俺はと神楽(と社長)を背に護りながら、煙の立ち込める窓の方を睨みつけた。 さっき下で相手をした天人たちとは比べ物にならないくらいの人数だ。 こりゃさっき神威が暴れたせいで春雨にコイツのことがバレちまったな。 相当厄介な事になってしまったと、俺は大きく溜息を吐いた。 「オイ神威、明らかに春雨の人数が増えてんだけど。」 俺が隣に居た神威を睨みつけながらそう言えば、 言われた本人は何が楽しいのか、相変わらずの笑顔で「そうだね」と返事した。 「ついでに言うと、コイツ等師団の連中だよ。」 「はぁ?何それ。完全にお前のことバレてんじゃねぇか。」 「困ったなぁ。このままだと俺、無理やり連れて帰られるかも。」 「おーおー、そりゃいいや!テメーみてぇな疫病神、さっさと帰っちまえ!」 俺は投げやりにそう叫び、 さっきから俺たちに襲い掛かる機会を窺っていた春雨共に向き直った。 「ただし、帰るならコイツ等片してから帰れ。」 「嫌だなぁ銀さん、俺はコイツ等追い払ってでも帰らないよ。」 お互いに言い合った直後、俺たちは同時に相手の陣地へと駆けていった。 「銀さん!!」 「銀ちゃん!!」 ガキ共が俺の身を案じてか心配そうな声でそう叫んだが、 心配なんて全く必要なく、天人たちは面白いくらいに次から次へと倒れていった。 もちろん俺はそんなペースで春雨をさばけるほどの力は持っちゃいない。 春雨の師団連中を次から次へと倒しているのは、他の誰でもない神威だ。 師団員と言うだけあって下で戦った連中よりは骨のある奴が多いらしく、 さっきよりは多少の時間はかかってはいたものの、 神威は相変わらずの笑顔で天人達の間を駆け抜けていた。 そして数分後、流石は夜兎族と言うべきなのだろうか、 あれだけ居た春雨の天人たちが全員地面に倒れこんでいた。 まぁ俺も三分の一くらいは倒したが、 それでも神威に比べればその人数は微々たるものだ。 俺は改めて、コイツがに惚れてくれて良かったと実感した。 「やっぱり銀さんは強いね。春雨相手にやってくれるよ。」 「テメーに言われても全然嬉しくねぇよ。お前は化けもんか。」 疲労困憊の俺がそこら辺に転がっている春雨連中に混じって ドカッと座り込みながらそう言えば、 神威は「化け物は銀さんの方だろ」と言ってケラケラ笑いだした。 一体何が可笑しいのやら……俺には全く理解できないね。 そんな事を考えながら俺がふぅ、と溜息を吐くと、 後ろからの『銀時!!』という声が聞こえてきた。 その声に俺と神威が同時に後ろを振り向けば、 が心配そうな顔をして俺たちの方に駆け寄ってくるところだった。 『銀時大丈夫!?怪我とかしてない!?』 到着と同時に俺の傍に膝をついてオロオロと全身を見回すに、 俺は「心配ねぇよ」とだけ言ってすぐに視線を神威に向けた。 「そーいやぁお前はどうなんだよ?怪我とかしてねぇの?」 「俺がそんなヘマするわけないだろ? いくら手加減したからって、そこまで甘ったれじゃないよ。」 神威のその言葉に、は驚いて神威の顔を見た。 そしてすぐに何かを確認するかのように辺りに転がっている天人共を見渡した。 『……みんな、死んでない……?』 はそう呟いて、もう一度神威の顔を見た。 すると神威は顔に付いた血を拭いながらの傍へ腰を落とす。 「戦うのと殺すのは違うんだろ?」 にこにこと笑いながらそう言った神威に、は呆然として言葉を紡いだ。 『うそ……手加減……したの?』 「またに泣かれたら困るからね。」 神威のその言葉に、は心底驚いているようだった。 「俺はほしいものは力づくでも手に入れる主義だ。 例え相手を壊してでも、邪魔するものを殺してでもね。 でも、それじゃあは手に入らない。 もし手に入ったとしても、それはであってじゃない気がするんだ。」 そこまで言って、神威は笑顔を取り払った。 「だからの頼み、聞くことにしたよ。 俺は今日から出来るだけ人を殺さない。勿論、天人もだ。」 『…………!』 真剣な表情で言い切った神威に、は目を見開いた。 『か、神威……。』 まさかは自分の為にコイツがここまでするなんて思っていなかったんだろう。 ついさっきまで他人を殺す事になんのためらいもなかった男が、 今はわざわざ手加減してまで相手を殺さないようにしている。 その事実があまりにも信じがたくて受け止めきれていないは、 ただ神威を大きな瞳で見つめることしか出来ていなかった。 「その反応はOKと取ってもいいのかな?」 『えっ?』 驚きのあまり呆然としているを眺めていた神威が、 急に普段どおりの笑顔に戻って嬉しそうにそう言った。 そんな神威の様子に、は驚いた声をあげる。 『お、OKって、何が?』 「今の言葉で、俺に惚れただろ? だから抵抗せずに俺の嫁になってくれるよねっていう話。」 『はっ、はぁ!?アタシがいつアンタに惚れたのよ!!』 「え?今。」 『惚れてない!!』 にこにこと自信満々に言い放つ神威に、 は相変わらず顔を真っ赤にしてそれを否定した。 「本当に惚れてないかい?今の表情はキたと思ったのになぁ。」 『そっ、それは……まぁ、見直しはしたけど……。』 「見直したと惚れたってどう違うんだよ。」 『全然違うわよ!!バカ!!』 照れ隠しなのか本気なのか、は思いっきり神威を怒鳴りつけた。 そんな2人の様子に、俺は思わず頬を緩ませて溜息を吐く。 一時はどうなる事かと思ったが、 とりあえずのほとぼりが冷めたみたいなのでよしとしよう。夜兎の血と戦う覚悟
(あれっ、さんが真っ赤になってる) (どうやら仲直りしたみたいアルな。別にしなくて良かったのに) (あれれ?そう言う神楽ちゃんの顔がちょっとニヤけてるのはどうしてかな?) (うっ、うるさいネこのダ眼鏡!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 聖なる夜に、お兄さんの静かな決意。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/12/25 管理人:かほ