?』 いまさら何を言っているのだろうか。そんなこと無理に決まっている。 俺は自他共に認める生粋の夜兎族なんだ。 今や夜兎族にも敬遠されている親殺しをやってのけたほどの、純粋な夜兎。 そんな俺がたとえの願いであっても闘うことを止めるなんて無理に決まっている。 「俺に闘うなって言いたいのかい?」 何の感情も持たずにそう言ったのに、 長年の付き合いであるには俺の考えが伝わってしまったようだ。 はさっきよりもずっと悲しそうな顔で微笑み、 『やっぱり無理ですよね……』と呟いて俺に背を向け歩き出した。 「。」 『変なこと訊いてすみませんでした。ただ、感傷に浸ってただけです。』 「感傷?」 他人の感情を読み取る能力に欠けている俺は、 の表情からもその言葉からもの真意を理解することが出来なかった。 だから明確な答えがほしくて部屋から出て行こうとするに言葉を投げかけると、 は一度その場で立ち止まり、そしてゆっくりと俺に振り向いた。 『アタシは所詮、団長の2番目の女なんだなって思っただけです。 団長がこの世で一番大切にしているものは、アタシじゃなくて、闘いなんですよね。』 ほとんど泣きそうな表情で無理やり微笑んでそう言ったに、 俺の心臓は何者かによって押しつぶされそうになった。 今まで色んなことでを泣かせてはきたけれど、 あんな風に微笑むを見るのは初めてだった。 とことん他人の感情に鈍感な俺だけど、今だけはの感情を理解できた。 「……。」 思わず声をかけたけど、はもう部屋を出て行った後だった。 こういう時、女にかけてやる気の利いた言葉が出てこないのは困ったものだ。 が悲しんでいる、それだけは十分に理解できるのに、 俺がに何もしてやれないことも十分に理解していた。 所詮俺は純粋な夜兎族だ。 闘いの前では他の何者も頭に入ってこない、そういう生き物。 たとえそれが、生まれて初めて愛した女のことであっても。 「アンタ今日動きが鈍いぞ。」 ネズミのような姿をした戦闘部族を200人ほど殺した辺りで、 近くで闘っていた阿伏兎がふいに俺にそんなことを言ってきた。 別に体が重いわけでも普段より弱いわけでもないが、 コイツはいつも核心を突いたことを言うので一応「そうかな?」と訊き返してみる。 「アンタに限ってそんなことはないと思うが、何か悩み事か?そんな動きだ。」 「悩み事……別に悩みってわけでもないけど。」 「じゃあ気がかりか?」 阿伏兎は心底驚いた様子でそう尋ねてきた。 その瞬間、思わずさっきのの表情が思い浮かぶ。 どうやら俺は自分が思っていたほど闘いを楽しめていなかったようだ。 「さっき、が――……。」 俺が口を開くのが早いか、 遠くの方で「ちゃん」という叫び声か聞こえるのが早いか。 ただ一つ確実に言えることは、 俺の体は頭で考えるよりも先に「」という単語に反応し、 呆気にとられている阿伏兎を置いて叫び声の方に駆けて行ったということだけだった。 春雨の母艦の医務室で、応急処置を受けたがゆっくりと目を開いた。 「やっと起きた。」 俺がベッドサイドでそう呟けば、は大きく見開いた目で俺の顔を見つめてきた。 『何で……。』 「覚えてないのかい?敵にやられて気絶してたんだ。」 俺の言葉では倒れる前のことを思い出したらしく、 ゆっくりと天井に向き直りながら深いため息を吐いた。 『……すみませんでした……。』 「負傷するなんてらしくないな。」 『……ちょっと、考え事してて。』 寂しそうにそう言ったに、さっきの自分を重ね合わせた。 たぶんは出発前の俺との会話を考えていたのだろう。 さっき阿伏兎に動きが鈍いと言われた俺のように。 「で、気をとられたんだ。」 『…………。』 表情こそ暗いものの、命に別状はなさそうだ。 医療班である第二師団の連中が「様子見」なんて言うから、 もっと重症なのかと思ってたけど。 「大丈夫そうだから、俺は戻るよ。」 『あ、えっと……任務、どうなりました?』 「何言ってるんだよ。その任務に今から戻るんじゃないか。」 俺のその言葉に、の目がまたしても大きく見開かれた。 『えっ……?あ、あの、任務、まだ終わってないんですか……?』 「そうだよ?」 『じゃあ、何で団長……。』 「を連れて帰ってきてやったんじゃないか。気絶してたからおぶってね。」 ベッドに横たわっているを見下ろすような形になってしまっている中、 俺はいつも通り何の感情も表さないままそう言って、少し後悔した。 常日頃からに「団長のその無感情なところが怖い」と言われ続けているのに、 これではまたとの距離が離れてしまう。 しかし、そんな俺の考えはただの取り越し苦労だったようだ。 『嬉しい……。』 か細い声でそう呟いたかと思ったら、は突然ポロポロと泣き出してしまった。 『団長、闘ってたのに……。』 「……。」 『闘いよりも……夜兎よりも……アタシを選んでくれたんだ……。』 泣いているのにやけに嬉しそうに微笑むのその表情に、 俺は思わずの頬に手を伸ばして濡れた目元に唇を落としてやった。 するとは幸せそうに微笑んで、俺に『行って下さい』と言う。 『団長、アタシもう大丈夫です。戦場に戻って下さい。』 「……いいの?俺が闘っても。」 出立前と言ってることが違うじゃないか。 そう思って俺がそう尋ねると、はゆっくりと首を縦に振った。 『いいんです。特別に許してあげます。』 だって、と前置きして、は俺に満面の笑みを向けた。夜兎の血に勝てたんで
(アタシがピンチになった時、団長がアタシを選んでくれるって分かりましたから) (それは俺が夜兎よりを大事に思ってるってこと?) (違うんですか?) (……さぁね。自分で考えなよ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 六万打本当にありがとうございました! こんな神威なら好きになるのになぁー。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/10/23 管理人:かほ