『だーかーらー!アタシは神威と結婚する気なんかないんだってのー!』 そこら辺に無造作に倒れている敵を 銀さんと神楽ちゃんが一箇所に集めて山を作る作業をしている中、 さんと神楽ちゃんのお兄さんはまだ惚れた惚れてないの口喧嘩を続けていた。 ちなみに僕はソファに寝かせた社長さんを見守る係だ。 あっ、あと、目の前で繰り広げられているさんとお兄さんの喧嘩を見守る係。 「何でかたくなに拒否するんだよ。俺ちゃんとのために頑張ってるだろ?」 『そっ、そりゃ手加減したのはビックリしたけど……それとこれとは話が別! っていうかそもそも神威が地球に留まらなければ さっきの師団員たちは来なかったのよ!?』 「俺がの傍に居なかったら今頃この会社はぶっ壊されてると思うけど。」 『そっ、それは……。』 相変わらずのニコニコ顔で正論を返したお兄さんに、 さんは困った顔をして口ごもってしまった。 確かに、お兄さんが居なければ最初の玄関前の敵襲で負けていたかもしれない。 お兄さんが居たからこそ僕達は全員無傷でこの場に居ると言っても過言ではないだろう。 そう考えると、お兄さんが僕達の味方として地球に留まっているのも、 案外悪いことではないのかもしれない。 『とっ、とにかく!神威はさっさと春雨に帰って、 社長さんの命を狙ってる奴等を説得してきてよ!絶対その方が早いし!』 先ほどのお兄さんの言葉を振り解くようにそう言ったさんに、 お兄さんはやっぱりニコニコと笑って何の恥ずかし気もなくこう言った。 「嫌だよ。俺が帰ったらに変な男が寄ってくるかもしれないだろ? そんなの耐えられない。を押し倒していいのは俺だけだ。」 『なっ……!?』 お兄さんの言葉に、さんはまた顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。 きっともうさんがお兄さんに口で勝てる日は来ないんだろうと思う。 だってさんは超がつくほどの恥ずかしがり屋で、 それに対抗するお兄さんの愛情表現は超がつくほどストレートだからだ。 「オイテメー等、いつまでイチャイチャしてるつもりだ。」 さんがお兄さんに向かってやっとの思いで 『アンタはまたそんな恥ずかしいことを……!』と唸っていると、 遠くの方で春雨山を作っていた銀さんが ちょっとだけムッとした声でさんたちに声をかけた。 「痴話喧嘩は後でいいから、さっさとコイツ等片付けんの手伝えよ。」 『誰が痴話喧嘩してるって!?』 やる気のなさそうな銀さんの声に、 さんはイラッとした様子で銀さんに向かってそう叫んだ。 すると銀さんの隣で春雨の師団員を3人くらい持ち上げた神楽ちゃんが、 嬉しいのを押し殺したかのようなぶっきら棒な顔でお兄さんを睨みつけた。 「オイバカ兄貴、自分が倒した奴は自分で片付けるヨロシ。」 「嫌だよ面倒くさい。そもそも何でソイツ等片付けてるんだよ。 気絶してるんだから放って置けばいいじゃないか。」 「バカ言うんじゃないネ!このままだと邪魔だろーが! こんなに散らかった部屋じゃ鬼ごっこも出来ないアル!」 「いや、こんなところで鬼ごっこなんてしようとも思わないけどね。」 神楽ちゃんの言葉に僕が冷静にツッコめば、さんはやれやれと肩をすくめた。 そしてさんが銀さん達の手伝いをする為にその場で立ち上がろうとした時、 突然お兄さんがさんの腕をガッと掴んだ。 『ちょっと何すんのよ、離して。って言うかアンタも一緒に片付けなさいよ?』 お兄さんがまたさんと離れるのが嫌で腕を掴んだのだと思ったさんは、 『またか』とでも言いたげな表情で溜息混じりにそう言った。 しかし当のお兄さんはそんなさんには目もくれず、 先ほどの爆発で粉々になった窓の方を真剣な面持ちで凝視している。 そんなお兄さんの異様な様子に、 僕たちは若干緊張しながらもお兄さんと同じ場所に視線を移した。 すると、そこには今まで居なかったはずの男が立っていた。 「誰だ、テメェ。」 銀さんが相手と距離をとりながら張り詰めた声でそう言えば、 窓の傍で立ってた男がゆっくりと顔を上げた。 その顔色は真っ黒で、目は不気味な紫色だった。 2mはあるだろうかと思わせるほどの長身に、真っ黒で飾り気のない服装。 その姿はどこからどう見ても普通の人間ではなかった。 「第七師団師団長、神威様。元老より帰還命令が下っております。」 その巨体と相応の重低音を響かせて、男は静かに僕達の方に歩み寄ってきた。 「、俺の後ろに隠れるんだ。」 『ちょっ、ちょっと、神威……。』 あのお兄さんが珍しく眉間にしわを寄せながら、 目線は真っ黒な男のままでさんを自分の後ろへと追いやった。 今までどれほど大勢の敵がやって来ようとも決してその笑顔を絶やさなかったお兄さんが、 今やたった一人の黒い男相手に信じられないほど真剣な顔をしている。 よっぽど強い相手なんだろうと、自然と僕達の間にも緊張が走った。 「お前、春雨の暗殺部隊の奴だろ?俺1人を連れ戻すために元老もやってくれるね。」 やっと普段の笑顔に戻ったお兄さんが男にそう声をかければ、 男は僕たちから5m程離れたところで立ち止まった。 「私の任務はあくまでも貴方様を連れ戻すことです。 抵抗がなければ手を出すなと言われております。」 「俺には、だろ?お前等の卑劣な仕事っぷりは噂で聞いてるよ。 任務遂行のためなら関係ない人間を殺すこともいとわないってさ。」 お兄さんのその言葉を聞いた瞬間、 何でこの恐ろしく強いお兄さんが真剣な表情になったのか合点がいった。 どうやらこの黒い天人の男はそこそこ強い上に、 周りの人間を殺すことを何とも思わない奴らしい。 つまり、お兄さんを連れ戻すためならさんを殺すこともいとわないと。 だからこの男の姿を確認した瞬間、お兄さんはさんを自分の後ろに隠したんだ。 『神威、あの人、アンタを連れ戻すためだけに来たの?』 お兄さんの後ろに隠れているさんが、男と睨みあっているお兄さんにそう尋ねた。 その表情には緊張の色は見えず、それどころか落ち着き払っているようにも見える。 「そうだよ。アイツ等は基本的に対団員用の部隊だからね。」 『じゃあアンタさえ帰ればあのおっかない人も帰るってこと?』 「そうだろうね。アイツ等任務を遂行することしか頭にないから。」 そんな会話を繰り広げたかと思ったら、 さんはいきなり目の前のお兄さんを突き飛ばした。 「ありり?」 突き飛ばされたお兄さんはよろめきながらも体勢を立て直し、 黒い男の真正面で引きつったように笑った。 『だったら神威が帰れば全て丸く納まるじゃない!! やっぱりアンタ帰りなさい!そして社長に手を出さないように言ってきて!』 「、そりゃないんじゃないの?」 困ったように苦笑してさんに振り返るお兄さんの後ろには、 突然のことにポカンと口を開けている銀さんと神楽ちゃんの顔が見えた。 『アンタがここに居るとどんどん敵がグレードアップしていくのよ! 最初は雑魚だったのに今度は暗殺部隊って何よ!やっぱりお前は帰れ!』 「酷いなぁ……流石の俺でも今回ばかりは傷つくよ?」 『傷つきなさい!』 「そんなぁ……。」 スッパリと言い切ったさんを、お兄さんは眉をハの字にして見つめていた。 その顔も雰囲気も完全にただの男の人そのもので、僕は少しだけ面食らってしまった。 さっきまであんなにお兄さんのことを怖いと思っていたのに、 今さんと話しているお兄さんのことは全然怖くない。 あの柔らかい表情はさんだけに向けられるものであると分かっているのに、 どうしても今のお兄さんに恐怖を抱く気にはならないんだよなぁ……。 銀さんもさっきお兄さんが少しずつ変わってきてるって言ってたし、 もしかしたら本当に神楽ちゃんと和解するんじゃないだろうかと思えてきた。 それもこれも全部ひとえにさんの影響だとするならば、 今ここで2人を引き離してしまってもいいものなんだろうか。太陽から離れた月の行方
(何だかんだ言ってさんも嫌じゃなさそうだし、) (どうにかしてあの黒い男の人だけを帰らせることは出来ないんだろうか……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 神威ってやっぱり春雨では様付けなのかな? ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/12/25 管理人:かほ